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T.はじめに
今年から初めての試みとして、各自がそれぞれ論文を和文では二編、英文では一編を読んでレポートとして提出させる課題を課せられました。私は三年生、二回目ともあり新たな心境で胸いっぱいであるとともに、今回のレポートは、なにかと今までに無い方式であるので不安でありますが、図書館に出向き書庫たるものに入りパソコンと広い図書館の中から今回の課題に沿った論文を探し出しました。
今回の私に課せられた課題は、中毒―毛髪でした。これをたくさんある課題の中から選んだ理由は今回大槻教授の講義の中で見たメチル水銀による水俣病の検査方法に直結すると思ったからです。体の一部でありながら、今現代では、ファッションの対象でしかない髪が果たして医学的にどのような働きを担っているか、またどうして色々なことが毛髪から分かるのか、さらには毛髪で病気を発見しどれだけの人に迅速なる診断を施し、人命を救ってきたかを論文などにより研究したいと思いこの課題に決定しました。
今回レポートを書くにあたり、使用した論文の著者の方々、またこのような学生の興味が湧くような実習を行ってくれた大槻教授に敬意を表し、記して御礼を申し上げます。
U.選んだキーワード
レポートキーワード:中毒―毛髪
参考論文 :1.毛髪を試料とした水銀値測定と情報提供(原著論文)
Author:宮本清香(国立水俣病総合研究センター 臨床部)
黒木静香、安武章、臼杵扶佐子
Source:保健の科学(0018-3342)47巻4号Page313-317(2005.04)
2.成人においても微量のメチル水銀は危ないのか?(解説)
Author:坂本峰至(国立水俣病総合研究センター)
衛藤光明
Source:医学のあゆみ(0039-2359)巻12〜13Page1155-1156
(2004.12)
V.選んだ論文の内容の概略
1. 成人においても微量のメチル水銀は危険なのか?
水銀の環境中への排出は大部分が原子状水銀で、自然によるものよりヒトの生産活動由来のもののほうが、二倍以上に相当する。その6割以上が化石燃料によるものである。
その結果大気中水銀濃度は南半球より北半球が二倍高い。
やはり自然界への水銀の排出は地球規模であるため、魚介類中にはある程度のメチル水銀が世界の海域を問わず存在するものである。
後に詳しく説明するが、"メチル水銀の体内動態と胎児影響" "メチル水銀の成人への影響の可能性" の2つのテーマをもとに話を進めていこう。また、ビデオでの講義の時に学んだ公害の面からも詳しく見ていこう。
2. 毛髪を試料とした水銀値測定と情報提供
平成15年6月、厚生労働省は妊婦を対象に魚介類等の摂取に関する注意をはじめて喚起した。妊婦はメチル水銀を多く含む鯨やイルカ、大型魚を控えるようにという内容で、大きく取り上げられた。水俣病はメチル水銀を原因物質として知られている。そのメチル水銀がいかなる物質か、そしていかにして体内に取り込まれていくか、また個々の体内のメチル水銀がどれくらいあるかを、疫学などを含め、後で詳しく記すことにしよう。
V.選んだ論文の内容と、ビデオの内容から、自分自身で考えたことを、将来医師になる目で捉えた考察
まず今回の大きなテーマである水俣病とメチル水銀についてであるが、水俣病は、化学工場から海や河川に排出されたメチル水銀化合物を、魚、エビ、カニ、貝などの魚介類が直接エラや消化管から吸収して、 あるいは食物連鎖を通じて体内に高濃度に蓄積し、これを日常的にたくさん食べた住民の間に発生した中毒性の神経疾患です。
熊本県水俣湾周辺を中心とする八代海沿岸で発生し、始めは原因の分からない神経疾患としてあつかわれていました。その後新潟県阿賀野川流域においても発生が確認されました。
水俣湾周辺の水俣病については、昭和31年(1956)5月、初めて患者の発生が報告され、その年の末には、52人の患者が確認されました。 この疾患は昭和32年(1957)以降「水俣病」と呼ばれるようになりました。
阿賀野川流域の水俣病については、昭和40年(1995)5月に患者発生が報告され、その年の7月には26人の患者とそのうち5名の死亡が確認されました。 水俣病患者の認定は、公害健康被害の補償等に関する法律に基づき関係各県の知事および国によって行われます。
メチル水銀は神経系の特定部位に強い傷害を起こします(下図赤色部分)。 その結果それぞれの部位が持つ役割に応じた障害が起こります。 これが以下のような症状となり、様々な組み合わせで現れるのが水俣病の特徴です。
@わけもなくころぶ。まっすぐ歩けない。ボタンをかけたり、衣服の着脱など日常の動作が思うようにできない。(運動失調)
ことばが不明瞭。(講音障害)
Aまっすぐ見たときに周辺が見えにくい。(視野狭窄)
B触れているのはわかるが手のひらに書かれた数字がわからない。さわった物の形や大きさがわからない。ざらざらとすべすべの区別がわからない。(感覚障害)
C力が入りにくい。筋肉がけいれんを起こしやすい。(運動障害)
D音の識別ができない。相手の言うことが聞き取れない。(聴力障害)
Eしびれ。さわられても熱いものや冷たいものにさわっても感じにくい。(感覚障害)
1. 成人においても微量のメチル水銀は危険なのか?
