【レポートサイト top】  




    
            予防と健康管理レポート
                             

はじめに
 今回の予防と健康管理のレポートを書くにあたって、あらかじめ見させてもらった二つのビデオのうち、私は水俣病のビデオが印象に残ったので、これと以下に要約を示した論文の内容を織り交ぜて、考察した結果をここにまとめた。
 
 今回私が選んだキーワードは「小脳」と「中毒」である。なぜこの二つを選んだかというと、ひとつは神経解剖学が好きで、小脳が比較的得意だったので、もっと詳しく学んでみたいと思ったからである。また、中毒は医用中毒の富田先生の影響もあり、興味を持ったので選んでみた。そして、この二つのキーワードで検索してみて、「アルコール性・中毒性小脳失調症」と「抗癌剤による神経毒性と皮膚毒性」という二つの論文を私は選んだ。次に、「アルコール性・中毒性小脳失調症」についての内容の概略を示す。
 この論文の内容は中毒性小脳失調症の中で最も頻度が高いアルコール性小脳失調症と、主な中毒性小脳失調症について概説している。まず、アルコール性小脳失調症とは、概念は長期にわたるアルコール多飲者に見られる小脳失調症であり、アルコールに起因する神経障害の約三十パーセントに認められる。その原因は、アルコール自体の毒性、飲酒に随伴するビタミンを中心とする栄養摂取障害が推測されており、動物実験において慢性アルコール含有飼料にて飼育したラットでの小脳プルキンエ細胞の減少が認められる報告から、アルコールによる直接的な神経毒性が示唆されるが、ウェルニッケ脳症と同様に栄養障害に基づくとの考えもあり、明らかな原因は解明されるにはいたっていない。病理では、肉眼的には小脳中部(小脳についてはあとで詳しく述べる)の上部、前葉の前部に限局した萎縮を認める。病理組織では、小脳皮質を侵しプルキンエ細胞の編成と脱落Bergmannグリアの増加、分子層の狭小化およびグリオーシス、下流層では顆粒細胞の脱落を認め、プルキンエ細胞周囲の籠繊維と分子層深部の切線繊維、顆粒層のゴルジ細胞、登上繊維や苔状繊維は比較的保持されることなどが特徴とされる。臨床症状・診断は歩行障害、下肢の協調運動障害が主な兆候である。下肢の症状に比べて、上司の協調運動障害、構造障害、眼振、体幹失調、頭部・手指の振戦は目立たないとされるが、決してまれでない。また、症状の経過についてVictorらが三群に分類している。
一群:数週から数ヶ月で急速に小脳症状が憎悪し、断酒や栄養の改善により安定する。           二群:アルコール多飲を続けることにより、数年にわたり小脳症状が進行していく。この場合でも断酒や栄養の改善により症状の進行が停止することがある。
三群:数年間軽度の小脳症状が持続し、高度の栄養障害などの合併で急速に悪化する。
個々のアルコールに対する感受性の違いにより、断酒により症状が改善する人も多いが、段守護も症状が憎悪していく例も報告されている。画像では頭部CT、MRIでは、小脳中部の上部から背側部の小脳溝の拡大と小脳虫部の萎縮を認める。治療では、断酒と栄養状態の改善が第一と考えられる。他にも、ビタミンB群の大量投与、TRHによる治療などがあげられる。次に、主な中毒性小脳失調症について述べる。運動失調をきたしうる薬剤には、抗てんかん薬、向精神薬、抗不安薬、睡眠薬、鎮静薬、パーキンソン病治療薬、抗痴呆薬、片頭通治療薬、抗悪性主要薬、免疫抑制薬、抗ウイルス薬、抗HIV薬、抗結核薬、抗菌薬、抗マラリア薬、抗不整脈薬、抗尿剤、抗ヒスタミン薬といった多種の薬剤がある。他にも、鉛、マンガン、タリウムや有機水銀などもあり、有機水銀は1953年ごろから発生した水俣病の原因として有名である。また、頻度は少ないが、工業用薬品の四塩基炭素、二硫化炭素、一酸化炭素、農薬で使用されるDDTなどの中毒で小脳失調をきたしたとの報告もある。といったような内容である。
 次に「抗癌剤による神経毒性と皮膚毒性」のについての内容の概略を示す
この論文の要旨は、抗がん剤による神経毒性は末梢神経系や中枢神経系に認められる一般的な有害反応であり、臨床的には脳症、小脳症候群、脳神経障害、痙攣、脊髄症、末梢神経障害などを呈し、容量規制因子となることがある。神経毒性の出現や重傷度は、積算用量、投与経路、薬物代謝、他の薬剤または放物線照射との相乗効果などが要因となる。化学療法剤の抗腫瘍項かを阻害せずに神経毒性の回復や予防を目指した研究が行われている。抗がん剤による皮膚毒性には、欠陥外漏出、色素沈着、爪変化、放射線リコール反応、過敏反応などがある。血管外漏出において、抗がん剤の多くは起炎症性または非壊死性であるが、主にvinca alkaloid系、anthracycline系およびtaxanes系の抗がん剤は起壊死性に属する。起壊死性の抗がん剤が皮下に漏出した場合には、局所の激しい疼痛と組織壊死の進行による潰瘍形成を認める。血管外漏出の発生頻度を減らし、生じた場合に傷害を最低限に抑える方策は、患者のクオリティオブライフを守るうえで重要である。といったような内容である。
ここで私はキーワードである小脳について少し詳しく調べてみた。
 
