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予防と健康管理ブロックレポート


1.はじめに
授業中に見た二つのビデオに関連する概要を書く。
 一つ目のビデオは「不信の連鎖」と題うったもので、熊本県における水俣病を取り扱った内容だった。県は患者さんが「水俣病」であるという判断基準が曖昧なために、保険の対象外としていたが、水俣病発生から半世紀経って、国(環境庁)と熊本県が不正を認めたというものだった。
 二つ目のビデオは「オーダーメイド医療」について判りやすく説明した内容だった。例えばヒト同士ではDNAの99.7%まで同じらしい。ヒトのDNAが30億文字の暗号(A/G/C/T)の羅列としたら約1000文字の違いが個人個人を作っていることになる。この1000文字の違いを解読して、各人に効果的な治療方法や処方箋の量を変化させる、つまり、各人に対してベストな治療が受けられるのがオーダーメイド医療と呼ばれる。
 
2.選んだキーワード
 二つのビデオを見終わって、私は『結核』と『塩基配列』というキーワードでを選んだ。オーダーメイド医療において病気と塩基配列の関係をいろんな角度から知りたいと思ったからだ。その中で、二年・三年の病理学で多少学んだ結核を選んだ。
 以下、この二つのキーワードで論文を検索、参照しレポートを作成する。

3.選んだ論文の内容の概要
 二つのキーワードで検索した論文の概要を以下に書く。
@「結核菌DNAのPFLP分析」 高橋光良 

 結核菌は感染の危険性が高くミコール酸を含有する厚い細胞壁に覆われているために、菌からの遺伝子抽出が難しかった。1980年代後半に結核菌ゲノム内にランダムに存在するIS6110の転移因子が発見された。このIS6110は結核菌ゲノム上で安定な因子であり、菌の亜分類が可能であることから疫学的なマーカーとして有効な手段であることが示された。このことは感染源の有力な証明となる得る。つまり、院内感染、外科医の剖検時感染、検査室汚染による判定ミス、BCG接種後のリンパ節腫脹から得られた抗酸菌の結核菌とBCGの鑑別および膀胱癌BCG免疫療法時の患者より分離された菌の鑑別に有効な手段となりるのだ。もし、同一な感染源が検出すれば結核対策として、病室の換気、引圧処理の有無、個室の是非を検討することにより設備改善指針の補助的な道具となろう。予め活動性結核患者の培養陽性前例のパターンを解析してコンピューターに登録すれば、伝播の様式、再燃・再感染の区別や感染のリスファクターが解析できる。これを元に結核伝播が解析され、対策上の処置や治療方針を固めるのに大いに役立つだろう。この論文を書いた高橋氏は、将来、RFLP分析をコード化して結核患者管理に利用される日がくるだろうと確信している。

A「結核菌の挿入配列IS6110と分子疫学」 
新潟大学医学部三年 田中淳一・信下智広

 結核は開発途上国のみならず先進国の人々の命をも脅かす深刻な感染症である。年間の死亡者数は300万人で、単独の感染症としては最高数値となっている。また、わが国でも、集団感染などが制御不能な状態っで、平成11年7月には厚生省が結核緊急事態宣言を発表している。このような状況下で分子疫学解析に利用されている結核菌のISについての内外の知見をまとめ、わが国の結核の分子疫学解析を考える。
 結核菌のゲノムは約440万塩基対の環状構造でその上に28種類のISが同定されている。このIS6110を特殊な操作でハイブリダイゼーション、解析し世界各地で報告された結核ゲノムあたりのIS6110コピー数をまとめるとヨーロッパでは5コピー/ゲノム以下の場合には81%がアジア・アフリカの移民によるもので、16コピー/ゲノム以上では、2/3がソマリア、パキスタンからの移民によるものであった。アフリカでは結核が蔓延していて、限られた型の結核菌が数多く検出されている。アジアではコピー数の多少によって3つの群によって分けられるなど、由来株が次々と判明している。この他コピーゲノム数でさまざまな国の由来株の分布や傾向が解明された。
 また患者株のDNA上の挿入位置と挿入方向から解析する「DNA指紋法」と呼ばれる方法で解析すると、臨床分離株を一つ一つ特定することが出来る。これは複数の結核感染が発生した場合に迅速な感染経路把握に力を発揮するだろう。

