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予防と健康 レポート
1. はじめに
この度、予防と健康ブロック(大槻先生)におきまして「環境汚染」と「心筋」の2つのキーワードでレポートをさせていただきました。今回、この2つのキーワードを用いて医中誌Webで論文を検索すると3つの論文がでてきました(自分の調べ方が悪かったためこれだけしかでなかったかも・・・)。それぞれ @【分子高血圧 最新の進歩】環境ナノ粒子の動脈硬化促進メカニズムの検討A母体への頻回ステロイド投与により一過性肥大型心筋症を呈した新生児の1例B心臓核医学検査後の心臓カテーテル検査時における患者からの術者被爆の検討 とでてきて一番自分が興味を持ったのは@でしたがこの論文は最近の物らしくまだ図書館におかれていなっかので残念なのですが今回はAとBを用いさせていただきました。
2. 母体への頻回ステロイド投与により一過性肥大型心筋症を呈した新生児の1例
@)はじめに
肥大型心筋症(HCM)は異常な肥大型心筋細胞に基づく心室壁の原因不明の肥厚が基本病変であり、心室中隔の壁が非対称型に肥厚することが多い。これは心エコー上心室中隔の非対称性壁肥厚(ASH)として認められる状態である。原因として
@ 母体の糖尿病
A 新生児期に慢性肺疾患の治療としてステロイドを投与
→2次的に一過性のHCMを発症する
などがあげられます。
早産が予想される場合、胎児の肺の成熟促進や、脳内出血の予防の目的で母体にステロイド投与が行われることが多い。今回は、妊娠経過中、母体へのステロイド投与が原因と考えられる新生児一過性肥大型心筋症が報告されました。
A)症例
主訴:早産児、低出生体重児
現病歴:在胎33週3日帝王切開で出生。生下時体重1856g。Apgerスコアは1分8点、5分9点であった。
入院時現症:身体所見、血液検査所見では特記すべきことはなかった。
1日目と3日目の胸部X線写真では肺血管陰影の増強は認めなかったが心胸郭比(CTR)58.8%と心拡大が認めた→心エコー検査を行った(後述参照)
家族歴:親族に心筋症の既往者はなく、また突然死した者はいない。
母体の妊娠経過:切迫早産のため入院時より塩酸リトドリン250γとMgを1時間当たり1gの経静脈的投与を行った。その後妊娠27週より塩酸リトドインを300γまで増量した。Mgの投与も続けられた。Mgの血中濃度の頂値は7.0mg/dlであった。その後出産時の妊娠33週3日まで同量の投与を続けた。
妊娠26週より妊娠33週までの8週間、betamethasoneの投与を行った。betamethasoneは1回投与量12.5g(リンデロン5A)の筋注を行った。投与方法は1日1回、週2回ずつ、計16回投与した。経過中に尿糖が陽性となることはなく、糖尿病の合併はなく、高血圧、発熱などの感染徴候も認められなかった。
入院後経過:出生時の胸部X線で心拡大を認めたため心エコーを行った。
⇒試行時には心雑音は聴取されなかった。
所見:@心室中隔のASH
A卵円孔開存
B軽度の右心系拡大
全身状態は良好であり、心不全症状も認められないため輸液のみで経過観察とした。出生1日目と出生13日目を比較した心エコーの図を示す(図1)。心室中隔の肥厚は明らかに改善されている。
図1
胸部X線写真上もCTRは52%まで縮小していた。その後の経過は順調であり体重増加も良好であった。心エコーはparastanal long axis像を用いて経時的に施行した。long axis像で心室中隔を左室流出路側よりapex方向に3分割し、A点、B点、C点と定めた。さらに、左室後壁の壁厚を収縮末期と拡張末期で計測した。出生1日目にはHCMの特徴的所見であるASHを認めた。
次に出生1日目、3日目、13日目の心エコー所見の変化を示した(図2)。心室中隔の肥厚はB点が顕著であったが、図に示されているように、出生1日目拡張期に7.07mmであったものが、3日目、4.04mm、13日目には3.16mmと約2週間で正常化した。左室容積と後壁には変化はみられなかった。B点以外の心室中隔の肥厚も収縮期、拡張期ともに改善がみられた。
図2
B)考察
本症例では家族歴はみられなかったが、HCMにはしばしば家族内発症がみられる。遺伝子学的な分析も進んでおり、ミオシンやトロポミンなどをコードする遺伝子の異常が検出されることもある。
HCMは心室中隔の肥厚が左室流出路に及び、左室流出路狭窄を伴う閉塞性肥大型心筋症(HOCM)と左室流出路狭窄を伴わない非閉塞性肥大型心筋症(HNCM)とに分類される。右室流出路狭窄を伴う場合もある。本症例ではカラードプラー法で、左室流出路狭窄による異常血流は認められず、HNCMと診断した。
