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予防と健康レポート



はじめに
私は大学3年生になり初めて公衆衛生学・予防医学の授業を受けて感じたことは、今までの個人やミクロを対象とした学問と違い基本的に集団を対象としていることです。公衆衛生学・予防医学は、時間の流れで見た疾病の動向を把握すること、BCGの接種などの1次予防(健康増進)を行うこと、がんの集団検診などの2次予防(早期発見、早期治療)を行うこと、人工透析や精神科のデイケアなどの3次予防(機能障害防止、リハビリテーション)を行うことに重点を置くことで、人々の健康づくりのサポートをしています。健康の概念として、WHO憲章(1948)では(健康とは単に疾病がないとか虚弱でないだけでなく、身体的、精神的、社会的に完全に良好な状態である)としています。この目標を実現するためには人々が住む社会全体が飢餓や紛争や犯罪のない健全なものであることが必要であり、発展途上国を中心として全世界が取り組むことが大切です。日本では第三次国民健康づくり対策として、健康日本21が掲げられました。この対策は全ての国民の1次予防に重点を置き、生活習慣に目標数値の設定と評価を定めていることが特徴です。このように世界的に健康づくりのための取り組みがなされている一方で、現在も人々の健康を脅かしている深刻な問題に結核、マラリア、エイズなどの感染症があります。世界では総人口の約3分の1の20億人が結核に感染しており、毎年800万人が新しく感染し200万人の人が命を失っています。その多くは、アジア地域をはじめとする開発途上国での感染です。結核は日本でも主要な感染症です。近年、結核は患者の高齢化、都市部への集中、重症発症の増加など問題は多様化しています。国内では1年間に新たに結核患者になる人は平成16年度に2万9千736人、死亡する人は2千328人に上っています。現在の高齢者は、若いころに結核に感染しており、加齢とともに体力、抵抗力が低下した時に、菌が再び活性化し発病しやすくなります。若い人の多くは、結核に感染したことがないため菌を吸い込むと感染しやすく早い時期に発病する危険があります。さらにHIV感染者やAIDS発症者に結核菌が感染すると大変危険です。結核は抵抗力の弱い赤ちゃんに感染すると重症になりやすいため予防を目的としたBCGの接種が行われています。平成17年に結核予防法が改正され、それまで行われていた乳幼児へのツベルクリン反応検査は廃止され、BCG接種を生後6ヶ月までに行うことになりました。このように結核をはじめとする感染症に私たちがかかってしまう可能性は決して低いものではありません。




選んだキーワード
私は今回の論文の2つのキーワ−ドとして、tuberculosis(結核)とnucleotide(ヌクレオチド配列)を選びました。選んだ当初は、結核への感染のしやすさに人のヌクレオチド配列が関係していると言う趣旨の論文が多いのではないかと思いましたが、pubmedで検索した結果そのような論文は見当たらず、それよりも生化学的な発見について書かれている論文が多かったです。その中で私はbiochemistryに投稿されていたペンタペプチド・リピート・プロテインについて書いてある論文を選びました。

選んだ論文の内容の概略
ペンタペプチド・リピート・プロテインとは、原核生物や真核生物に含まれているたんぱく質の1部で、そのアミノ酸配列は特定の5個のアミノ酸が1セットとなりそれが長く連なっている構造をしています。現在500種類以上のペンタペプチド・リピート・プロテインが発見されています。今回研究者はヒトの結核菌に含まれるペンタペプチド・リピート・プロテイン(MfpA)の構造を明らかにしました。そのことで、これがヒトのDNA複製に関係している酵素(DNA gyrase)の働きを阻害していると言うことが分かりました。DNA gyraseとは、普段は体積を小さくするためらせん型をしているDNAが、体細胞分裂に備えて複製する際に、らせん型をほどいて環状になる働きを触媒する酵素です。つまり、DNA gyraseの働きが阻害されると細胞分裂に支障をきたすということです。その秘密は結核菌のペンタペプチド・リピート・プロテインの構造にありました。ペンタペプチド・リピート・プロテインのアミノ酸は5個ずつの単位が繰り返しらせん型となり、2量体を形成しています。これはDNAと形がとてもよく似ています。さらにその電荷もDNAと同じになっています。そのことで、DNA gyraseの、本来はDNAが結合する場所に構造の似たペンタペプチド・リピート・プロテインが結合してしまい働きが阻害されてしまいます。このような発見の積み重ねと、結核菌のたんぱく質やそれによる病原性の研究がもっと進めば感染症に対するよりよい予防法や治療法が確立されると思います。そしてその予防法を日本や世界で実施していくことが大切だと思います。
これがンタペプチド・リピート・プロテインの構造です。


