【レポートサイト top】  
------------------------------------------------

予防と健康管理レポート

 

1. はじめに

わたしは今回水俣病に見られる問題点をその症状と社会的問題点、さらに次世代への影響に関連させて考察した。水俣病はその神経系症状と原因究明が遅れたことによって大きな環境問題になったと考えている。また、こうした公害問題、環境問題全体に言えることだが、次世代を担う子供たちにも影響を与えてしまう。

今レポートではそういったポイントに焦点を当てていく。

 

2. 選んだキーワード

メチル水銀 妊娠

 

3. 選んだ論文の内容の概略

ひとつは、メチル水銀の毒性発現機構について。

ここでは酵母を実験材料に使用し、その増殖に必要なGFAT酵素というものに注目している。この酵素にメチル水銀が高い親和性を有し、特異的にその活性を阻害するとある。著者らは酵母にメチル水銀耐性を与える細胞内因子を検索し、2つの酵素を同定することに成功している。そのうちのひとつとしてGFAT酵素というものと、ユビキチン/プロテアソームシステムというものがある。

ただし、これは酵母内だけの話であり、圧倒的に複雑な人間の場合には当てはまらないらしい。

もうひとつは、妊婦の魚の摂取についてである。

現在、魚類は食物連鎖で高次のものになればなるほどメチル水銀の濃度が高く、これを摂取することによってメチル水銀中毒に陥る危険を報告している。メチル水銀の毒性影響がもっとも発現しやすいのは脳神経の発生、形成期の胎児、乳児であることから妊娠する可能性のある女性、妊娠中の女性、あるいは母乳を与えている女性を主たる対象集団としている。

具体的には1、メチル水銀の毒性評価、2、メチル水銀の暴露経路、3、魚摂取の効能、4、妊婦の魚に関する食事指導である。

ただし、ここでは、メチル水銀濃度の高い特定魚介類を一時的に摂取制限することによって次世代への影響を最小限にすることが目的である。したがって、EPAやDHAなどの高度不飽和脂肪酸を多く含み、かつメチル水銀含量の低い魚の摂食を制限するものではない。

 

4. 考察

私はビデオと論文を踏まえて、水俣病の治療とそれに関する法的問題点、メチル水銀汚染の次世代への影響について考えた。

まずはじめに、水俣病の治療の問題点について、一度発症した水俣病に対する有効な治療法は無いことだ。なぜなら、たとえ毛髪などからメチル水銀が排出したとしても、

すでに中枢神経や脳が傷害されてしまっているからだ。これによって重大な責任問題が生じる。水俣病の場合、チッソ社が1932年操業開始から1968年原因解明までの36年間、メチル水銀を不知火湾に垂れ流してきた。第一号患者が発見されたとされるのが1956年。24年間の汚染の蓄積を経て発症したことになる。さらにここから、12年間分のメチル水銀を垂れ流し、周辺住民を苦しめ続けた。その12年間行政、医療はどう動いたのか重要なものを年月順にまとめてみた。

 

1956年 4月 患者第一号

1957年 2月 熊本大学研究班、水俣湾内の漁獲禁止が必要と報告。

      9月 厚生省漁獲禁止にはできないと回答。

1958年 8月 県、新患者続発に伴い漁連、漁協に操業厳禁を指導通達。

     12月 公共用水域の水質の保全に関する法律(水質二法)の制定

         工場排水等の規制に関する法律(水質二法)の制定

1959年 1月 坂田厚生大臣水俣視察

1960年 7月 漁獲自粛

1961年 6月 熊本大学、原田教授、水俣病は有機水銀との強い因果関係があると発表。

      8月 胎児性水俣病の最初の公式判定

1968年 5月 チッソ水俣工場アセチレン法アセトアルデヒド製造中止

         (これによってメチル水銀の排出はストップ)

1968年 9月 政府が、熊本水俣病はチッソのメチル水銀が原因と断定。

 

以上のように、目立った動きのみを取り上げてみた。

ここでは、第一号患者発生から漁獲自粛までの時間と、チッソの水俣工場操業停止までの期間に注目した。前者は地元産の魚介類が疑われながらも4年かかっている。なぜなら、生活保障もなく海で生計を立てるものにとって死活問題だったからではないかと考えた。途中の行政の対応もなきに等しい。強力な指導をする部署がなかったからだと思った。当時の最前線の医療従事者たちはたくさんの水俣病患者を診るうち魚介類が疑わしいと感じていたはずである。そのことが行政にまできちんと伝わっていたとは考えにくい結果になった。このことは、今後の教訓にしていかなければいけない。

また、1961年にメチル水銀が原因と強く疑われながら、チッソの工場操業停止まで7年かかったことも問題である。その間には胎児性水俣病まで発生している。この対応の遅さが水俣病をさらに大きな問題にしたと強く思う。私は、この時点で水俣には二つの立場の地元住民がいたと考えた。ひとつは、チッソに雇われていた人々。もうひとつは、漁業関係者や、その他の住民である。わたしはこの二つのグループが対立してしまったことにより、地域住民の連携不足が生まれ、対応が遅くなってしまったのではないかと思った。さらに、この七年の間に医療、行政は根本的なこと、つまり即時チッソ工場の操業停止に踏み切らず、水俣病の認定基準に論議の時間をかけていたとおもった。たしかに、認定基準を決定し、医療保障や賠償請求の足がかりになるようにすることも大切だと思う。しかし、それ以上の被害者、犠牲者を作らないためにも、工場操業停止が大切だったのではないだろうか。

