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選んだキーワード・・・SNP bronchial asthma
SNPとは遺伝子多型のことであり、この遺伝子の微妙な違いによって同じ薬剤に対しても感受性が違ったりする。
bronchial asthmaとは気管支喘息のことである。
今回選んだ論文は、遺伝子多型と気管支喘息、気管支拡張薬との関係を人種とも関連づけて調べたものである。おおまかな内容として人それぞれの遺伝子の型の違いを研究してある人種、この場合はアメリカ黒人、での喘息疾患との関係を統計学的、科学的に調べ上げ、オーダーメイド治療に役立たせると共に、疾患と遺伝子型との関連は遺伝子型のみではなく、人種、民族にも関連があるということを証明したものである。
喘息とは複雑な疾患であり、複数の疾患に関する遺伝子座と環境リスク要因から影響をうける。β2アドレナリン受容体(β2AR)は、喘息関連表現型に関係があるとほぼ一貫して目されてきた候補遺伝子の1つである。β2AR遺伝子は、さまざまな組織でカテコラミンの作用を媒介するG蛋白質結合体の仲間である。β2AR蛋白質は気管支の平滑筋細胞で発現し、気管支拡張、血管拡張、脂肪分解などの生理反応を媒介する。本研究では、7個のβ2ARSNPについて遺伝子型を決定し、さらに混合背景と環境リスク要因との関係を調整して、喘息関連形質とβ2ARSNPとの遺伝子型およびハプロタイプの関連について試験を行った。結果として、アメリカ黒人の喘息患者における気管支拡張薬の反応性に関連する形質において、SNP-47(Arg-19Cys)が重要な役割を果たしていることが判明した。
遺伝子型の決定は情報提供性、生物学上の機能の可能性、およびSNPにまたがるLDパターンに基づいて選定した。また、患者と対照には、性別比率、社会経済的地位および混合背景の相違はないようにしてある。
実験内容は、喘息患者に対し、β2ARSNP変異体と喘息の重傷度との関連を試験するため、喘息疾患状態とβ2AR変異体との遺伝子型関連に関する試験を行うものである。また、年齢、性別、社会経済的地位、喘息期間、喘息薬物の定期的使用、混合背景など、共通の変量を使用して、さらに薬物反応性とβ2AR遺伝子多型性の関連試練では、モデルの肺機能に対応する変数も調節した。
そして、喘息関連表現型を基線肺機能に関する形質と、気管支拡張薬の反応性に関する性質とにわけて実験した。すると、患者と対照ではSNP+46(Arg16Gly)とSNP+523(Arg175Arg)座で著しい対立遺伝子頻度の相違があることが証明された。しかし、アメリカ黒人でSNPと喘息疾患との間に関連はないことが判明した。また、ハプロタイプの組み合わせとの関連性は見出せなかった。ハプロタイプとは遺伝子型の組み合わせのようなもので、通常遺伝子は対をなしていて、例えば対立遺伝子のSNPの違いによっては同じ遺伝子でも異なる作用を発揮したりする。
次に、β2AR遺伝子変異体と表現型の関連について試験を行った。その結果は、遺伝子型分析の結果と一致した。つまり、遺伝子型と表現型が一致するということなので、遺伝子型を調べて研究するのに差し支えはないということになる。ベータ2AR遺伝子変異体と気管支拡張薬との関係を調べたところ、SNP−47(Arg19Cys)のみが、気管支拡張薬の反応性に関する変数の組み合わせにおける成分と関連していた。
まとめると、β2AR遺伝子の7個の遺伝変異体と、アメリカ黒人集団の喘息関連表現型との関連を調査した。すると、SNP―47(Arg19Cys)と、気管支拡張薬の反応性との間に有意の関連を発見した。この観察は、ハプロタイプ分析でも確認された。つまり、SNP-47(Arg19Cys)が対立遺伝子の片方にでもあればその作用を発揮し、二つともSNP-47(Arg19Cys)であればその作用はより高まるということになる。喘息診断と、7個のβ2AR遺伝変異体との研究では、いずれの遺伝子型との関連も発見できなかった。また、この研究によってアメリカ黒人喘息患者におけるβ2.アドレナリン受容体多型性と気管支拡張薬の反応性の関連を調査する際の重要な証拠が得られた。昔は、個々のSNPではなく、ハプロタイプが気管支拡張薬の反応性に関連する治療発現型に影響を与えている可能性を示していた。それとは対照的に、当方の結果から個別のSNP、すなわちSNP−47(Arg.19Cys)が、アメリカ黒人喘息患者における気管支拡張薬の反応性を調節している可能性のあることが示された。以前の研究で、プエルトリコ人とメキシコ人のβ2AR変異体と気管支拡張薬の反応性に関し、民族特有の薬理遺伝学上の相異があることを証明した。SNP+46(Arg16Gly)は、プエルトリコ人の場合は気管支拡張薬の反応性と関連があるが、メキシコ人の場合は無関係であることが分かった。本研究で、SNP+46と喘息関連形質の関連は、我々のアメリカ人コホートでは観察されなかった。異なる集団における対立遺伝子頻度の著しい相異は、喘息の疾患率と死亡率、ならびに薬物反応性で観察された民族特有の相異の要因である可能性がある。これらの知見は、異なる集団における喘息疾患率と薬理遺伝学的反応性に関する民族的相異を調査することの重要性を強く示している。簡潔に言うと同じ遺伝子型だからといっても、民族,人種によってはその働きが同じであるとは限らないということである。
