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「予防と健康管理ブロックレポート」
・はじめに
このレポートは予防と健康管理ブロック講義において、4/7、4/14に供覧したビデオの内容と、自分で選んだ2つのキーワードよりPub Medから検索した論文から作成したものである。これまでの医療では行われていなかった、遺伝子レベルの解析を駆使したオーダーメイド治療について、その問題点について述べた。
・選んだキーワード
「nucleotide sequence」
「obesity」
・選んだ論文の内容の概略
「ヒトの重度肥満とGAD2多型との関連性を
裏付ける根拠の欠如について」
心臓血管の病気による罹病や死亡が急激に増加したことで、「肥満」はいまや、21世紀の大きな公衆衛生における問題となっている。
肥満は2型糖尿病や、高血圧、高脂血症、心不全に強い関わりを持っている。これらの病気の症状はクラスVの肥満(BMI>40)の人に重く、またこの人たちはこれらの病気を同時に患っていることが多い。その肥満における、遺伝的要因の重要性は、これまで双子や養子による実験によって良く確かめられてきた。現在では肥満における遺伝的要因と環境的要因の存在は確立され、遺伝的要因は特に重度の肥満や、若年からの肥満で強くみられると言われている。
染色体10p12領域の、重度肥満との重大な関連性は、以前に提唱されていた。その関連を示す、強力な証拠はD10S197マーカーであった。このマーカーはグルタミン酸デカルボキシラーゼ2(GAD2)遺伝子の7番目のイントロンにみられ、この遺伝子領域はグルタミン酸デカルボキシラーゼの65kDaのサブユニットGAD65をコードしていた。
最近の研究で、GAD2はヒトの肥満に関連するという証拠が発表された。この研究では、188の核家族から612人を対象として、GAD2のうちの、3つの一遺伝子多型SNPs(−243 A>G,+61450 C>A,+83897 T>A)がクラスVの肥満(BMI>40)に関連が認められると主張された。この研究では575例のケースコントロール研究(ケースと類似しているが疾病、あるいは関心のある状態を持たない対象者)と、646人のやせている対照も示され、また、−243 A>GのSNPの病態生理学での役割を説明するような実用的なデータも示された。
この論文では、前述の論文研究を踏まえ、これを検証するために以下の研究を行った。
・家族性に基づいたテストとして、693の核家族から2359人のゲルマン系カフカス人の肥満とGAD2SNPsの関係性を調べた。(この場合の核家族は、肥満の子供とその同胞、そして両親で構成される。)
・ケースコントロール研究として、二種族の北アメリカ系カフカス人、アメリカ合衆国とカナダのカフカス人(クラスVの肥満者とやせた人)の肥満とGAD2SNPsの関係性を調べた。
それぞれのグループの内訳を示す。
この結果は以下のようであった。
・ゲルマン系カフカス人では、89家族でのみD10S197マーカーが検出され、即ち肥満とGAD2SNPsの関係性は見出されなかった。
・ケースコントロールのアメリカ系カフカス人では、3つのGAD2SNPsは302人の肥満者と、427人のやせた人から検出された。
・カナダ系カフカス人でもアメリカ系カフカス人のデータと類似した、肥満者、やせ型どちらにもみられた。
それぞれのグループの結果を示す。
ゲルマン系カフカス人における結果
ケースコントロールのアメリカ系カフカス人における結果
カナダ系カフカス人における結果
これらのデータより、肥満とGAD2SNPsの関係性は見出すことはできず、また、−243 A>GのSNPの肥満における病態生理学での役割がないことをしめす実用的データを得る結果となった。
この結果をうけて、分類不能で複雑な疾病を含めた遺伝的関連のある変異の研究(重要でないデータの過剰解釈や、集団特異性、生理学的な妥当性など)はGAD2と肥満についての事情と同じように、もっと議論されねばならないだろう。
・論文とビデオを見て、自分の意見
4/14に見たビデオでは、オーダーメイド治療について語られていた。それは患者個々人の遺伝子情報を解読して、その患者の体質に合った治療を行うというものであった。これが実用化されれば、医師としても診断や治療の方向性においての重要な情報を得ることができ、また患者としても遺伝子情報を具体的に示され、方向性のみえる医療、安心して受けることのできる医療となるなど、様々なメリットが生まれてくると思う。
しかし、その一方で、遺伝子情報を解読するという行為自体の倫理的問題や、データ化された遺伝子情報の管理についてなど、まだまだたくさんの問題点が存在すると思う。今回読んだ、上述の論文では、そのようなオーダーメイド治療の問題点のひとつとなりうることについて論じられている。
それは遺伝子と病気の関連性の研究についてである。ビデオの中で遺伝情報に基づいた肥満治療が例として出されていたが、そこでは肥満に関連があるとされる遺伝子を解析し、その遺伝子タイプで患者の太りやすい、やせにくい体質を指摘していた。そこで問題となってくるのは、まさに遺伝子と病気(この場合肥満)の関連性の信憑性である。どのような条件で、遺伝子と病気の関連性が確かなものだと認められているかは分からないが、少なくとも今の段階では、できるだけ多くの同一の病気を持つ人を集め、遺伝子分析を行い、共通した遺伝子タイプが認められれば、その被験者の数に応じて遺伝子と病気の関連性が認められるのだと思う。このような状況であると、上述の論文に見られるように、研究によって遺伝子と病気の関連性が示されても、その研究でのサンプル数より多い研究で、以前示された関連性が否定されることも大いにあるだろう。またその逆も起こりうると思う(例えば、また他の研究によって今論文の結果が覆されるなど。)また、多数の遺伝子が関与する病気、体質はそれだけ関連性を立証するのは難しい(それだけ膨大な量のデータが必要)と思う。この問題があるかぎりオーダーメイド治療の信頼性は上がらず、実用化されることは難しいだろう。
これをクリアーにするために、遺伝子と病気、体質の関連を明確にする研究の進歩が必要である。具体的に、どのように研究が進んでいっているかはわからないが、例えば遺伝子解析能力、スピードが上がればそれだけ多くのデータを得ることができるであろうし、ひとつひとつのデータの信憑性が上がることで、全体の信憑性も上がることになるだろう。この問題の解決は難しいだろうが、これまで遺伝子の解析に世界中で全力をそそいできた結果、すさまじい速さで解析は進んできた。今後、その成果の実用化という面に技術が注がれるとすれば、以外に早くオーダーメイド治療が行われることになるかもしれない。
・まとめ
今回のレポートでは、将来の医療の大きな力になるかもしれない、オーダーメイド治療の内容と問題点について考察した。まだまだ課題は残っているが、実用化されたらこれ以上ない情報の源になるだろう。しかし自分は、これから医師として医療に関わる際には、もちろん遺伝子情報や各種画像など先端技術によってもたらされた情報は重要だが、それ以上に重要なことは、やはりその情報を最大限に活用することだと思う。情報にとらわれすぎると間違いを犯すかもしれないということは、この論文が示しているし、患者に対する問診が一番重要な、基本的な情報源であることが多いのではと思う。その基本をないがしろにして、情報にしがみついているばかりでは、良い医師とは呼べないだろう。パソコンの画面ばかり見て、患者の顔、話、症状を見たり聞いたりしない医師に、患者は命を預けるほどの信頼を寄せるだろうか?患者が医師に求めるのは、確かな技術と知識、何より信頼感ではないか。そんな医師であるためには、先端医療に対する興味、知識を常に持ちつつ、目の前の患者にできる限りを尽くすことが最も重要なことだと思った。