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1 はじめに

     このレポートは遺伝子多型と肥満について調べたものであり。またそこからオーダーメイド医療についても考えてみた。オーダーメイド医療とは、エビデンスをもとに病気の根本的な原因を探し出し、また治療前に薬効、副作用の予測を行い、より有効で副作用の無い医療の提供を行うことである。
    
2 選んだキーワード

     今回私が選んだキーワードは「遺伝子多型と肥満」であった。そもそも遺伝子多型とは、遺伝子を構成しているDNAの配列の個体差であり、集団の1%以上の頻度であるものと定義されることが多い。同じDNAの配列の個体差でも変異は例外的な変化で、それだけで大きな表現型(観察できる生物の性質のことで、設計図である遺伝型に対比する言葉)の変化や、病気(これも遺伝学では一種の表現型と考えられる)を起こす原因になっている。現在、多因子遺伝病(喘息もその一種である)との関係で、有用とされている遺伝子多型は2種類ある。一つはDNAの配列の1箇所の塩基配列が別な塩基に変わっている、一塩基多型(single nucleotide polymorphism)で、SNPとしばしば表記される。もう一つは2個から4個の単位の配列が数回から数十回繰り返す、「繰り返し配列」の繰り返し回数の個人差で、マイクロサテライト多型(microsatellite polymorphism)と呼ばれるものである。SNPはヒトゲノム上で最も数多く存在する多型で、平均約1000塩基ごとに一ヶ所みられ、おそらくゲノム全体では200万以上はあるとみられている。マイクロサテライト多型は3万から10万塩基に一ヶ所あるとされ、約十万ヒトゲノムに存在するとされる。SNPはマイクロサテライトより、個々の情報量は少ないが数が多いため、病気との関係や薬の効果など臨床に役立つものが見つかるのではないかと期待を集めている。
     また数あるテーマの中で、肥満を選択したのは、私自身が肥満であるため興味がわきやすいだろうという考え方からである。

3 論文の概略

      最初に選んだ論文は「日本人肥満者の遺伝的背景とテーラーメイド型食  事指導の実践」という論文である。二つ目は「生活習慣病の遺伝学的検査と遺伝子検査  肥満 」という論文を選んだ。
     
     
@「日本人肥満者の遺伝背景とテーラーメイド型食事指導の実践」の概略

      肥満には環境だけでなく遺伝子も関与している。肥満に関して遺伝子の関与は25%くらいで75%は環境因子(食生活習慣、交通手段、精神面的因子)によるらしい。重症の肥満をきたし常染色体優性あるいは単一遺伝子病としての肥満は世界的に見ても稀である。これに対して過食、高脂肪摂取、運動不足などの環境因子が加わると肥満を引き起こす多因子性肥満遺伝子は数多く報告されている。これらの遺伝子はいわゆる倹約遺伝子であるが、日本人にはこの倹約遺伝子が欧米人に比べ2〜4倍も高頻度に存在していることが明らかに されている。
      倹約遺伝子は飢餓の時代において、摂取エネルギーを最大限に吸収し消費エネルギーを最小限にするという意味において生存に有利であった。しかし現代の日本は飽食の時代であるので、倹約遺伝子をもっていると肥満になりやすく なる。また、肥満によって高血圧や糖尿病になる可能性があがる。代表的な倹約遺伝子をあげると、β3アドレナリン受容体遺伝子である。この遺伝子は、褐色死亡細胞組織と白色脂肪組織に存在し、この部位にノルアドレナリンが結合すると、褐色脂肪組織では熱産性、白色脂肪細胞組織では脂肪分解が始まるため、この受容体は痩せるための受容体と考えられている。β3アドレナリン受容体の遺伝子多型は日本人の34%がもっており、この多型を持たない肥満者に比べ安静時代謝量が一日あたり200kcalも減少している。ほかにも脱共役蛋白質1(uncoupling protein1 :UCP1)があげられる。UCP1は交感神経が興奮したときに、褐色脂肪組織における熱産性の中心的役割を果たす。このUCP1の遺伝子多型をもつのは日本人肥満女性の約24%に存在し、全身代謝量が一日あたり100kcal減少している。また安静時代謝量を亢進させる肥満関連遺伝子としては、β2アドレナリン受容体遺伝子があげられる。この受容体は主に心臓、気管支平滑筋、などに分布しているが脂肪組織にも存在しており脂肪分解にも関与している。この遺伝子多型をもつ日本人は16%存在するが、特に、高度肥満女性では食事、運動療法後、多型の無い者より安静時代謝量が300kcal亢進しており痩せやすい。
      最新の遺伝子診断を用いると、肥満治療の減量食の内容は人によって大き
     く変わってくる。たとえば通常の女性には一日1200kcalの減量食を提供するが、β3アドレナリン受容体遺伝子の多型を持つ女性には更に200kcal減らした1000kcalの減量食を用意しなければ肥満治療の効果が出にくいだろう。個人の体質に合わせたテーラーメイド型の食事指導を守れば 必ず痩せられる時代になってきている。
      