つまり、7個のβ2AR多型の遺伝子型を決定し、アメリカ黒人集団におけるこれらSNPと喘息関連表現型との関連を行うと、SNPー47変異体は、気管支拡張薬の反応性に関する形質と有意に関連していることが判明した。また、アメリカ人集団では、β2AR遺伝変異体が気管支拡張薬の反応性に影響を及ぼすと言える。我々の結果は、気管支拡張薬の反応性はさまざまな集団で異なるβ2AR遺伝変異体と関連していることを示していた。さまざまな集団の喘息に対し、遺伝変異体の調査が重要であることが強く示されている。
つまり、現在医療技術は、一人一人の遺伝子を調べて、その人に最適な治療を施すという、いわゆるオーダーメイド治療の研究が進んでいるが、このときに単に遺伝子型だけを見るのではなく、その人の属する集団(人種や環境)も考慮にいれなければならない、ということになる。単にある遺伝子の型がこうだからこの症例ではこうなる、ということが一概にはいえないということが証明されたからである。それでも今日の科学技術の進歩はめまぐるしく、このように複雑に入り組んだ問題も、完全に解明されるまでそう長くはかからないだろう。近い将来にはオーダーメイド治療がより適応力を持ち、低コスト化も進んで一般的に普及されるようになるだろう。それによって救われる人もたくさんいることだろう。自分に一番最適な治療が受けられるわけだし、何よりのメリットは、自分の遺伝子タイプを知ることで、自分のかかりやすい病気もわかり、日頃から気をつけることによって病気を防ぐことができる、つまり一次予防を効率よくこなすことができる。しかし、メリットがあればデメリットもある。科学の進歩は確かに素晴らしいが、使い方を誤ると大惨事になりかねないということを理解しなければならない。誰もが知っている例を挙げると、20世紀に科学技術は大いに進歩し、人類に貢献してきたが、その一方では地球温暖化や核兵器の使用など、マイナス面も数多くある。医療技術の進歩も然りである。人の命を救うためなのだからデメリットなんかないという人もいるが、このまま遺伝子技術が発展していけば、必ずどこかでしっぺ返しをくらうはめになるだろう。なぜなら、医療の目的は人の命を救うことで間違いはないのだが、それの最終段階として考えられることは死ぬことのない生命体、つまり不老不死に他ならないからである。もし人類が不老不死になってしまうと何が起こるのか、想像するのは容易である。食糧問題、これは科学技術でどうにか埋め合わせができるとして、最も重大な問題は、人間らしさ、人としての質の低下である。人もどんな動物もいずれ必ず死を迎える。だからこそ限りある生を一生懸命生き抜こうとするし、己の種を保つために子孫を残そうとする。死のない人生は恐らくとてつもなくつまらなく、むなしいものになるだろう。理性やモラルも低下し、犯罪は増加し、いずれ世界は滅びるだろう。人を救うための技術を発展させて、結果、人を滅ぼすようになれば、支離滅裂もいいところである。
結局、遺伝子多型、つまりSNPの研究によって生み出されるメリットは計り知れないが、その使い道を絶対に誤ってはいけないのだ。あくまでもこの研究のようにSNPの型と各々の疾病、薬剤などとの関連を調べ、治療に役立たせたり、一次予防に気を使わせるなどに留めておくべきであり、間違っても自然の摂理に逆らうようなことはするべきではない。確かに人間の能力は優れていて、科学の進歩に限りはないが、人が全知全能でありこの世で一番優れているなどというのは思い上がりも甚だしい。はっきりいって地球からみて一番有害な存在は人なのである。しかし存在してしまっている以上は我々にも必死に生きる権利はあり、あくまでも生活の質を高めるため、という目標を持ち、このような研究を押し進めていくことは素晴らしいことだと思う。
つまり、何事もいきすぎはよくないわけで、ほどほど、というわけではないがその物事の本質を見極め、長い目でみてよく考えることが一番重要だと思った。物事を考えて理解し、本能ではなく理性とロジックでそのものの本質を捉え、考えて行動できること動物の中で人間が優れているといわれる理由なのだから、と思った。