先ほども述べたように、水銀の環境中への排出は大部分が原子状水銀で、自然の火山活動などの地盤活動由来によるものが年間1000tと大量で、考えられている。加えてヒトの生産活動由来によるものが年間2600tと自然界由来の2倍以上に相当し、その6割以上が化石燃料によるものである。
大気中に放出された原子状水銀は酸化されて二価の無機水銀になり、海洋中でその一部がメチル化して食物連鎖に乗る。そして、その水銀濃度は食物連鎖の上位にいるものほど高く、クジラ(歯クジラ)では10ppm、サメ、メカジキやマグロで1ppmを超えるものもある。
@. メチル水銀の体内動態と胎児影響
メチル水銀は人体にとって生理的機能上はまったく必要の無い元素である。そのほとんどが魚介類の摂取によって体内に取り込まれる。メチル水銀の生物学的半減期は約70日であり、一時的に多量の暴露があっても暴露がやめば比較的短期間で体内水銀レベルは低下する。一般に一定量のメチル水銀を取ると、その摂取量に応じて体内の保持量は定常状態になる。
またよく指標とされて用いられるのは、今回のテーマの毛髪であります。私の知っている限りでは、よくドラマなどで麻薬中毒者の髪を取ってそれを検査して犯人を見つけるようなシーンを見受けられるが、それと同じ原理で迅速に体内の血液中水銀濃度をはかることができます。毛髪中水銀濃度は毛髪形成時の血液中のメチル水銀濃度を反映しメチル水銀暴露の指標としてよく使われている。
メチル水銀の生体内移行はアミノ酸(システイン)に結合して脳血液関門や胎盤を容易に通過し、脳や胎児に蓄積するという他の重金属にない特性を持っている。胎児は非常に感受性が強いため、母体からアミノ酸の能動輸送系に依存し、母親より高いメチル水銀濃度で蓄積する。すなわち、メチル水銀のハイリスクグループは胎児であるとも言える。このようなことから、平成15年6月に妊婦に対して"水銀を含有する魚介類等の摂取に関する注意事項"が厚生労働省から発表された。
A.メチル水銀の成人への影響への可能性
先ほども述べたように厚生労働省から発表された注意事項は胎児の脳を守るものであるため、対象者は妊娠中の女性や妊娠の可能性がある女性に限られている。それでは成人では通常の魚介類摂取から取り込まれる微量のメチル水銀は危険なのだろうか。それはメチル水銀の毛髪水銀濃度換算でどのくらいの蓄積レベルから症状が出始めるかによる。
WHOは最も感受性の高い成人に最初の神経症状が現れる値を毛髪水銀レベルで50〜125μg/g(ppm)としている。これは先ほどの母体のそれにくらべて5倍以上も高い。日本人男性では約2.5μg/gであることから、約20倍も高い。
ということは一般男性や妊娠兆候の無い女性が大量の魚介類を食べたとしても、メチル水銀中毒の危険性はほとんど無いと言えよう。厚生労働省から発表された注意事項は妊娠中、もしくは妊娠の可能性がある女性に対してのものであり、ほかの人たちまで、EPAやDHAの高価不飽和脂肪酸などの有用な栄養を含んでいる魚介類の摂取までを止めるまではないと思う。
それぞれの魚介類等にどれだけの水銀が含まれているなど、細かくは次項で詳しく記します。また成人における発症閾値となるいくつかの指標は下図に示す。
2. 毛髪を試料とした水銀値測定と情報提供
メチル水銀は何度も出てきたが、水俣病の原因物質である。工業廃液に含まれたメチル水銀を多く含んだ魚介類を摂取した際の中毒性疾患である。しかし、このような人為的な原因で生じたものだけでなく、微量ながら自然界にも存在する。火山などにより噴出した水銀の一部が微生物によってメチル化されるからである。そのため多かれ少なかれ水銀を含んでいるといえる。食物連鎖の上位にいる大型魚の方が含有量が多いのが分かる。
メチル水銀は、システインというアミノ酸と結合しやすく、別なアミノ酸であるメチオニンと似た構造を作り腸管から体内に容易に吸収されていく。(下図)
