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1. はじめに
このレポートでは、「水俣病」「オーダーメイド医療」に関する映像、そして『公害』『小脳』の2つのキーワードから検索された「片頭痛の分子遺伝学」「孤発性Creutzfeldt-Jakob病」という2つの論文に対して考察していくものである。
2. 選んだキーワード
「公害」「小脳」
3. 選んだ論文の内容の概略
【ポストゲノム時代の神経疾患の分子遺伝学】 片頭痛の分子遺伝学
著者:高橋哲哉(新潟大学脳研究所 神経内科)
雑誌名:神経研究の進歩(0001-8724)48巻5号 Page707-713(2004.10)
論文種類:解説/特集
要旨:片頭痛は環境要因に加え遺伝的要因の関与が示唆されている.近年,家族性片麻痺性片頭痛(FHM)の原因としてP/Qタイプカルシウムチャネルα1サブユニット遺伝子(CACNA1A),およびナトリウム/カリウムチャネルα2サブユニット遺伝子(ATP1A2)の点変異が明らかになった.CACNA1A遺伝子は脊髄小脳変性症6型の原因遺伝子でもあり,同遺伝子に変異を持つFHM家系では脊髄小脳変性症類似の表現型を示すことが多い.チャネルの機能異常が片頭痛発作,あるいは小脳変性の原因である可能性があり,病態解明や新たな治療法の開発が期待される
【プリオン病の新しい展開】 孤発性Creutzfeldt-Jakob病
著者:山田正仁(金沢大学 大学院 医学系研究科 脳老化神経病態学)
雑誌名:最新医学(0370-8241)58巻5号 Page986-994(2003.05)
論文種類:解説/特集
要旨:孤発性Creutzfeldt-Jakob病(CJD)はヒトのプリオン病の約8割を占める.典型例は亜急性の痴呆,ミオクローヌス,小脳・視覚・錐体路・錐体外路症候,脳波上の周期性同期性放電を呈し,数ヵ月以内に無動無言状態に陥り,海綿状脳症,シナプス型のプリオンタンパク(PrP)沈着の病理像を示す.それ以外に様々な臨床亜型や非典型例が存在する.孤発性CJDの表現型はPrP遺伝子コドン129多型及びPrPのウエスタンブロットのパターンと関連し,それに基づく分類が用いられている。
4. 選んだ論文の内容と、ビデオの内容から、自分自身で考えたことを、将来医師になる目で捉えた考察
家族性片麻痺性片頭痛(familial hemiplegic migraine:FHM)の原因遺伝子がCACNA1AとATP1A2であることが解明された。今後は、より一般的な片頭痛の遺伝子解析に研究が発展していくことも予想される。一例として、これらの遺伝子の多型が片頭痛の危険因子になるということも考えられる。現在、診断においては、一部の症例を除いて問診が最も重要である。遺伝子検査により、CACNA1AあるいはATP1A2遺伝子の点変異を証明することが可能であるが、これらの遺伝子についても変異部位は多数あり、未知の変異もあると予想されること、FHMの30〜40%ではこれらの遺伝子に変異はないと考えられていることにより、遺伝子検査のみで全例が確定診断できるわけではない。そして、治療に関しては、これまでFHMの治療について多数症例での検討はなされておらず、十分なエビデンスを持ったものはない。片麻痺性片頭痛発作の予防および症状の軽減に、acetazolamideの経口投与が有効であったとする複数の報告や発作時にverapamilやtriptan系薬剤が有効であった少数の症例があるが、いずれも効果・副作用とも検討が十分でない。
上記のような論文の内容から考えてみると、分子遺伝学の更なる発展が、片頭痛の新たな治療法の発見につながると期待される。そして、研究が進めば、将来的にオーダーメイド医療も可能であると思う。ビデオで見た内容のように、遺伝子検査では片頭痛になる確率を診断し、治療においてはその人に最も適した薬の選択ができるだろう。
