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予防と健康管理レポート
私は今回、「中毒 平衡機能」というテーマのもとで、「垂直性下眼瞼向き眼振を認めたリチウム中毒の1症例」と、「新潟水俣病の神経耳科学的追跡調査」いう論文について調べた。
「垂直性下眼瞼向き眼振を認めたリチウム中毒の1症例」について
垂直性下眼瞼向き眼振というのは水平性眼振に比べ出現頻度は低く、この種の眼振が認められた時は、しばしば病巣局在診断的な意義が多いため臨床医の興味をひく。この論文では平衡機能検査で垂直性下眼窩向き眼振を認めたリチウム中毒症例があったので、そのことについて論文では報告されている。
@症例 患者:63歳 女性 主訴:意識障害
既住歴:躁鬱病
経過:平成2年7月頃より不眠、鬱状態が出現し、平成2年11月8日では症状は軽くなく、松江赤十字病院を受診し治療を開始した。平成6年10月より躁鬱病に対してリチウム療法を開始した。平成10年6月28日には精神状態が安定せず脱水による意識障害もあり、救急外来を受診した。
受診時は意思疎通困難、鬱状態で発語がなく、さらに全身脱水状態による意識障害を認め、血液検査の結果、リチウム血中濃度3.12mEq/?と高い値を示し、リチウム中毒と診断され、即日入院となった。平成10年7月18日に全身状態は回復したが、眼振は著名で、構音障害の持続があり、再度めまいやふらつきが四肢に失調を起こしたのが認められ、精査の目的で耳鼻咽喉科への紹介となった。
A各種検査およびその後の経過
聴力検査:特に異常は認められなかった。
平衡機能検査:平成10年8月28日に実施し、視標追跡検査では水平軸でataxicパターンが認められ、(論文の図1)視運動性眼振検査では水平軸において、両方向とも全般的眼振の障害を認めた。(論文の図A)また頭位眼振検査において下眼瞼向き眼振を認め、左右に首をねじることで眼振の増幅傾向を認めた。(論文の図B)またこの時に認められた下眼瞼向き眼振は衝動性に発現していることから、リチウム有毒による小脳の障害が認められた。1年後再び平衡機能検査を実施したが、所見は同じであった。
MRI検査:軽度の小脳萎縮を認めた。
その後の経過:リチウム血中濃度は平成10年7月3日に
1.02mEq/l、同年の7月26日には
1.0mEq/lに低下した。またリハビリを開始し、車椅子移動ができるようになり、そして平行棒での移動が可能になって、平成13年の4月に退院になった。しかし体幹失調や眼振は改善されなかった。
B考察
リチウムは躁病の治療に有効で、広く用いられている。しかしリチウム
有効血中濃度が0.3mEq/?から1.2mEq/?で、2.0以上では重い中
毒になる場合が多く、また一度中毒症状を起こすと重い脳障害が現れ予後
が悪い。リチウム中毒によって起こる脳障害のうち、小脳障害の報告はい
くつかあった。Coppetoらがリチウム中毒症例を7例経験し、そのうちの6例、下眼窩向き眼振を確認している。そのことから、リチウム中毒による小脳障害が疑われる場合、下眼窩向き眼振の有無は診断上大切な所見と考えられる。またリチウムが小脳に、より強い障害を与える理由としては渡辺と江原が、小脳が酸素欠乏に極めて弱く、ほかの神経伝達機構から全く代償を受けない解剖学的特徴を有していることに注目している。これに対し、リチウムが小脳のプルキンエ細胞や顆粒細胞を特異的に障害すると言う報告や、リチウムの濃度と細胞外イオン濃度の変化によって、小脳の下流細胞の働きが促進されるか、または逆に細胞死に至るということが実験によってわかったことで、リチウムが小脳に対して特異的な毒性があることがわかる。今回の症例では、脱水症状を起こしているのにもかかわらず、リチウム療法により、血中濃度が上昇した。だから小脳失調というリチウムによる中毒症状が起こったと考えられる。
C結論
リチウムは躁病の治療に有効な薬だが、有効な血中濃度と、中毒を起こす血中濃度が近いため、単にリチウムの血中濃度を測定するだけでなく患者の症状に注意を払うことが必要であるとわかる。特に小脳失調症状が認められる場合は、平衡機能検査による平衡機能検査による眼振の観察がリチウム中毒の発見に対して有効と思われる。
「新潟水俣病(有機水銀中毒症)の神経耳科学的追跡調査について」
「新潟水俣病の神経耳科学的追跡調査」について
1965年に、新潟県阿賀野川地区に発生したメチル水銀中毒症は新潟水俣病として熊本県の水俣病と共に公害病に設定された。その臨床像はHunter-Russel症候群として、四肢周囲の知覚障害、運動失調、平衡機能障害、視野狭窄、聴覚障害などの特徴が見られた。その後、中毒症の長期化、慢性化、患者の高齢化に伴って神経耳科学的所見の秒像も変化してきて、発生時より10年以後に追跡調査が行われ、その推移が報告されてきた。しかし、その病像は初期経過による個人差が著しく、中毒症の差によるものなのか、高齢化に伴う差によるものなのか不明になってきた。今回はこれらの新潟水俣病の追跡調査の患者中、第1回追跡より第2回追跡を施行し得た症例36例を中心に、神経耳科学的に長期追跡の推移について検討した中でその大要を報告し、従来の追跡調査と比較し、文献的考察を加えた。
神経耳科学的検査項目と方法は、純音聴力検査、自発眼振、頭位眼振、前庭反応、視運動性眼振検査、視標追跡検査、体平衡機能検査の7項目を中心に追跡した。
考察
聴力検査では45歳までは改善例が少なく、発症年齢の平均が48.0歳で高齢化に伴う影響があった。語音能力については全般的に加齢現象が見られても不変例が多い傾向が見られ、平衡障害例と比べても増悪例が少ない傾向があった。平衡機能障害に関しては改善例が多い傾向が見られた。この点、新潟水俣病では自発眼振、頭位眼振など増悪例が多い傾向を示した。前庭運動については過半数に近い症例にDP又は両側反応低下が見られ、最終的に高頻度の病的所見摘発率が認められた。体平衡機能検査では改善が14%、不変が55%、増悪が31%であった。一部若年者に改善例が見られたが、共同運動障害との相関性は高く、水俣病の病巣が小脳を中心とした失調症による現象のためと推論される。
神経耳科学的には、聴力障害と体平衡障害については比較的軽度の増悪だったが、自発眼振、温度眼振反応、視運動性眼振は著名であった。
今回のレポートでは論文を自分にわかりやすく解釈するために、論文を引用して自分なりにわかりやすくまとめてきたつもりだが、この論文を読んで自分なりにわかったことがある。患者の病気を見つけ出すためには、まず患者がかかっていると思われる病気に関する検査を行い、次にその病気の過去の症例を調べ、そして病気を診断する根拠を探り出す。このような方法が、病気の起こす疾患と、病気の原因を突き止める方法のうちの1つであるとわかった。今言ってきたように、医者が病気の原因を探り出す時にさまざまな検査を行ったり、過去の病気の症例を調べたりするだろうが、そのようなことをしていくうちに病気の正体が徐々にわかってきて、その病気に対する治療方針がいくつか出てくるだろう。そのような時、患者さんに対してオーダーメイド医療を施してあげることができるかもしれない。