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1.はじめに
私は、予防と健康管理ブロックの授業で「不信の連鎖 水俣病は終わらない」のビデオを見たのちに私が選んだキーワードから得られた2編の論文の内容について、そしてビデオと2編の論文の内容から私が考えたことを、将来医師になる立場としてどう考えたかについてレポートとしてまとめたいと思う。
2.選んだキーワード
水俣病 毛髪
3.選んだ論文の内容の概略
(1)人類による水銀の利用は数千年の歴史を有し、その利用は現在も続いており、水銀汚染とそれに伴う健康被害も繰り返されてきた。戦後、日本で二度も発生し多数の犠牲者を出した水俣病は、メチル水銀に汚染された魚介類を摂取することによって起こったメチル水銀中毒症であり、これまで人類が経験した環境汚染に起因する水銀禍の中で最も悲惨な事件の一つである。現在までの水俣病認定患者は熊本県、鹿児島県、新潟県を合わせて約三千人に及んでいる。また、母親が妊娠中にメチル水銀の曝露を受けて、脳性小児麻痺様の障害を引き起こす胎児性水俣病も発生し、メチル水銀汚染の恐ろしさを世界に知らしめた。
メチル水銀は消化管から容易に吸収され、中枢神経系にも血液脳関門を通過して侵入する。水俣病の病像は中枢神経を中心とする神経系が障害される中毒性疾患である。食品中では魚介類の可食部の水銀はほとんどメチル水銀(90%以上)で、魚介類およびその加工品が日本人のメチル水銀の主な曝露源であり、自然界では食物連鎖の頂点にあるクジラ類やマグロ類には高濃度にメチル水銀が蓄積されることが知られている。無機水銀の腸管吸収率がせいぜい数%であるのに対し、メチル水銀の吸収率は95〜100%と高い。それは、摂取されたメチル水銀がシステインと結合してアミノ酸の輸送系に依存して容易に吸収されるためと考えられる。
メチル水銀のヒトへの生体影響を考える場合には、その主たる標的器官が脳であることから、脳中メチル水銀濃度を反映する理想的な生体指標が必要となってくる。メチル水銀の生物学的半減期は約70日(全身)であり、一般的には、一定量のメチル水銀を取り続けるとその摂取量に応じて体内の保持量は一定状態になる。また、定常状態では、血液と脳の水銀濃度比が一定値となることが動物実験で示されており、血液中水銀濃度は脳中水銀濃度を知るための良い指標とされる。毛髪中水銀濃度も毛髪形成時の血液中のメチル水銀濃度を反映しメチル水銀曝露の指標としてよく使われている。一般に、毛髪中の水銀濃度は血中濃度に比べて250〜300倍の濃度を示す。
毛髪は1ヶ月に約1cm伸びるので、過去の曝露評価が可能である。しかし、毛髪中水銀濃度に関しては外部からの水銀蒸気や無機水銀の付着による汚染、パーマ等の毛髪処理による減少の影響が指摘されている。外部からの無機水銀や水銀蒸気の曝露がない場合、毛髪中水銀のほとんどがメチル水銀の形態であるため、総水銀を測定することによってメチル水銀の曝露評価が可能である。
メチル水銀は、水環境をはじめ我々の環境中に広く存在するが、人体にとって生理的機能上は全く必要のない元素である。我が国における一般正常人の生体指標中水銀濃度:毛髪濃度は1〜5ppmの範囲内にあり、10ppmを超えることはほとんどない。しかし、これを超えたときでも、直ちに中毒症状を呈することを意味するものではなく、主に性・年齢階級ごとの魚介類摂取量に依存して濃度は異なる。食べている魚の量・種類による地域差もある。
イラクにおける研究では、体内負荷量の閾値は、知覚異常で約25mg、運動失調で約50mg、構音障害で約90mg、難聴で約180mg、死亡に関しては約200mg以上と報告されている。日本では十分な安全を考慮して、耐容週間摂取量0.17mg/kg/週(毛髪水銀濃度約5ppm相当)が定められている。
(2)メチル水銀曝露では求心性視野狭窄・小脳性運動失調・感覚障害を三主徴とするHunter-Russell症候群が知られている。
メチル水銀曝露を想定する場合は、毛髪と全血が良い試料となる。特に毛髪はシステインを多く含むため、メチル水銀が移行しやすく、血中濃度に比べて250〜300倍の濃度となる。
日本人において毛髪の平均総水銀は男性2.55μg/g、女性1.43μg/gで、男女合わせて90.3%が5μg/g以下、98.6%が10μg/g以下との報告がある。
水銀は、ヒトの生理機能上必要のないものであるが、食事を通じて摂取されることがある。毛髪中総水銀値はメチル水銀曝露をよく反映する指標としても知られているが、魚を食べない集団に比べて多食する集団での値が高いことが知られており、ヒトの水銀値に与える食事の要因を無視できないものと考えられる。我が国においても、東京都の調査で魚介類多食者の毛髪中水銀値の平均値が一般住民の3倍とする報告がある。
水銀の人体曝露について関心を高めた事件として、1953年に熊本、1964年に新潟で発生した水俣病は、アセトアルデヒド工場からのメチル水銀中毒症である。熊本水俣病患者では毛髪中水銀は急性期において80〜705μg/gと高値を示している。新潟水俣病患者の最初に発見された26人の成績をみると毛髪中56.8〜570μg/gと高値を示している。
4.選んだ論文の内容と、ビデオの内容から、自分自身で考えたことを、将来医師になる目で捉えた考察
