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予防と健康レポート
                            

1. はじめに
 水俣病は四大公害病のひとつで、戦後の経済発展による損害であり、工場から流された廃液にメチル水銀が含まれていて、それを含んだ魚介類を食べたことによって起きた病気であるということは知っていた。しかし、それ以上の知識は全くなく、ビデオを見るまで、水俣病患者が受けていた周りからの偏見や裁判の問題については何も知らなかった。
 まず、水俣病について調べてみた。水俣病の症状はメチル水銀中毒による手足のしびれや歩行困難などで、重症では痙攣や精神錯乱などを起こし約半数は死にいたる。この水俣病は、チッソ水俣工場が行ったアセトアルデヒド生産時の触媒による副産物であるメチル水銀が原因で発生した病気である。チッソ水俣工場はこのメチル水銀を含んだ廃液を十分な汚染処理を行わないまま海に流した。そのため、廃液中のメチル水銀が生体濃縮され、付近で取れた魚介類を摂取した住民に水銀中毒の被害(脳の障害)が発生した。さらに恐ろしいことに、その住民の中で水銀中毒を起こした妊婦、あるいは中毒は起こさなかったが水銀の暴露を受けた妊婦は、臍帯を通してメチル水銀が胎児の脳へ届き、その子供は脳性麻痺様の症状をしめした。これを胎児性水俣病と呼んだ。このようにチッソ水俣工場の過ちは、その当時の住民だけではなく次世代の子供たちにまで影響を与えてしまったのである。現在世界ではメチル水銀の胎児に与える影響についての研究が行われているらしい。よって、私は水銀と胎児というキーワードから論文を調べ、レポートすることにした。

1、 選んだキーワード
metal mercury , fetus

3、論文の内容の概略
「胎盤から胎児への水銀輸送と胎児中毒」
 水銀やメチル鉛、カドミウムのような有毒な金属への妊娠中の暴露は、胎児の発育に悪影響を及ぼす可能性があるとされてきた。実際に、メチル水銀は胎盤を通過して胎児に輸送されることが証明され、多くの調査が行われている。一般人における胎児や新生児への水銀の暴露は、歯科用のアマルガム充填物から放出される水銀によって引き起こされると考えられている。また、水銀の暴露を受けた子供の亜臨床的な発育の変化も問題となっている。これについて詳しく述べるため、5つのテーマに分け、論じている。
 T 水銀の気化物質の代謝
 U 胎児における水銀の胎盤輸送とその分布
 V 胎児の肝臓と胎盤での水銀代謝におけるメタロチオネイン(MT)の影響
 W 胎児の中枢神経(CNS)での水銀
 X 胎児の発育への影響
 
 T 水銀の気化物質の代謝
 水銀は液状金属であり、やや揮発性である。水銀の気化物質を吸入すると、その 80%が拡散されて肺胞の膜組織を通過し容易に体内に吸収さる。その多くが血流に入り、全ての組織へ輸送され、酵素であるカタラーゼによって2価の無機水銀に酸化される。この酸化作用はアルコールや除草剤によって阻害される。2価の無機水銀に酸化されない水銀の気化物質は血液脳関門を通過し、脳に蓄積する。これとは対象的に第二水銀は血液脳関門を通過できないため、脳への蓄積は少ない。

 U 胎児における水銀の胎盤輸送とその分布
    胎盤は母親から胎芽や胎児へ栄養を送る重要な役割をしている。胎盤を通過できるのは亜鉛や銅のような必要な金属であり、カドミウムや水銀のような重金属は通過できないとされていた。まず、妊娠したラットに無機水銀を大量投与したところ、胎盤には大量の蓄積がみられたが、胎児には少量しかみられなかった。これは、胎盤の膜組織は第二水銀に対する防壁を持っていることを示した。しかし、母親が水銀の気化物質の暴露に遭った場合では、胎児に水銀の蓄積がみられた。これは水銀の気化物質は胎盤の防壁を通過することを示した。また、各々の器官への水銀分布については肝臓以外の器官の水銀濃度は胎児に比べて母親の方が高く、肝臓では胎児の方が高かった。このように、胎児における水銀の代謝は母親とは異なる。

 V 胎児の肝臓と胎盤での水銀代謝におけるメタロチオネイン(MT)の影響
   MTは2価のイオン(亜鉛、水銀、カドミウム、銅など)と結合して、代謝・輸送・
  貯蔵において重要な役割をする低分子タンパクである。MTは主に胎児や新生児の肝臓     
  に在在し、出生後は減少する。よって、出生前期では、胎盤を通過した水銀の気化物質はMTのある胎児の肝臓で酸化されて蓄積するため、水銀の他の器官へのさらなる分布は抑制されている。そして、出産後の発育の期間では、MTの減少により水銀は他の器官に再分布される。これにより、新生児の脳と腎臓では水銀濃度の増加が観察されるのである。