さて、これまでは、原因を排除する過程に的を絞っていた。次は水俣病患者に対する法的ケア、事後対処に注目した。

ここでも問題点にいくつか気づいた。一つ目に医学的な後天性水俣病の認定基準である。

これは別名52年判断条件ともよばれ、

水俣病に関する症状として

1、感覚障害、2、運動失調、3、平衡機能障害、4、求心性視野狭窄、

5、中枢性眼科障害、6、中枢性聴力障害、7、その他

がある。このうち複数の症状が認められないと認定されない。つまり軽症の水俣病患者には保障が出ないばかりか「被害者」にも認定されないことになると思った。実際、新潟水俣病も含めて約一万八千人が申請したが、認定は約三千人にとどまっていることから、申請していない潜在的な人数を含めて考えると、相当な人数になると考えられる。これが水俣病問題をさらに大きくした原因のひとつではないかと考える。補償問題と複雑に絡み合ってできた認定基準であり、医療従事者にとっては、水俣病と強く疑われたとしても認定されない矛盾した基準だと思う。さらに、司法判断は、軽症の患者にも認定をしている。しかし、行政はしていないダブルスタンダードともいえる状態になっている。これほど不安定な医学的判断基準は、本来生み出してはいけない事だ。

次に問題なのは、胎児性水俣病患者である。主にこの原因となったのはすべて対応の遅れからなったものだと前述した。論文より、胎児期にメチル水銀に母体を介して暴露した場合、成人よりも影響が出やすいとある。すなわち、重症である場合が多いということだ。なぜなら、胎児は神経分化の途中であり、メチル水銀の影響を敏感に受けてしまうからである。また、母親赤血球中水銀濃度より臍帯赤血球中水銀濃度のほうが高くなってしまうことも胎児に大きな影響を与えてしまう原因のひとつになっている。このように、環境汚染はその世代のみならず、次の世代にも影響を与えるのだ。汚染の種類によって、期間は相違なれど、少なくとも三世代は被害を被ると考えられる。なぜなら、最初の世代は直接的な害によって。次世代はさらに胎児性などの間接的な害によって。そして三世代目以降には、直接的、間接的あるいは経済的で慢性的な被害を被るのだ。別の事例で言うと、代表的なものでは、チェルノブイリ原発の事故だろう。私たちは子孫によりよい環境を伝えていかなければならないのだ。

では、現在の世界的な摂食中毒の影響はどうなっているのか調べてみた。影響を受けやすい妊婦の魚介類の食事指導の内容を例に取る。

 

 

アメリカ

合衆国

イギリス

カナダ

オーストラリア

及びニュージーランド

ノルウェー

機関

Food&Drug

Administration

Food Standard Agency

Health Canada

Australia-NewZealand Food Standard

SNT(食品衛生監視局)

実施時期

20013

2002520032

20025

20011

20035

魚種

サメ、

メカジキ、

サワラ、

アマダイ

サメ、

メカジキ、

マカジキ、

マグロの缶詰、マグロステーキ

メカジキ、サメ、

マグロ

サメ、

エイ、

カジキ、

ギンサワラ、

ミナミマグロ

地熱水域で漁獲される魚

クジラ、

パーチ、

川カマス、

マス、

イワナ、サメ、

カジキ、

マグロ

対象者

妊婦や妊娠を考えている女性。

授乳中の母親や乳幼児も同様。

妊婦や妊娠を考えている女性。

授乳中の母親、乳児、16歳以下の子供

すべての人。さらに乳児、妊娠可能年齢の女性。

妊婦や妊娠を考えている女性。

妊婦、授乳中の母親。

指導内容

上記の魚の摂取を避けるとともに、その他の魚種は週に340gとすべき。

妊婦や妊娠を考えている女性、授乳中の母親は避けるとともに、一週間にマグロ缶詰二個以下またはマグロステーキ一枚以下にすべき。また乳児、16歳以下の子供はさけるべき。

上記の魚の摂食は週に一度とすべき。また幼児、妊娠可能年齢の女性は月に1食とすべき

週に4食以下とすべき(1食150グラム)

妊婦、授乳中の母親は鯨を食べるべきではない。また妊婦はクジラ以外の上記の肴についても食べるべきではない。

 

前頁のような内容から、積極的な摂食指導が行われていることがわかる。特に注意すべき魚類はほとんど食物連鎖の頂点付近にいるものばかりである。そして対象者も妊婦や子供などである。このように世界中で摂食中毒障害に敏感になっている。

最後に、今急激な経済成長を遂げている中国、インドなどの環境汚染が心配である。急激な変化の中では、必ずひずみが生じ貧富の差や第二の水俣病などが出てきてしまうものだ。実際、中国とロシアの国境のアムール川ではすでに河川が汚染され、深刻な国際的環境汚染となっている。日本もこの影響が出るかもしれないという報告もある。そういった国々に、皮肉にも国際語となってしまったMinamataを思い出してほしい。

 

 

5、まとめ

環境汚染のひとつとして、公害のひとつとして、水俣病をレポートした。調べれば調べるほど、対策が後手後手にまわってしまう行政、医療の監督に残念で仕方が無かった。ただ、唯一の救いはこの事件が風化していないことだろう。現場医療関係者の言葉、ユージン・W・スミス、アイリーン・M・スミスの写真を見て今後の戒めとしたい。