私は水俣病についてのビデオを見るまでは、水俣病に関してこんなにも長い間、審議が続けられていたことを知らなかった。この映像を見て、水俣病に関わった様々な立場の方達の考えを知ることができた。このビデオを見て、私が強く思ったことは、水俣病は終わっていないということである。そして1956年5月に熊本県水俣で公式確認された水俣病は、世界の公害病の原点であり、事態が深刻になるまでに汚染を止めることができなかった非常に不名誉な出来事であるという印象を受けた。
水俣湾に面した地域では、ネコは気が狂ったようになって海で溺れるという奇妙なことが頻発するようになった。住民も、物が握れない、ボタンがかけられない、歩くとつまずく、目が見えにくい、耳が遠い、食物が飲み込みにくいなどの異常を示すようになり、さらに四肢末端や口の周囲がただれ、やがて視野が狭くなって、知覚異常、言語障害、聴力障害、歩行障害などが起こり始めた。 そして、最終的に死に至り、仮に命を取り留めたにしても深刻な後遺症を残した。1964年に発生した新潟水俣病でも、まったく同様の症状が見られている。 水俣病で亡くなられた方の脳、毛髪から通常の数倍から数十倍もの水銀が検出され、この恐ろしい水俣病の原因が,水銀による汚染であることがわかった。 有機合成化学工業で使用された無機水銀は、その触媒反応中に毒性の強い有機水銀に変化する。有機水銀は工場排水とともに河川に放出され、藻→プランクトン→小魚→大型魚介類と、食物連鎖の過程を経て、段階的に濃縮されていく。そして、最終捕食者である人間に、最も大きなダメージを負わせることになり水俣病のような悲惨な事件を引き起こしてしまったのだ。
メチル水銀は、呼吸器系、腸管、皮膚のいずれの部位からも吸収され、体内のすべての細胞に侵入する。そして脳のバリヤーに侵入し、脳と中枢神経に決定的な傷害を与える。水俣病のような強い中毒症状を起こす毛髪中の水銀の値は少なくとも30ppm以上であると言われている。毛髪中の水銀値は世界保健機関(WHO)が定める許容限界値の50ppmを下回っていても、長期にわたってメチル水銀の汚染を受ければ水俣病(有機水銀中毒)を発症することが、熊本学園大の原田正純教授らの調査で分かった。調査によって、全員に運動障害などの明確な水俣病の症状が見られた。原田教授らは、許容限界値以下でも長期汚染を受ければ水俣病が発症すると結論づけた。
事態が深刻になる前に汚染をくい止めることができれば、数千人という患者を出さずにすんだかもしれない。
明らかな被害が出ていながら、被害が広がるのを抑える機会があったはずなのに何もしなかった国には大きな責任があるだろう。国は責任を負わずに補償金を支払わずに曖昧にしたことに私は不信感を感じた。私は被害者である水俣病患者の気持ちを一番に考えたい。だが、全ての方を水俣病患者に認定するのは困難であったという現実も見えてしまう。もし全ての方を水俣病であると認定していたら、国は一体どれほど膨大な額を補償しなければいけなかったのであろうか。これほど大きな災害による多大な被害者に国が全額補償することはほぼ不可能であったのではないかと考えられる。私は、国に対して出来る限りの補償はして欲しかったと感じるが、一人一人全ての方に補償するには事態が大き過ぎたのではないかと思う。また、水俣病であると認定された後の補償の内容に問題があったと私は感じる。水俣病であるかそうでないかとはっきり水俣病患者のラインを決めてしまい、水俣病であると認められた者にだけにしか補償しないという制度は間違っていたのではないかと思う。病気の度合いによって、補償の内容を細かくしていれば、より多くの水俣病患者であっただろう方達を救えたのではないかと思う。そんな中、水俣病への新対策を環境省が平成17年4月7日に発表した。未認定患者への医療費を全額支給するということだ。水俣病の公式確認から約半世紀経った発表であったが、水俣病であると認められずに死んでいった方達はどんな思いでこれを受け止めたのだろうか。
世界の公害病の原点である水俣病にこれから先も終止符はないと思うし、何が正しいのか、はっきりとした答えがあるのかもわからない。けれど、このような悲劇が二度と繰り返されないように、多くの方を苦しめたこの災害から私達は目をそらすべきではないと思うし、これから先も答えを探し続けていくことが答えなのではないかと私は思っている。
5.まとめ
今回、水俣病についてのビデオを見て、また自分で乏しいながらも水俣病について調べ、勉強できたことはとても良い機会となった。水俣病に関わる多くの方が、なぜその時その立場でそう考えたのかを真に理解することは容易ではないと思う。しかし、自分なりにそれぞれの立場の方の考えを知り、彼らがなぜそう思ったかを知ることはとても大切なことである。普段大学で生活しているだけでは、自分やまわりの考えしか感じ取ることができない。私達が目指している医師という職業は、様々な立場の人の気持ちを汲み取ることができなければいけない、と私は常日頃から痛切に感じている。普段の生活から見えることだけでなく、もっと様々な人のことを私は知りたいし、人は何を思ってそう行動するのかを考えていきたい。それは医師になりたい者の立場として最低限必要な社会に対してのマナーだと思うからである。今回の水俣病に関しても、様々な方の立場を真に理解することは難しいし、それが可能なのかもよくわからない。けれど、この機会が自分のこれからのプラスになれば良いと思うし、プラスになるように水俣病に関わった方の気持ちだけでなく、私がこれから医師になるまで、そして医師になってからも、出会うであろう方の立場・気持ちを考えていくようにしたい。