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1. はじめに

水俣病の訴訟問題、結核の集団感染の背景から、医師として必要なもの、身につけなければならないものを考える。

2. 選んだキーワード

遺伝子多型 結核

3. 選んだ論文の内容の概略

@ 中学校における小規模結核感染事例の検討

平成12年6月。とある区立中学校2年生の女子生徒の父親が肺結核と診断された。その子を含めた家族などが規定により接触者検診を実施した。妹は基準に合致し予防内服となったが、女子生徒は厚生省通知基準の30mm以下で、BCG接種による反応とみなされ予防内服にはならなかった。胸部XPでも異常を認めなかった。

平成13年4月。女子生徒は学校検診でツ反発赤45mmであったが、精密検査はされず。保健所は女子生徒に対し、父親の結核登録後1年の胸部XPを7月に予定し勧奨も未実施。

平成13年9月。女子生徒が肺結核と診断。保健所に届出がされる。
発生届受理後直ちに、通う中学校、区教育委員会、区保健衛生主管課に連絡が入る。中学校では全校生徒、保護者を対象に説明会が開かれる。
当初は全校生徒に接触者検診を実施することも考えられたが、まず、全教職員と、本人と直接の接触があった生徒に実施し、その結果をもとに以後の検診計画と対象者の拡大の必要性などについて検討することとした。その結果、4名が感染と診断され化学予防の適用となった。小規模の集団感染となる。BCG既接種の中学生では、化学予防の要否の診断は困難であるものの、接触者検診に際して過去のツ反結果と接触状況の詳細な把握が有用であった。

 厚生省通知基準を用いた結果、妹は化学予防の適用となったが、本患者は基準以下のため適用外。学校検診で陰性となっても精密検査は実施されず。結核感染率がますます低くなり、感染の疑われる者への化学予防の重要性が高まっていくなか、必要な者に確実に行い不必要な化学予防を避けるためにも、化学予防の適用について新たな基準が必要であり、家族検診の徹底が必要である。また、今回は生徒や保護者への説明とフォローを十分に行ったが、BCG接種歴の不明のものがあったりして接触状況の把握に影響があった。今後は、乳児期のBCG接種記録の保存の徹底などのためにも生徒、保護者に対し結核予防に関する普及啓発に努める必要がある。

A 老健施設における結核の外来性再感染と思われる集団発生について

ある老健施設で、平成7年から3年間にわたり合わせて27例の結核集団感染が起こった。発端は82歳の老健施設入所者の女性。初めは肺炎と診断され、加療によっても症状は改善されなかったが、一度は退院した。この女性は老人性痴呆があり、同時に徘徊癖もみられ、常時他の部屋に出入りしていた。症状が続くため、再び受診し、肺結核と診断された。この後3年間にわたって、同施設での検診などによって計27例の結核患者が発見される。27例のうち、19例にRFLP分析が行われ、18例が同一パターンと判定される。27例のうち5例を除いて患者はいずれも高齢者。よって、集団感染かどうかは、結核の発症が内因性再燃でなく外因性再感染によるものではないかという点が重要である。

再感染を証明するためには、最初の感染菌と2回目の感染が異なることを何らかの方法で証明することである。第一にRFLP分析にて鑑別。第二に病理学的診断。第三に疫学調査所見や病歴、ツ反歴その他から過去に結核感染あるいは結核の発病のあったことを証明あるいは推測し、今回の感染がそれらとは異なることを示すこと。今回のような高齢者の症例の場合、ほとんどが老人性痴呆や寝たきりの状態で、聞くすべがない。最後の方法として、これらの患者が最初に結核感染を受けると思われる幼児期から思春期であった当時のわが国の結核事情から、彼らが既感染者であることを推定すること。この方法で今回の集団感染が外来性再感染と証明。

一度結核に感染あるいは発病した人が、外来性再感染によって再度感染発病することは稀であると考えられている。外来性再感染は普遍的であるか否かはなんともいえないが、再燃と再感染は疫学に依存している。つまり結核高蔓延地域では再感染は結核再発の一つの経路。低蔓延地域では結核菌に遭遇する機会も少ないので再燃がほとんどと考えられる。今回の老健施設においては、感染源が徘徊癖のあることを考慮すれば、周辺の入所者にとっては結核高蔓延地域である。

再感染を起こす条件は、結核菌による高濃度暴露の環境と、結核免疫の低下という宿主側の問題が存在。今回の再感染の診断は先にも述べた間接的な方法であったが、それでは信頼性が高いとはいえないので、今後はわが国でも初回排菌のすべてと再発菌のすべてにRFLP分析を行うシステムを確立することが必要。また、再感染が普遍的であるならば、感染源の撲滅に、再燃が主であるならばワクチンによる予防や再燃を促進するような宿主側の要因の排除などの結核管理などが大切になってくる。

