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予防と健康管理レポート
〜遺伝子治療とその問題点について〜
1. はじめに
今回、予防と健康管理のブロック講義の中で、4月7日と、4月14日に供覧したビデオについて、科学論文を参照して、レポートを作成する。ビデオの内容は水俣病を取り上げた公害病についてのと、遺伝子レベルでの個人差についての2本でした。私は、特に後者のビデオの内容興味をもった。最近は、オーダーメイド治療などが注目を集めている中、私も、分子生物学や、生化学で遺伝子について触れ始め、とても身近な内容であったためである。
4月14日に供覧したビデオでは、「痩せ易い人と、痩せ難い人との違いは遺伝子である。」など大変親しみやすい切り口をいくつもしていたが、我々、医学へと進む者には、同じ内容でも考えるべきことが山ほどあると思われる。健康を規定する要因の元となるのが遺伝的素因であり、それに生活習慣や、物理化学的環境、生物学的環境、社会経済的環境や医療や公衆衛生の水準などが加わり、人の健康状態が作られるのである。そのような目線で考えることを今回のレポートを通してできたらよいと思う。
2. 選んだキーワード
「SNP」 「pollen allergy」
今回、これらのキーワードを選んだ理由は、4月14日に供覧したビデオでの内容をもう少し掘り下げた内容のキーワードを選択したいと考えたためである。日本語訳にすると「一塩基多型」と「花粉症」である。毎年、ある季節になると、鼻をぐじゅぐじゅさせ、目を真っ赤にして苦しんでいる「花粉症」の人は、私の周りにもよく目にする。その原因が「一塩基多形」では、ないのかと推測したのもこれらのキーワードを選択した理由でもある。
もともと、一塩基多型は遺伝子多型のひとつである。集団の中である塩基の変化が1%以上の割合で含まれ機能的に大きな違いがない場合「遺伝子多型」といわれる。遺伝子多型は、機能的に大きな影響が出ない場合、そのような変異を持った個体が排除されないので集団の中で保存される。またその中で、特にたった一つの塩基が異なる場合を「SNP(single nucleotide polymorphism)」という。極端な場合には日本人の集団の中で約半数ずつの人に見られ、タンパク質に機能も大きく変わらない場合、どちらが正常で、どちらが変異かなんていえない事もある。タンパク質の機能が大きく変わらないといっても、明らかに異常とわかるほどには変わらないと言うことだけのことであって、糖尿病、高血圧、肥満、白内障、癌など、いろんな成人病になりやすいかどうかの体質も同様に、複数の遺伝子における遺伝子多型の違い、それに基づくわずかずつの機能の違いが反映されていることがわかってきている。その中にアレルギー性鼻炎つまり、花粉症も入っていないのか興味をもった。
3. 選んだ論文の内容の概略
選んだ論文は、「The suggestive association of eotaxin-2 and eotaxin-3 gene polymorphisms in Korean population with allergic rhinitis」という論文でWonkwangs大学医学部のHun-Taeg Chung先生らによって書かれたものであった。この論文の内容の概略についてであるが、題名を訳すと、「アレルギー性鼻炎をもつ韓国人を示唆する遺伝子多形、エオタシンー2とエオタシンー3について」みたいなところであると思う。エオタシン遺伝子ファミリー(エオタシン、エオタシンー2、エオタシンー3)は、アレルギー疾患の中心の様相である好酸球、好塩基球とTh2リンパ球の反応に関わっている。エオタシンとは、クラスCCケモカインであり、内皮細胞、単球、上皮細胞、T細胞が産生し、CCR3レセプターで、好酸球、単球、T細胞に結合する。アレルギー性鼻炎は、W型免疫応答に含まれ、免疫応答細胞はTh2リンパ球であり、可溶性抗原であり、エオタキシンを産生し好酸球の活性化が起こり、サイトカインや炎症性伝達物質が産生され組織傷害が起こることによって起こる。エオタシンー2とエオタシンー3遺伝子のSNPがアレルギー性鼻炎への感受性に関わっているかどうかを決定するために、178人アレルギー性鼻炎の患者と、281人のコントロールの人に直接塩基配列決定法と、SBEを使い塩基配列を調べた。コントロールの人とアレルギー鼻炎の人の、エオタシンー2の+179T>C変異と+275C>T変異と、エオタシンー3の+2497T>G変異の単相型頻度差を計算した。全体的なコントロールの人と、アレルギー性鼻炎の人の単相型頻度差は大差はなかった(P=0.0001)。しかし、アレルギー性鼻炎の人の、エオタシンー3の+2479T>G変異の遺伝子型頻度は、違っていた(P=<0.0007)。よって、エオタシンー3のSNPは、アレルギー性鼻炎の感受性に関わっていると考えられる。