 小脳(図@青色部分)
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』参照
 小脳(しょうのう、cerebellum)は、脳の部位の名称。脳を背側から見たときに大脳の尾側に位置し、外観がカリフラワー状をした部分である。脳幹の背側に位置しており、脳幹と小脳の間には第四脳室が存在する。小脳の機能は、運動機能の調整であり、平衡、筋緊張、随意筋運動の調節を行っている。このため、小脳が損傷を受けると、運動や平衡感覚の調節がとれなくなり精密な運動ができなくなったり酔っているような歩行となる。
                 図@

 小脳の区分
小脳は頭尾方向正中に存在する小脳虫部と左右一対の小脳半球から成っている。 また、小脳は発生学的に古い順から片葉小節葉、前葉、後葉の3つに分けられる。 小脳は上小脳脚、中小脳脚、下小脳脚によってそれぞれ中脳、橋、延髄と結ばれていて、小脳の入出力繊維が通っている。 
 
 小脳の構造
小脳表面には横走する溝(小脳溝)が存在し、小脳溝により小脳回が分けられている。小脳の表面は、小脳皮質と呼ばれる灰白質が覆っており、3層の層構造を示す。表層から順に分子層、Purkinje細胞層(プルキンエ細胞層)、顆粒層の3層である。
小脳皮質の下は、小脳髄質と呼ばれる白質である。第四脳室の近傍には、左右4対の神経核(歯状核、球状核、栓状核、室頂核)が存在し、小脳核と総称される。

小脳の病気
 主として小脳求心系の変性を示すもの
 小脳への求心系である橋核小脳路や脊髄小脳路と、小脳皮質とに変性性病変をもつ疾患である。橋核に病変をもつということが特徴である。
@オリーブ橋小脳萎縮症(OPCA)
AMenzel型遺伝失調症
  主として小脳皮質の変性を示すもの
 小脳皮質のプルキンエ細胞の変性を中心とするもので、同時にしばしばオリーブ核変性を伴なうが、橋核変性や歯状核、大脳基底核変性を伴わない。
@晩発性小脳皮質萎縮症(LCCA)
AHolmes型家族性失調症
 主として小脳遠心系の変性を示すもの
 小脳歯状核ならびにその遠心路である上小脳脚に変性性病変を有するものである。
@Ramsay-Hunt症候群
A歯状核・赤核・淡蒼球・ルイ体萎縮症(DRPLA)

