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予防健康レポート  

1、 はじめに
 4月から予防健康という授業が始まり、初めて環境について深く考える機会を得ました。予防健康の授業中に見た水俣病のビデオからもっと公害について深く知りたいと思い、公害と運動障害というキーワードを選びました。 

2、 選んだキーワード 
公害  運動障害

3、 選んだ論文の内容の概略
T、第49巻日本公衆衛生誌第2号「胎児性水俣病患者の症状悪化に関する緊急提言」 
                          土井 陸雄
 1996年秋、東京水俣展で胎児性水俣病患者の一人から「最近、症状が急速に悪化しており、身体が動かなくなってきている」旨の発言があった。そして再び2001年国際水銀会議で数人の胎児性水俣病患者の急速な運動障害の進行を見た。胎児性水俣病患者の生活の支援をしている人々によると、このような急速な症状の進行が、全ての胎児性水俣病患者に及んでいるわけではないが、何人もいるという。とくに起立、歩行など運動機能の障害が大きいように思われる。これほど急速な運動障害の進行は「ただごとではない」としか言いようがない。
 この原因として考えられるのは、@ポリオ後症候群・・・ポリオ(小児麻痺)に罹患した人々が罹患後10~40年経って動作時の易疲労、関節、筋肉痛、筋力低下、息切れ、四肢冷感などを呈し、歩行、階段昇降、着衣などの日常動作が困難になるというものである。この原因は完全に解明されたわけではないが、ポリオ罹患後長期間にわたる運動ニューロンへの過負荷によるニューロン変性脱落と筋肉そのものの退行変性が重なったものと考えられている。  
Aメチル水銀暴露によって大脳皮質神経細胞減少・低形成があるところへ加齢による神経細胞減少・・・これにより、通常であればもっと高齢になってから現れるはずの運動機能障害が40歳代で出現したと考えられる。胎児性水俣病死亡例では、錐体路に髄鞘形成不全が見られるが、背髄前根、後根には著変がないとされている。しかし、大脳前・後中心回における神経細胞数の減少・脱落とその層構築における高度の低形成が認められ、小脳では顆粒細胞の減少・脱落が著明であり、これらが全体として胎児性水俣病患者における出生当初からの運動機能障害の原因として考えられる。一方、中枢神経系の部位にもよるが、大脳皮質では40歳代後半から加齢にともなう神経細胞の明らかな減少が認められており、また老人性筋萎縮では神経支配の異常による神経原性萎縮が最も多いとされている。
 もちろんこれは、いまだ全く推論の域を出ない仮説であるが、ポリオ後症候群は一つの大きなヒントを与えてくれるように思われる。今後さらに臨床的経過観察と病因論的研究を重ねる必要がある。また彼らが多用している薬剤についても副作用などの問題について検討する必要がある。
 しかし、病因論よりも一層大きな問題は、これら胎児性水俣病患者の生活の質(QOL )を少しでも改善し、より良いQOLを保つための組織的な努力が必要であるということだ。現在、少数の医学者が努力を始めているが、これらは究めて限られており全く不十分である。また、胎児性水俣病患者の症状経過に関しては実態調査も治療研究も全く行われていない。国立水俣病総合研究センターだけでは、これらの実態解明、治療研究を充分に行うのに明らかに人材が不足している。彼らの症状進行の速さを考えるともはや一刻の猶予も許されない。水俣病の流行拡大を阻止できなかった国、自治体、医学の責任大きいと言えよう。国を挙げての努力が緊急になされるべきである。
 最後にこの急速な運動機能障害の進行が神経系の加齢現症に関係しているとするなら、当然 成人、小児期に水俣病に罹患した患者にも加齢にともなう運動機能障害が予想される。水俣病や大気汚染被害をはじめとする公害健康被害者の予後を追跡し、彼らのQOLを見届ける責任が我々にはあるのではなかろうか。