4. 選んだ論文の内容と、ビデオの内容から、自分自身で考えたことを将来医師になる目で捉えた考察
今回、選んだ論文にしても、4月17日に供覧したビデオにしてもそうだが、キーワードとして「遺伝子」というものがあげられる。これからの時代は、遺伝子が、病気の診断や予防、または治療にまで密接に関わってくると考える。選んだ論文の内容で言えば、エオタシンー3の+2479がGの変異の人がアレルギー性鼻炎の治療を求めているのなら、そこをTに戻してやれば、もしかしたらアレルギー性鼻炎は治るかもしれない。現に、そのような遺伝子治療は現実に使われようとしている。
遺伝子治療の一つに、先天性免疫不全症の治療がある。先天性免疫不全症の治療のメインとしては、骨髄移植があげられる。骨髄移植で欠損細胞を補う方法だ。しかし、この治療の大きな難点は、MHCの多形性である。治療が有効となるためには、移植片と宿主の間で、MHC対立遺伝子が共通のものでなければなれないなどの問題がある。そこで今日では、特異的な遺伝子欠損が見つかると、これらの免疫不全症について違ったアプローチを取ることができる。患者自身の骨髄細胞を採取し、欠損遺伝子に対応する正常遺伝子をそれらの細胞に導入しこれらの細胞を患者自身の戻してやる、この処置が体細胞遺伝子治療である。これにより遺伝子欠損などの治療になるであろう。しかし、このような治療法は、骨髄幹細胞への効率のよい遺伝子導入が難しく実用にはいたっていない。最近は、遺伝子をクローニングするために、宿主細胞に簡単に取り込まれ、ゲノムに組み込まれるウィルスベクターなどが用いられている。
他にも、三大死因のトップを占める悪性新生物、つまり癌についても遺伝子治療が考えられている。癌細胞に正常なp53などの癌抑制遺伝子を導入して大量に発現させれば、癌細胞はアポトーシスをおこしたり、増殖停止するかもしれない。この方法にも問題があり、すべての癌細胞に遺伝子導入できるかという点や、導入効率を上げるために使っているウィルスベクターの安全性に疑問がもたれている。
今あげた遺伝子治療には、他にも問題がある。それは、遺伝子治療という先端医療技術と社会との関係についてである。大きく分けて3つの問題点があると考えられる。1つ目は、先端医療がそれまでの社会の基本となってきた、生命や死についての価値観を揺るがし始めている点である。遺伝子治療が広まってきたら、人生の早期に遺伝子診断を受け、なりやすい生活習慣病などが察知され、それに合わせたライフスタイルによってそれらの疾患は減るであろう。しかし、人生の早期に遺伝子診断を受けることによって、悪性の予後の悪い遺伝性疾患が見つかってしまった場合、その人の人生の将来を早期に決定してしまうことになるであろう。他にも、遺伝子診断によりその人の能力を判断することにもなるかもしれない。また、遺伝子導入が完全に行えるようになれば、生殖細胞への遺伝子導入がおこなわれ、人工の遺伝子が、次世代にずっと受け次がれていくということもありえる。そのような、倫理的な問題もある。
2つ目は、そのような先端医療技術を行う、プロッフェショナルな人々が、研究や開発などの意思決定をしてしまう可能性についてである。遺伝子治療などは、これからの人類の将来を左右するような問題であるが、社会的な認知度は高いとはいえない。これらの決定に対して、もっと社会的な意見が必要であると考える。
3つ目は、医療格差についてである。遺伝子治療などが一般化されると個別医療費などの増大が起こり、それにより、先端医療を受けられない人が増加するであろう。現在でも、臓器移植などの問題でそのような医療格差が見られていると感じている。医療の平等性の問題でもある。
遺伝子治療はとても可能性のある医療であることは、確実である。三大死因一位の癌の治療についてもそうであるし、先天性の致死性遺伝子疾患の治療、生活習慣病の予防にも効果がある。もちろん、アレルギー性鼻炎についてもそうであろう。しかし、上でも述べたが様々な問題点があることは否めない。そのような問題点を置き去りにしてまで、この遺伝子治療を行うことは望ましいとは考えられない。医療技術は人間の根本を触れる所まで来ていると考える。そのような所なのだから、もっと議論の余地は十分にあると思う。
5. まとめ
今回は、遺伝子治療について問題点を中心としてあげてきたが、遺伝子治療については、メリットは、山ほどあると思う。また、今回のレポートに上げなかった問題点もあると思われる。私の、学習量が足りないためである。これからも、興味を持って学習していきたい。今回のレポートを書いた経験を元に、小さな点でも勉強へと結び付けていきたいと思う。また、将来医師となる目線を常にもっていけば良い勉強になるはずである。