4. 考察

水俣病問題において、行政と裁判所の水俣病の認定基準の違いがある。医師が水俣病と診断し、裁判所が水俣病を認めても、行政の認定基準を満たしていなかったら救済がない。そもそもこの認定基準は当時の審査委員会が作ったものである。当時より現在の方が医学も進歩し、医学界からこの基準は科学的に誤りがあるという見解が投げかけられたものの、行政は裁判では認定基準は否定されてないという理由で改定の兆しはみられない。結核においても論文で示されているように、厚生省の基準以下だからということで異常なしと判断したがゆえに集団感染につながった事例がある。このことから基準というものはあくまでも指針のようなものであって絶対なものではないと考えられる。また、結核の予防ワクチンであるBCGは長年有効だと判断され、使用されてきた。小児の結核性髄膜炎や粟粒結核などの発病・重症化には有効に阻止するが、成人の結核に対する評価は不安定であるということ、またBCG再接種はブースター現象などによってツ反の結果による結核感染の判定を困難にさせるということなどが次々とわかり、小・中学校でのBCG再接種が見直されている。このように、医学は日々進歩しているので、昨日まで正しいと思ってなされてきたことが間違っていたりすることが多々ある。大切なのは基準などにとらわれすぎないことだと思う。病気というものは教科書通りだけではないことがよくわかる。広い視野でものごとをとらえ、基準というものにあまり固執せず柔軟に対応することが必要だと思う。

 水俣病にしても結核にしても、病気というものはときに差別を生む。その原因の一つに誤った知識がある。結核は抗酸菌によって起こる感染症であるが、感染したからといって即発病するわけではない。しかし時として報道などによって、感染と発病が混同されがちになる。こういった、事実とは誤ったことが世の中に広がってしまうがゆえに差別が生じてしまう。その典型的な例がハンセン病である。ハンセン病も結核に同じく抗酸菌による感染症だが、やはり感染したからといって必ず発病するものではないし、むしろ発病する人のほうが少ない。現在の患者はらい菌そのものによる症状ではなく、後遺症で苦しんでいるのに、世間では後遺症の症状がハンセン病の症状と思われがちである。そのため差別はいまだに根強く残っており、納骨されるとき、残された家族のために偽名のまま納骨される方もいるという悲しい現実を先日愛生園でお聞きした。このような事態を今後避けるためにも、医師は正しい科学的な目、人道的な目を養わなくてはならない。そのうえで医師は保健所などと連係を深め、正しい知識を医療従事者含め、国民にしっかりと伝えることが重要である。結核は、社会全体に昔の病気という風潮がある。そういった病気に対する意識の低さ、無理解が差別を生むし、結核に対する警戒感、危機感が薄くなり、早期発見・早期治療を行えず、集団感染につながってしまうし、一次予防にもつながらない。

また、近年、医学の進歩は目覚しい。以前は結核に対する唯一のワクチンはBCGのみであった。HIV患者の増加や免疫力の低下した高齢者が増えてくる高齢化社会には対応しきれなくなってくる。そのため、今現在、新たなワクチンとして4種類が開発中であるという。これらの中には遺伝子改良したものも含まれている。このように、現在遺伝子に基づいた研究・治療が盛んである。確かに自分自身の遺伝子タイプを調べると、オーダーメイド医療などその人の特性に合わせた治療が行える反面、究極の個人情報である遺伝子情報の保護の問題などが出てくるし、全ての病気が遺伝子からというわけでもない。オーダーメイド医療となるとまだまだ問題は山積みであるが、遺伝子の研究を推し進めるのは悪いことではないと思う。その成果として結核菌株の遺伝子型のRFLP分析があり、それをすることによって再感染か再燃かを同定したり、感染源の確定や感染経路の確認ができたりと集団感染の防止につながる。大切なのはやはり正しい知識をもつことである。いくらハード面を良くしてもそれを正しく使いこなせなければ間違った方向に行ってしまう。こと結核に関しては結核予防法により措置入院というものがある。遺伝子技術をいくら進歩させても正しい知識がなければその行為が差別につながってしまう。

   結核は先にも述べたように感染したからといって必ずしも発病するものではない。免疫力の低下なども発病の要因にあるが、個々人の特性すなわち遺伝子多型も関係があると思う。遺伝子型によって発病のしやすさ、しにくさがあるのだと思う。そういう意味ではオーダーメイド医療も問題こそ山積みであるものの、使い方を間違えなければ、予防・治療につながる。自分の特性を知ればそれが一次予防につながるし、治療面においても、結核は多剤併用で治療が行われるが、オーダーメイド医療によってその人にあった薬を提供できれば耐性菌の出現防止などにもつながるはずである。しかし、先にも述べたように遺伝子情報は完全な個人情報なので、むやみに乱用してはならない。医療を提供する側のモラルが求められる。理不尽な医療ミスなど医師のモラルが盛んに問われている現在、情報の保護が果たして守られるのかは正直疑問である。医師は医学を学ぶこともちろん、人としてのモラル、利己主義に走らず人道的な考え方を身に着ける必要があるように思う。

5. まとめ

   結核について少し勉強をしたが、自分自身結核はやはり過去の病気だと思っていた。この意識の低さが予防の妨げになり、それが集団感染につながっていくのだと実感した。医師は結核に対する早期診断も重要ではあるが、正しい知識を皆に伝えることも大切で、それが差別を生じさせない一つの手段でもあると思う。また、水俣病には認定基準、結核には診断基準とそれぞれに基準というものが存在するが、これに固執すると、時として誤った方向に進んでいってしまって軌道修正ができなくなる。やはり正しい科学的な目、人道的な目を養うことが大切である。そうすれば水俣病やハンセン病のような問題を今後起こさないことにつながるはずである。やはり、将来医師を目指す僕らがまずするべきことは医学を学ぶこと。知識を得たとしてもそれが世のため、患者さんのために使われなければ意味がない。広い視野をもつことが大切であると実感した。医学的な見方だけでなく社会学的な見方も重要である。