システインに結合して体内に入ったメチル水銀は、血液を介しさまざまな臓器に運ばれる。システインを多く含む毛髪は、"メチル水銀が長くとどまる組織"で、その濃度は体内に取り込んだメチル水銀量の良い指標となる。
○対象と方法
この対象と方法では論文の図を使用させてもらいます。
まず対象は総勢2737名を対象とした。年代と男女別分布を下図に示す。
対象者にはアンケート調査と毛髪採取を行った。アンケート調査の内容は下図に示す。
そして、私もどのようにするか興味があった毛髪検査の測定方法は、約1r(5cmくらいの毛髪2本分)の毛髪の外表の不純物を除き細かく裁断し、800℃で数分過熱し、気化した水銀が生成した水銀量を測定する。測定値は総水銀だが、ほとんどメチルと考えても良いらしい。
すると結果は、男性平均で2.67ppm、女性で1.54ppmであった。20代女性で低い結果になったのは、パーマ処理によるものだというが、アンケート調査とあわせても、魚介類の摂取自体も少なかった。また水銀値の値が高かった男性壮年期では、魚、特に大型魚の摂取が多かった。下図に年代別毛髪水銀平均値、最高値を示した男女の魚介類摂取状況、毛髪水銀値5ppm以上の女性の表を記す。
魚介類に含まれるメチル水銀量は、種類によって、また地域によっても異なっていて、食物連鎖の上位に位置する魚のほうが高い値を示す。日本では安全基準は0.3ppmであり、これでは、一生食べても影響は無いといわれるが、マグロ、カジキなどの、大型肉食魚やアンコウダイ、キンメダイなどの深海魚、鯨やイルカなどの海洋哺乳類ではこの値を超えている。詳しくは下図に記す。
3.ビデオの内容も踏まえての考察
今回、私が選んだ論文は公害などによる大量に、長期に体内に取り込まれるようなタイプではなく、低濃度長期摂取によるものでありました。しかしビデオでは、Vの最初に記したような、公害によるもので訴訟にまで発展したものでありました。しかし、国もあの忌まわしい事件を機に衛生管理の面ではかなり気をつけていると思うので今後事故など偶発的なものを除いてはまず起こらないでしょう。私はそうであって欲しいとねがうばかりです。しかし、前者の心配よりも今後は後者の危険性が心配です。論文を二編読むところ、すでに水俣病はすべて解決されていたと思っていたが、そんなことはまだなさそうです。何度も述べたように、ヒト、特に日本人においては、魚など魚介類をよく食するため、低濃度長期摂取による問題性は消えることはないでしょう。
今後は中毒物質の健康影響を考える場合、その摂取量に加え、摂取する側の中毒物質に対する感受性も考慮されなくてはならないと思います。すなわち、同じ量を摂取したとしても、出てくる症状、毒性発現は個人によっても差があると考えられるからである。今後は、この病気に限らず、個人の感受性の問題、遺伝子の発現にまで研究議論を進める必要があると思う。そしてビデオ講義でも行っていたが、個々人の情報を見つめた、予防と治療すなわちオーダーメード医療(個別化医療)の重要性がこの二十一世紀の最大の目標となると共にこれから医師を目指す私たちにとっても非常に重大な課題となりえるであろう。
そのためには、これから確立されなければならない、遺伝子情報の管理が重要視される。それには、厳格な管理と社会の合意が必要になってくるだろう。そうすると、これからの国家の体制にも非常に興味が沸いてきます。今後の日本に頑張ってもらいたいものです。
W.まとめ
第二次世界大戦の後に日本の高度経済成長により、一躍日本は、先進国の名前をもらったが、それによる負の産物が出来上がり、その被害にあった運の悪いとしかいえないような人がいるからこそ、この場合では水俣病の解析に繋がってきているのだと思う。そのことを常に念頭に置きこれから長い道のりですが、まずは医者になり今後の医療を担っていきたいです。
最後になりましたが、今回非常分かりやすい論文を書いてくださっていた著者の方々、また参考にさせていただいた国立水俣病総合研究センターのHP、新たな試みをしてくださった大槻教授に再度敬意を称しここで終わりにさせていただきます。