U、神経進歩・48巻5号「紀伊半島の筋萎縮性側索硬化症・パーキンソン・痴呆複合の臨床遺伝学」              葛原茂樹
 筋萎縮性側索硬化症・パーキンソン・痴呆複合(以下ALS/PDC)は、紀伊半島やグアムの風土病として有名である。この原因が遺伝子であるか、環境要因であるかは、いまだ議論の対象であるが、筆者は 原因が遺伝素因にあるという仮説をたてた。その仮説をたてるに至った経過を記す。 
 まず多発の原因としては、様々な仮説が提唱され研究されている。主な原因仮説について紹介する。
@ 遺伝説・・・ALSとPDCが同一家系内、同一部族内に多発していることから、遺伝性疾患が強く疑われた。しかし研究によりALS/PDCは古典的メンデル遺伝性様式に従ってないことが判明し、遺伝性疾患とする仮説は、支持を得られなかった。 
A 感染症説・・・PDCの発見当初は、脳炎後パーキンソニズム痴呆との類似性からウイルス感染説が注目されたが、既往歴、免疫学的検査、ウイルス学的研究によってこの学説は否定された。遅発ウイルス感染症{プリオン}も疑われて動物摂取実験も行われたが、動物への伝播は不成功に終わった。
B 微量鉱物説・・・紀伊半島とグアム島において、ALSの多発地域と非多発地域の飲用水、井戸水、河川水、土壌の微量鉱物を測定比較し、多発地帯では、低カルシウム、低マグネシウム、高アルミニウム、高マンガンが共通して認められた。よって慢性的なカルシウム摂取不良がカルシウム代謝異常を引き起こし、中枢神経系の神経細胞にカルシウム変性を引き起こす。しかし、この仮説には状況証拠がそろっていたが実際の人体で低カルシウム状態は証明されなかった。またこのような条件下で飼育した動物にALS/ PDCの病態を作成することは不成功に終わった。      
C 食物毒説・・・環境因として、摂取によってALS/PDCが発症するような神経毒を含んだ、ソテツの実が有力候補になった。ソテツの実から精製したBMAAを動物に大量投
与すると、中枢神経障害を生じる。この説は大注目を集めたが紀伊半島多発地区では、ソテツを摂取する食習慣がないことから疑問を持たれた。ところが最近、ソテツの実のBMAAはソテツの根に寄生する藍藻類によって生成され、それがソテツの根から吸収され、濃縮されて果実に貯まり、それをコウモリが食べてさらに濃縮され最期にヒトに摂取されるという生物学的濃縮過程が考えられるようになった。この藍藻類は世界中に棲息することからこの説の研究が続行されている。
  以上、これらの説より、最も有力なALS/PDC消滅原因は、第二次大戦後の生活環境の変化だということになった。というのは、ALS/PDCはグアム、紀伊半島共に1950年代がピークで1970年代には激減しているからである。すなわち飲用水が、井戸水や川水から上水道に、食生活が、現地産の食材から流通食物へと変化したことにより、未知の神経毒摂取が止んだ、あるいは微量鉱物摂取内容が改善されたというものである。
 しかし、筆者は、1993年から1994年にかけて紀伊半島に新たなALS/PDC患者が多数でたという事実に注目し、疾患消滅の有力原因が第2次大戦後の生活環境の変化という仮説とは矛盾するのではないかと考えた。そこで遺伝原因説の再検討を行う。調べていくと、1970年代以降にALS/PDCが激減した状況下でALSはほぼ消滅したのに対して、PDCは発症年齢が高齢化したが、なお相当数の発生が持続していることがわかった。すなわち病因論的に、ALSの原因は住民の環境変化、特に上水道普及による飲用水の変化、食物の欧米化で消失したのに対し、PDCの原因はなお持続しているということである。では、PDCは遺伝性様式をとるか?と調べていく。様々な家庭を調べていくと、遺伝子解析研究を困難にする要因があった。その要因とは、まず近親婚が多いため、たとえメンデル遺伝であっても、家系図から優性か劣性かを判定するのが困難で、遺伝子座決定においては偽のハプロタイプを陽性と見誤る危険性が増加するのである。また発症年齢が20~-80歳というきわめて幅の広い分布をとるために、遺伝子異常を有する未発症者を非発症健常者に分類してしまう危険性が高くなる。これらのことから、遺伝説を否定してしまうのは、あまりにも安易であり、より詳しい遺伝子解析が求められる。
 最期にこれらの問題を解決して、この特異な疾患の遺伝素因や、原因が明らかになり疾患の予防や治療が可能となる日が来ることが待たれる。

4、 選んだ論文の内容と、ビデオの内容から、自分自身で考えたことを、将来医師になる目で捉えた考察 

 私がビデオと論文から学んだことは、公害がちっとも「終わった」ものではないということでした。私のなかで公害とは、日本の高度経済成長時に起こったすでに過去のものでした。しかし、ビデオと論文から、今もなお続く後遺症や病気に苦しめられる人々、様々な研究がすすみ、医学が進歩してもいまだに原因がわからない疾患などの存在を知り、想像を絶する「深さ」に驚きました。これは、環境を顧みず、自分自身の利益のみを追求した人類への罰のような気がしてならないのです。論文でもあったように、公害健康被害者の予後を追跡し、彼らのQOLを改善する努力がもっともっと必要であると強く感じました。そのためには、医師も幅広く正しい知識を持たなくてはなりません。ビデオで見た松本医師のように、公害問題にしっかりとした自分の意見を持ちながら、強くたちむかえる医師がどれほどいるでしょうか。行政に水俣病と認定してもらえず、にせ患者だと言われて亡くなる患者さんの悔しさを思い、松本医師が自ら行った、父親の解剖に強く心をうたれました。同時に行政だけに水俣病認定の決定権があり、実際に患者さんを診ている医師に決定権がないということに非常に憤りを感じました。より良い患者さんのQOLを見届けることが、公害流行拡大を阻止できなかった国、自治体、医学の責任であると思います。

5、 まとめ
 この論文、ビデオから医学における公衆衛生の大切さを学ぶことができました。私はこのことをしっかり胸に留め、まわりの意見にながされず、幅広く正しい知識を持ち、正しい判断のできる医師になりたいです。