4.考察
 選んだ論文の内容と、ビデオの内容から、自分自身で考えたこと、将来医師になる目で捉えた考察を以下に書く。 
以上二つの論文は二つ目のビデオで取り上げた、塩基配列の違いからのオーダーメイド医療に近いものがある。しかし、その対象は「患者さん」ではなく「病原菌」である。(これはある意味病原菌の「オーダーメイド医療」ならぬ「オーダーメイド予防」と言えるかもしれない。)二つの論文の共通点としては、結核菌のIS6110解析があげられる。これにより、結核患者の感染源が特定できるだろう。このことはどちらの論文も言及している。結核患者の感染源が特定できれば、二次感染の被害は急速に収束の方向へ向かうだろう。医師にとって結核を予防することも大切だが、被害を拡大するのを防ぐことも同様に大切だといえる。同じ結核菌でも、効果のある薬剤や量はことなるだろう、感染が発見された時点で結核菌の「型」が解析できたら、その型に効果的な治療が施せれるのだ。
では、そもそも結核とはどのような疾病だろうか。
 結核は結核菌に感染することによって発祥する疾病である。かつては「不治の病」と恐れられ、日本では太平洋戦争後30年もの間にわたって死亡順位第一位を占め続けた。いまでは抗生物質を用いた化学療法の確立により死亡率も激減し、かつてのような長期療養生活を強いられることも少なくなったが、だからといって「結核」が完全に克服されたわけではない。結核菌は飛沫感染で感染する。菌は普通、肺だけにとどまるが、他の臓器や骨、関節など筋肉以外全身に転移することもある。日本における結核の現状は、全国に広くまん延していた時代から、高齢者等、都市部を中心に患者が集中する時代に変化しているが依然として主要な感染症であることには変わりない。さらに、深刻な問題としてHIV感染者やAIDS発症者への結核菌感染があげられる。全世界のAIDS患者数の1/3が結核に感染しているともいわれており、結核とAIDSの合併は感染者の命を落としかねない危険をはらんでいる。
 このような世界規模でいうと、結核は死に至る感染症のなかで第一位に位置付けられている。医療従事者にとって感染症の予防は大きな問題だろう。実際結核の予防法は多く存在する。結核だが、その感染予防策は何があるのだろうか。幼いころにうけたBCGやツベルクリンなど、興味があったのでインターネットや様々な文献を見て調べてみた。それを以下に書く。
 BCGとはbasille Calmette−Guerin(ウシ型結核菌)の略である。毒性を弱めた牛型結核菌を体内に投与し、軽い結核のような反応を起こさせて、本当の結核菌が後からきた場合に対抗する免疫を予め獲得させるのに利用される。BCGは肺結核を50%防ぎ、特に重い結核を80%以上防ぐが、年齢とともに効果は薄れてしまう。
 次に健康診断。検査には大きくわけてツベルクリン反応検査、X線検査、結核菌検査の3つがある。ツベルクリン反応は結核菌に感染した人やBCG接種を受けた人の皮膚に結核菌の成分をもつツベルクリン液を注射すると、皮膚が赤く反応する。(人体のアレルギー反応をつかって結核に感染しているかどうかを調べている)ただBCG接種によるものなのか結核感染によるものなのか、区別はよういではないらしい。X線検査は90%結核であろうという確証が画像として出てくるが、入院や治療の判断にあたって重要視されるのはX線ではなく結核菌検査である。結核菌検査は薬が効く結核菌かどうかの、検査の前の段階として行われる。患者の痰を培養し増殖させて、初めて菌を証明することができる。だが培養検査では結核菌が生えてくるまで6〜8週間と時間がかかってしまうのが欠点である。(このような場合は論文の概要で示したような遺伝子診断学により、結核菌のDNA診断が可能となり、迅速に診断することも可能となってくると考える)
 このように何故、3つも結核検査があるのだろうか。理由は明瞭で、3つとも完全には結核を防ぐことは出来ないからだ。感染を知るのはツベルクリン検査だけ。感染と発病は違う。しかし、これ自体不完全なので、確実に感染しているという人は結核を発病した人しか確実とは言えない。発病を知るのが、X線検査と結核菌検査だが予防とはいえないだろう。また健康診断は地域の保健所が実施する。
 結核予防には医療従事者だけでなく、地域に密接した公共機関もその役割に一役買っている。たとえば、先日私が実習見学した倉敷市保健所は、地域の健康づくりのために感染症対策として社会衛生上の試験や検査を行っていし、住人の結核検査も行っていた。このように地域と医療機関の関係がしっかりしていたら、仮に感染症が発生しても迅速に感染源を割り出せれるだろう。それと平衡して治療を行えば、大方の問題は片がつくと思われる。結核菌は予防法は何種類もあるが、どれも完璧に予防はできない。予防という防壁が完璧ではない分、疾病が発見されたとき如何に二次感染を防ぐかが感染症にたいするアプローチのスピードが要求される。そのもっとも有力なアプローチこそが、この分子疫学解析ではないだろうか。結核の「指紋解析」が利用できると言う知識をあらかじめ持っていれば、将来いち医療従事者として適切な処置、治療を感染患者に施すことが可能になると考えられる。