HCMにおいては、心室中隔の肥厚は共通した所見であるが、多数の症例で左室後壁の肥厚に比べ中隔の肥厚が著明である。これがASHであるが、Henryらは心室中隔/左室後壁の厚さの比が1.3以上の場合にASHと規定している。本症例でも心室中隔/左室後壁は2.8であった。
また、出生後に慢性肺疾患や気管支肺異形成の治療としてステロイドを投与された場合にHCMを発症したという報告は多い。通常、心筋の肥大は一過性であり可逆的な変化に終わるとされている。Yunisらは妊娠中に母体にステロイドを投与して新生児にHCMを認めた3例を報告している。そのなかの1例は妊娠27週よりステロイド(betamethasone)の投与を開始、投与スケジュールは今回の報告と同じく、1日1回、週2日ずつ、計16回の投与であった。また、1回のbetamethasone投与量も12mgと本症例とほぼ同量ではった。他の2例については同様の投与方法で、それぞれ、計8回、5回の投与であった、また3例とも中等度以上の流出路狭窄は認めなかった(PG15mmHg以下)。
また、本症例では母体に妊娠中、糖尿病や高血圧の合併は認められなかったが、Gutgesellや高瀬らは糖尿病母体児(IDM)のASHの合併を報告している。彼らの報告によると、IDMの児は高インスリン状態にあるため、この異常なホルモン環境が胎児期の中隔肥厚に直接かかわっていると考えられ、またIDMに伴ったDCMは一過性であり遺伝性はない。
本症例ではHCMの家族歴もなく母体へのbetamethasoneの投与以外に原因は他に考えられなかった。心室中隔の肥大は一過性であり、経過観察のみで速やかに消失した。
C)まとめ
母体にbetamethasoneを投与したことが原因と考えられるHCMを経験した。betamethasoneの投与回数は標準的なものより多かった。妊娠経過中、母体に糖尿病の合併はなくHCMの家族歴もなく原因は他に考えられなかった。心室中隔は認められず、経過観察のみで速やかに消失した。
3. 心臓核医学検査後の心臓カテーテル検査時における患者からの術者被爆の検討
@)目的
心臓カテーテル法がより普及し、一人の術者が施行する例数も飛躍的に増加している。術者のX線被爆について、またその軽減対策についての報告はすでに数多くなされており、一方で放射性医薬品投与患者の放射線防護上の取り扱いに当たる看護師、また病棟での同室者を対象とした報告が種々なされてる。しかしながら患者に近接して検査、治療に当たる冠動脈造影、冠動脈形成術者が放射性医薬品を投与された患者から受ける被爆について検討した報告は少ない。今回われわれは心筋シンチグラフィー検査を受けた患者を早期に検査する場合の安全性について、術者被爆、放射性医薬品汚染血液の検査室床への汚染の両面から検討した。
A)対象および方法
虚血性心疾患の診断目的で、心筋シンチグラフィーを実施した患者を対象とし (各群n=6、肝機能、腎機能の異常値例、低心機能例(駆出率50%未満)は今回除外)、201-TlCl(Tl)111MBq、または99m-Tc-Tetrofosmin(Tc)1036MBqを静脈注射したあと、15分後、18時間後、2、3、4、5、6、7日後に被爆線量、血液放射活性を測定した。
被爆線量は、高感度シリコン半導体ポケット線量計(Aloka:PDM-117)を用いて測定した。ポケット線量計を患者腰部から50cm離れた位置(術者が位置する場所と仮定)に設置し、1時間(検査、治療のため術者が患者近くに位置する時間として仮定)の積算線量を測定した。血液中放射活性は、デジタルキュリーメーター(Aloka)を用い、血液10ml当たりの放射活性を測定した。
また参考データをして、冠動脈造影検査時の術者X線被爆線量を術者の胸ポケットの位置で、鉛プロテクターの内外でポケット線量計を用いて測定した(n=20)。
B)結果
1. 患者背景(図3参照)
平均年齢はTc群で65.4±13.2歳、Tl群で68.5±13.2歳であった。両群ともに肝機能、腎機能は正常内であり、左室駆出率も正常範囲内であった。投与された放射性薬物の代謝排泄に影響を及ぼすと考えられる肝腎機能、左室機能に異常はなく、患者からの放射能発生の経時的変化を測定するに当たり、妥当であると考えられた。
図3
2. 被爆線量の経時的測定
TcまたはTl投与後ポケット線量計により、経時的に測定した1時間当たりの被爆線量をFig1に示す。Tcでは投与15分後、18時間後にそれぞれ平均81.0μSv、3.5μSvの被爆線量を認めた。投与2日以降には検出感度以下となった。Tlでは投与15分後の被爆線量は16.3μSvを示し、18時間には7.7μSvを示した。また、2,3,4,5,6,7日後にも4.7、2.3、1.7、1.3、1.0、0.8μSvを示し、ごくわずかの被爆が遷延した。
3. 血中放射活性の経時的測定
一方血中の放射活性については、Tcにおいて投与15分後に0.3μCiの放射活性が認められたが、18時間後には測定感度以下となった。Tlでは投与15分後においても測定感度以下の放射活性であった。(Fig2)