オーダーメイド医療とは、前述したように人によって薬の選択をしたり、遺伝子検査で病気になる確率を診断するといった、個人の遺伝子を調べることでできるだけ副作用が少なく効果的な治療をすることである。治療をするという点においては、患者にとっても医師にとっても最適なものを施すことができる。しかし、一見すると長所ばかりに眼がいくが、オーダーメイド医療の本格的な実施にはいくつか疑問点もあると思う。ひとつは、遺伝子診断によって差別が生まれないかということだ。例えば、ハンセン病は、現在治療法が確立されたにも関わらず、未だに差別がなくなったとは言い切れない。また、遺伝病のために結婚や、就職が困難である場合が現状でも存在する。このような差別を防止するためには、情報の保護や教育が必須であると思う。二つ目は、遺伝子診断から治療法を選ぶことから、将来的に遺伝子そのものを治療していくことになるのではないかということだ。現在でも、神経性の難病などで遺伝子治療の研究は進んでいるが、この治療が子孫につながっていくものにまで広がると、生命倫理についても考えていかなくてはならない。生命を都合よく作り変えて良いのか、生命の選別、障害者・病者への差別につながらないか、子孫に遺伝子治療の結果が遺伝した時、問題が生じないか等、問題点は尽きない。このような問題と向き合い、常に命の尊厳を常に忘れずにいることが、これからも医学が進歩していく上で必要だと思う。
「不信の連鎖 水俣病は終わらない」の映像を見て、私が感じたことは、まず、政府の対応が遅すぎるということだ。水俣病の公的発見の第一例が1956年であり、政府が水俣病の原因は工場廃水の有機水銀であると公式に認めたのは1968年だが、その間実に13年もの年月がたっているというのは、政府の対応の仕方に問題があったとしか言いようがない。また、政府解決策として、今後補償を巡る紛争を起こさないことを条件に、チッソと協定を結び、一時金260万円を受け取るという妥協案で水俣病問題を終わらせようとしたことにも問題があったと思う。しかし、水俣病の関西訴訟後、県が新たな救済案を示したことは、今後被害者と政府との関係を改善し、問題を解決していく第一歩となったのではないだろうか。
そして、水俣病は医療の問題だけで済ませられるものではない。水俣病の根本的な原因は工場廃水の有機水銀であったが、直接的な原因は水俣湾の魚を食べることによる食中毒だった。そのために、漁獲禁止の適用が被害拡大防止の柱であったわけだが、簡単に漁獲を禁止するといっても水俣湾で漁業をして生計を立てていた人はすぐに職業を変えられるわけではないから、そういう経済的な問題もあっただろう。また、水銀で汚染された水俣湾をどうするのかという環境問題もあったと思う。このように、公害病というのは、感染症や伝染病などと違う面での問題も抱えているのだと分かった。水俣病だけではなく今までの公害病から今後どうするべきかを学び生かしていくことが大事なのだと思う。
孤発性Creutzfeldt-Jakob病は、ヒトのプリオン病の中の80〜85%を占め、ヒトのプリオン病の中核をなしている。私は、この論文を読むまでてっきりその原因はBSEに感染した牛肉を食べることで発症するものだと思っていたが、それは新変異型Creutzfeldt-Jakob病に分類されると知った。孤発性Creutzfeldt-Jakob病の場合の原因は、異常なプリオン蛋白の蓄積であると考えられているが、どのような機序で感染し発症するのか分かっていないというのが現状である。孤発性Creutzfeldt-Jakob病の発症に影響する因子として、コドン129多型や手術歴などがあげられているが、診断については、非典型的な病像を呈し診断がなかなか困難な例があること、たとえ典型例であっても、診断がつく時期には病状がある程度以上進行して臨床兆候や検査所見が出揃った段階であり、脳はすでに荒廃した状態にあることなどの問題があり、より早期から感度よく確実に診断できる方法の開発が課題である。年間100万人におよそ1人と、まれな疾患ではあるものの、治療法が確立していない現在、有効な治療・予防法の開発が急務となっている。また、起こり方は違うものの、わが国でも本年9月以降3頭の「狂牛病」の発生が確認されたことから、今後わが国でも新変異型Creutzfeldt-Jakob病の発生の可能性が取りざたされていることから、プリオン病全体を視野に入れて有効な治療・予防法の開発を進めていくべきだと思う。
5. まとめ
このように、医学が進歩した現代でも、未だに治療法の確立されていない病気は依然として存在する。また、オーダーメイド医療は将来主軸となっていくにちがいないが、まだまだ解決していかなくてはならない点が多々ある。そして、水俣病のように、社会的に終わったとは言い切れない病気もある。これらのことから、今後医師は、多角的な視野で医療に従事することが必要となるだろうと思った。