臨床像
1. 小脳半球の皮質の障害
@目標に向け運動を行った際、行きすぎ(hypermetria)、足りない(hypometria)などの測定障害(dysmetria)がみられる。
A指・鼻試験、膝・踵試験陽性。
B患者の指や下肢の母趾で検者の指を正しく早く触れるようにさせると、最短距離でスムーズにいかず、途中で運動に段がついたり、ゆれたりする。
C上肢の回内、回外運動をさせると、不規則でゆっくりとする(adiadochokinesia、拮抗運動障害)。
D筋のトーヌスは低下する。
2. 小脳前葉の障害
 歩行の失調がみられ、千鳥足となる。
3. その他
@躯幹が前後左右にゆれる(truncal titubation)。言語失調として、ゆっくりとなり、一語一語の区切りが悪くなり、また爆発的になったりする。
A歯状核や結合腕が侵されると企図振戦(intention tremor)が現れる。
B脊髄後索が障害され、深部知覚や位置覚が障害されても失調が生じる。この時は視覚でかなり代償される。

代表的な脊髄小脳変性症の臨床像を以下に述べる。
●Friedreich病
@好発年齢20歳以下、常染色体性劣性。
A小脳性運動失調と深部知覚障害による運動障害が合併する。一般的に上肢より下肢に病変が強く認められる。
B腱反射消失。
C断綴性言語、眼球震盪がみられる。
D心筋症、不整脈などを伴う。
E経過は緩徐、進行性。
F錐体路徴候はほとんどみられない。
●遺伝性痙性麻痺
@発症年齢15歳以下。常染色体優性または劣性。
A下肢の痙性麻痺を主体とする錐体路症状が前面にでる。
Bふつう小脳症状、知覚障害をみない。
C経過は緩徐進行性で、20年ぐらいで車椅子生活となる。
●オリーブ橋小脳萎縮症(OPCA)
@好発年齢40〜50歳、男性に多いとされている。
A小脳性運動失調で発病することが多いようだが、歩行障害で気づかれる場合もある。
B発病後しばらくして錐体外路症状(パーキンソン様症状)をみる。
C錐体路徴候、排尿障害、ときに知能低下をみることもある。
●晩発性小脳皮質萎縮症(LCCA)
@初老または老年(50〜70歳)に好発し、男性に多いとされる。
A小脳性歩行障害を主体とする症状を示す。
Bときに錐体路徴候、知能低下を伴うが、錐体外路徴候は明らかではない。
 
考察とまとめ
 今回のレポートで小脳がいかに大切なものかがわかった。小脳が病気で侵されてしまうだけで運動ができなくなるということは、日常の何気ない動きもできなくなってしまうというわけである。それは片腕や片足をなくすことより大きいことかもしれない。小脳の病気にも薬物であったりアルコール中毒であったり、今回ビデオで見た水俣病のような有機物質が原因であったりと、多種多様なものがあることがわかった。ビデオを見て水俣病について思ったがことだが、前に見学実習をさせてもらったときに訪問した長島愛生園のハンセン病患者もそうであるが、そこには病気による差別があるという事実が浮かび上がってくる。当初、患者の多くが漁師の家庭から出た為、新日本窒素肥料などにより風土病との宣伝がなされた。それらにより「水俣奇病」などと呼ばれ、水俣病患者と水俣出身者への差別が起こり、その事が現在も差別や風評被害につながっているという。この世界には人種差別や男女差別など多くの差別が存在しているが、この病気による差別もそのひとつであろう。たんに病気で苦しむ人もいるだろうが、それだけでなくこの差別に苦しむ人も多くいるであろう。そして、その精神的苦しみは病気のそれよりも苦しいものだと私は思う。患者さんの病気になった原因や治療だけに専念するのだけではなく、その人の背景を見てあげることのできる医師が今必要であると私は考える。