4. 冠動脈造影検査時のX線被爆線量
当院における冠動脈造影検査の平均透視時間、撮影時間は10.4分、111.5秒であり、平均術者被爆線量は、プロテクタ外で198.0μSv、プロテクタ内で20.3μSvであった。(図4)
図4
C)考察
心筋血流イメージング剤として従来汎用されているものとしてTlがある
Tlの長所:@生理学特性は高い
A心疾患の病態の把握のみならず治療方針の決定や予後の推定に欠くことができない
Tlの欠点:@高価
A半減期が比較的長い(72.9時間)→投与量が制限される
Bエネルギーが低いため吸収散乱の影響を受けやすい
↓
近年Tcが開発された
・・・@物理的半減期が短い(6.01時間)→大量投与が可能
Aイメージングに適したエネルギー特性を持つ
上記のTlまたはTc製剤を用いた場合について、心筋シンチグラフィー検査後早期に冠動脈造影、冠動脈形成術を施行する場合の安全性について検討した。心臓カテーテル検査を日常業務とするものにとってよく話題となる放射線被爆は、透視、撮影時のみが被爆時間であるが、放射性医療薬投与患者からは検査、治療を行っている間中継続して被爆している。患者のごく近くに位置して検査、治療に当たる術者の被爆についての情報を明らかにすることは、術者の放射線防護の観点から大変有用であると思われる。
本研究では投与15分後、18時間後、2、3、4、5、6、7日後のそれぞれ1時間当たりの被爆線量を追跡した。投与15分後は、急性心筋梗塞に対して放射性医薬品を投与後直ちに緊急冠動脈撮影、引き続いて血行再建治療を行う場合を想定し、18時間後は核医学検査を日中時間帯に施行し、翌朝冠動脈造影検査を施行した場合を想定して時間設定した。
国際放射線防護委員会(ICRP)の1990年勧告によれば、放射線診療従事者の線量限度は5年ごと100mSv(単年度については50mSvを限度)とされており、5年平均して従事したとすると一年当たり20mSvが線量限度と計算される。今回の検討では、通常の冠動脈造影検査時の放射線による術者被爆線量は、プロテクタ外で198μSv、プロテクタ内で20.3μSvであった。これに放射性医療薬を投与された患者においては、Tc投与15分後では81μSv、18時間後では3.5μSvが、Tlではそれぞれ16.3、7.7μSvが加わることとなり、プロテクタ内ではそれぞれの約1/10量の被爆があると推定される。Tcでは投与量が多いため、初期の被爆線量は多いが物理的、生理的半減期が短いため2日目以降は線量は検出されず、患者からの術者被爆という面では、特に注意を要しないレベルとなった。一方でTlでは、初期の被爆線量はTcに比べて少ないが、投与後数日間経過しても数μSvの被爆線量が認められた。Tc投与15分後には、今回の検討の中では比較的高い被爆が認められたが、今日、急性心筋梗塞症例に対してまず放射性医療品を投与し、引き続いて冠動脈造影、冠動脈形成術を行うことはまだ一般的であるとはいえず、限られた施設での問題であると思われる。Tc投与15分後以外の被爆量はわずかであり、プロテクタなどによる防護を正しく行えば、通常大きく問題となるレベルではないと考えられた。しかしながらその業務の性格上、放射性被爆が宿命である冠動脈造影、冠動脈形成術術者はさけうる被爆は少しでも軽減するよう心がけるべきである。特に前面のみのプロテクタでは、術者が器具の準備のためなどに後ろを向いている時にも被爆は継続しており、注意を要する。術者はTcでは2日間、Tlでは1週間以上患者から放射線が出ていることを念頭に置き、プロテクタ、防護めがね、遮蔽パネルなどを使用し、放射線被爆を防ぐのが望ましいと考えられる。またTcは投与後尿中への排泄が速やかであるため、患者骨盤部や尿バッグの遮蔽も有効であると考えられる。
一方冠動脈造影検査においては、血液の検査室床への飛散やガーゼ、注射器、検査器具への血液付着が避けられない。放射性医薬品投与後の患者血液は汚染されていると考えるべきであるが、今回の検討では投与量の多いTc投与15分後に0.3μCi/10mlの放射性活性が検出された以外は、測定感度以下のレベルではあるが、なるべく血液を飛散させないよう注意するのは当然のことである。
D)まとめ
心筋シンチグラフィー検査後早期に冠動脈造影、冠動脈形成術を施行する場合の安全性について検討した。被爆線量は透視からの線量に比べてわずかであり、通常大きく問題となるレベルではないが、余分な被爆は極力避けるべきである。照射中だけである透視に比べて、残存核種からの被爆は、患者近くで作業する術者にとって盲点となりやすく、このことを念頭に置いて検査、治療に当たるべきと考えられた。患者血液の汚染については、Tc投与後直後以外測定感度以下であり、それほど問題とならなかった。