選んだ論文の内容と、授業でのビデオの内容から、自分自身で考えたことを、将来医師になる目で捉えた考察
授業でのビデオの1つは、熊本県の水俣地域で発生した、メチル水銀中毒による水俣病の流行後の混乱を描いていました。水俣病はアセトアルデヒド工場の工業排水に含まれていたメチル水銀がプランクトン、こけなどから魚へと生物濃縮され、その魚を長期間食べることにより発症します。人体への影響としては、中枢神経系疾患であるHunter-Russell症候群があります。これは、求心性視野狭窄、小脳運動失調、平行機能障害、四肢の感覚障害、聴力障害などの症状を呈します。私は、このビデオを見て予防医学・公衆衛生学の社会的役割と責任はとても大きいと感じました。水俣病のメチル水銀説は、1958年に熊本大学医学部によって提唱されましたが、チッソ水俣工場側は農薬が原因であると主張し、厚生省もメチル水銀説を認めませんでした。この時点で、国が対策として予防医学・公衆衛生学の観点から水俣地域の漁業の全面禁止と水俣湾でとれた海産物の摂取の禁止を実施しなかったことは、とても大きな責任があると思います。1964年に新潟県阿賀野川下流地域でも同様の患者が多発したことから、厚生省は1968年にようやく水俣病の原因としてメチル水銀説を認めました。この10年の間に水俣病の被害はとても拡大してしまいました。多くの患者さんは一生治ることのない重い神経障害に苦しみながら国や地方自治体に行政訴訟を起こし、自分たちが水俣病にかかっていることの認定を求めていました。しかし国はなかなか責任を認めず一応の解決が見られたのは、1995年にチッソが一時金を支払うことを決めた時です。この間多くの被害者の人々は、高齢化していたり、亡くなってしまっていました。そのためこの一時金も訴訟を続ける力がなくなってきた被害者の人達が受け入れざるをえない状況であったのだろうと思います。このような問題では被害者の人々も国もとても大きな苦しみを強いられてしまいます。この負の教訓を生かすためにも、これから先、学校や幼稚園などの集団や地域の単位で異常が見られたときには、ただちにその原因を調査し、すみやかに予防医学・公衆衛生学の観点から考えられる対策をとることが大切だと思います。


まとめ
私は今回レポートの作成に当たって、ビデオを見たり、論文を読んだり、インターネットで調べたことから予防医学・公衆衛生学についてさまざまな場面で応用されていて、その意義はとても大きいのだと言うことを感じました。国や地方自治体などでは結核、マラリア、エイズなどの感染症が拡大することを防ぐために、CMなどのメディアを通したキャンペーンや、地域住民の方々に対して講習会を通して教育を行ったりしています。さらに健康診断などのスクリーニング検査を行い、2次予防(早期発見・早期予防)を行っています。最近では、アスベストによる悪性中皮腫が問題となり、抑制基準をもうけています。例えば、石綿を含有する製品の製造を行う施設では切断機の指定をしたり、石綿を使用している建築物の解体では作業方法に関して規制がなされています。また、鳥インフルエンザの流行を最小限にとどめるために、国や地方の保健所などでもさまざまな対応策が考えられています。私たちが疾病についてあまり心配することなく安心して暮らしているのは、予防医学・公衆衛生学がこのような形で実施されていることが大きいと思います。私は将来医師になるにあたり、目の前の患者さんという個人を扱うことも大切ですが、同時に地域社会の集団を扱う視点も持っておくことが大切だと思います。そうすることで、新たな感染症が現れたときに、速やかに対処することができます。そして臨床の場では患者さんの生活背景をもとに、生活習慣である栄養、運動、休養についての指導をすることができると思います。それにより、長期的な視点で見ると、糖尿病や肥満、それによる脳卒中や動脈硬化や心臓病などの生活習慣病の予防をすることができます。また、運動の適切な指導を行うことで、高齢者の認知症や筋力低下による寝たきりを防ぐことができます。このような医療を行うことは、とても多くの人の健康づくりのサポートとなるではないかと感じます。さらに地域の保健所などの予防医学・公衆衛生学の第一線の機関と連携を取ることにより、より効率的になると思います。医療は医師やコメディカルの人々のみでなく、保健所などの方々とも協力していくことでよりよいものとなると思います。私は、今まで特定の疾患を持っている患者さんだけが医療の対象と思っていましたが、今回のレポートを通じて、将来、疾患にかかる可能性をも考慮して予防医療を行うことはとても意義があることだと感じました。