 W 胎児の中枢神経(CNS)での水銀
 豚とラットによる実験から、胎児での脳への水銀の吸収は成長後のそれに比べると、 
かなり少なく、妊娠時の年齢によっても異なることがわかった。また、妊娠初期と中   期ではCNSの水銀濃度は低かったが、出生後には増加した。これより、脳の水銀濃度は胎児の成長と共に増加することがわかる。(3.で述べた機構による)また、CNSの水銀の局限場所を調査する実験では、異なる濃度の水銀を暴露して行った。結果は、0.05r/?ではCNSに水銀は見つからず、0.50r/?ではCNSの血管と感覚神経節に局限し、5-6r/?ではCNSの血管と神経細胞に局限していた。
 子宮内で水銀の気化物質暴露を受けた胎児の脳の水銀濃度は、非暴露の胎児のそれとは大きな差はみられなかった。しかし、出生後に母親の母乳による水銀の吸収を最低限にするために非暴露の母親に育てられが、新生児の脳の水銀濃度はかなり上昇した。これも、3.で述べたようにMTが減少したことで、MTと結合する水銀が減り、他の器官への再分布が生じたためと考えられる。

 X 胎児の成長への影響
 水銀は催奇形性の媒介として知られている。温度計の生産工場で働いていた女性は、妊娠15週目に尿中に水銀が発見された。また、妊娠35週まで水銀濃度が0.05r/?を過剰に超えていた医院で働いていた女性は、脳に深刻な症状が見られた子供を出産した。生後8日後の水銀の血中濃度は16μ/lを示し、翌日に死亡した。
 ラットでの奇形学的研究においては、妊娠期間中あるいは器官形成期間中に水銀の気化物質を暴露したところ、胎芽中毒と催奇形の影響はTVL(許溶濃度:健康上に悪影響を与えない化学物質の最高濃度)では観察されなかったが、TLVの20倍では観察された。
自発的行動におけるテストでは、生後3ヶ月の子供の場合、胎児期の暴露を受けなかった子供の方が高い行動を示したが、生後14ヶ月では胎児期の暴露を受けた方が高い行動を示した。さらに、暴露を受けた子供は新しい環境への適応力が低かった。
 人間においても多くの調査がされたが、水銀化合物の影響は大人よりも子供の方が受け易いということは知られているが、アマルガム充填物や水銀を含んだ魚からの暴露による影響はまだ知られていない。また、良く知られている水銀中毒による症状(手足のしびれや歩行困難)が見られない場合、低濃度の水銀の気化物質が胎児の発育に影響を与えるかどうかは明確ではない。   

4.選んだ論文の内容と、ビデオの内容から、自分自身で考えたことを、将来医師になる         目で据えた考察
 1950年代に起きた水俣病の問題が、約50年後の今になってやっと、解決されつつあるのはとても残念なことだと思う。しかし、論文のテーマXから分かるように解決されていないこともある。また、チッソ水俣工場の犯した過ちが原因で、多くの人たちが病に苦しみ、さらに周囲の人からの偏見や差別を受けてきたことは事実であるのに、これだけ長い時間を要したのは、チッソ水俣工場の責任逃れと国と県の対応の遅さだと思う。これについては、ビデオで知ることができた。
 まず、論文を読んで考えたことは、論文のテーマUでの胎盤を通過する物質の矛盾である。今まで胎盤を通過しない物質と考えられてきた水銀がラットの実験により、水銀の気化物質は胎盤を通過できると証明された。これは、現在、こうであろうと考えられている説が翻る可能性があることを示唆していると考えられる。また、テーマWからは、水銀曝露の影響は乳児期より器官形成が行われている胎児期での曝露によって生じるが、神経症状を引き起こす脳への水銀分布は出生後に増加することが分かった。最後に、テーマXでは低濃度の水銀の気化物質の暴露が胎児の発育に悪影響を与えることについて、まだ解明さされていないと書かれている。これにおいては、いかに人体のしくみが複雑であり、謎に満ちているかを再確認させられた。
   次に、ビデオで見たチッソ水俣病関西訴訟について考えたのは、国と県の対応についてである。もっと早く、水俣病の発生原因や症状についての解明を始めていれば、被害の拡大や周囲の差別・偏見を抑えることができたと思うし、国が設定する水俣病患者として認定する基準もきちんとした措置をとることもできたと思う。このような問題は、水俣病のような公害病以外にハンセン病にもみられる問題である。国はハンセン病が遺伝病であり、恐ろしい病気だといった間違ったことを発表し、隔離政策を行った。そのために、ハンセン病患者とその家族はひどい差別を受けた。このことから、当たり前ではあるが、国の政策は国民に大きな影響を与えることが分かる。このことを国はきちんと理解し、今後、水俣病のような当初では原因不明な病が発生した場合には、原因の解明を素早く行い、二度と同じ過ちを繰り返されないようにしなければならないと思う。現在の水俣病に関する対策を調べてみると、厚生労働省は妊婦を対象に、魚介類に含まれるメチル水銀の耐容摂取量を2.0μg/kg体重/週とし、胎児への水銀被害を抑えていた。また、水俣病やハンセン病のように大きな問題ではないが、食中毒も市町村の保健所の管理によって原因が解明され、住民の快適な生活を守っている。このような、国の対策が今後も行われてほしい。
   水俣病も食中毒も、原因を解明するためには、医師の力が必要不可欠になると思う。病気の原因や発生機構を調べるためには、まさに今、私たち医学生が学んでいる人体のしくみを知っておく必要がある。医学生が学ぶことは全て、医師となった時に必要となってくるだろう。

5.まとめ
 今回は水俣病について調べたが、このような問題は水俣病以外にも多くあると思う。この水俣病のような問題が早く解決し、二度と起こらないためにも、医学生としての自覚を持ち、人体がいかに複雑であるかを忘れることなく、医学をきわめ続けたいと思う。そして、医師となった時には何事にも疑問を持ち、それに対する解明を素早く行わなければならないと思う。