5.まとめ
 今回のレポート作成にあたり、分子疫学という学問をはじめて知った。微生物のゲノム内をPFLP分析により多くの病原性細菌の亜分類が可能になったことで発展した学問だ。分子疫学は独特の視点で結核に効果があるのではないかと私は考える。結核感染事例は医師の診断の遅れが原因となう場合もあるが、集団検診や専門医療機関での受診がもとで発見されることも珍しくない。つまり、感染が認められたら、個人ではなく、その周辺の集団にも感染が起こっていると考えていい疾病なのだ。1年間に新たに結核患者になる人は2万9干736人、死亡する人は2千328人にも上るという数値がでている。しかもその初期症状は風邪と酷似おり、患者自身が知らぬ間に第三者に菌を感染させているかもしれない。感染拡大を最小限に押さえるには感染源を押さえることにある。またその予防も地域単位で医療と公共が心血を注いでいる。ひとつの疾病に対してこれほどまでにガードをしているとは知らなかったが、それほどまでに結核が恐ろしい疾病なのだと感じた。
 将来、各疾病の病原性細菌の亜分類が細部にまで至れば、患者管理として効果的な治療が行われるだろう。それにより、入院期間が減ったり、無駄な薬の投与がなくなったりして患者さんのQOLが少しでも向上するのであれば医療従事者冥利に尽きるだろう。将来医師となる上での「何故そうするか」の根本が見えた気がした。
 
 余談にはなるが、私が選んだ二つの論文のうちひとつは、偶然にも同学年の医学部三年生が書いたものだった。正直自分と同じ学年でこんなにも「出来上がってる」論文がかけるものなのかと圧巻した。論文を読むのが初めてならば、それを元にレポートを作成するのもはじめてで、手探り状態ながらようやく完成させることができた。形式など悩んだ個所は沢山あるが、自分の考えが形にのこせてよかったと思う。

 


6.参考文献

●新潟医学会雑誌 第114巻 第12号 p473〜478(2000)12月
「結核菌の挿入配列IS6110と分子疫学」 
新潟大学医学部三年  田中淳一・信下智広 
指導:細菌学教室    種池郁恵 ・小原竜軌・山本達男 

●Modern physician Vol.20  No.9 p1154〜1157 2000-9
「結核菌DNAのPELR分析」
高橋光良

http://www.jata.or.jp/rit/rj/kjoushi.htmなど