     
A 「生活習慣病の遺伝学的検査と遺伝子検査  肥満 」の概略  
      
      肥満発症に遺伝素因が関与していることは古くからの疫学的調査によって実証されている。Maesらが合計25000人以上の双生児、50000人以上の親子、養子の疫学的調査をまとめたところ、一卵性双生児同士のBMIの相関係数は0.74と高い創刊を示していたが、二卵性双生児間では0.32、兄弟間では0.25、親子では0.19、養子では0.12であった。このように肥満症には環境因子のみならず、遺伝的素因も重要である。
      肥満関連遺伝子は主なもので100遺伝子近く報告されている。しかしこれらの遺伝子には相関がなかったという報告もあり、これらの遺伝子がどの程度肥満に関連しているかは検討が必要である。またある調査によると肥満発症に関連した遺伝子は存在する頻度に人種や民族差が存在しているようだ。
      現在日本では、肥満の遺伝子検査は一般的には行われていないが、肥満治療薬の開発に伴い、治療薬や重篤な副作用の予測というオーダーメイド医療の一環として遺伝子検査は今後必要な検査となってくるだろう。また、遺伝子解析の進展に伴い肥満やメタボリックシンドローム発症に関連する遺伝子が同定されば、遺伝子治療も含めた新たな治療法の開発が期待される。

4 考察

      今回、遺伝子多型と肥満の関連性について調べたが、肥満の多くは環境因子と遺伝因子が複雑に絡み合って発症することがわかった。そして遺伝因子の多くがSNPによってもたらされおり、個人個人にあわせた食事制限をすれば痩せられる可能性が相当高くなる。また遺伝子解析が進むことにより、新薬が開発されたり新しい治療法が生み出されてくるだろう。このように医療はがオーダメイド医療に向かいつつあることも良くわかった。
      日本ではオーダーメイド医療を実践することにより薬剤のマ−ケットの縮小を懸念する製薬メーカーの声が強く遺伝子解析結果の導入には消極極的であっったらしいが、厚生労働省は欧米の動向も踏まえ、医薬品の臨床試験におけるデータの利用指針を作成すべく製薬メーカーなどからの情報収集を開始している。また特許庁は医薬発明の審査基準において特定の遺伝子型において効能などに差があると明確にした場合は特許性を認めると明文化している。これに よって特許切れの薬も遺伝子型により有効な集団の特定、副作用発現郡の特定や薬物の投与量などを規定することができるなら、特許性が生じることを意味するのである。オーダーメイド医療の実現には、製薬メーカーの協力が不可欠であり、製薬メーカーがpharmacogenomics(医薬品を患者の個人的な遺伝子コードに適応させることで治療の失敗を減らすことを目指すもの)を受け入れやすくなる環境になりつつある。また11年前のアメリカの統計では、副作用が原因で年間に10万人が死亡しており、200万人が重篤な病気を発症し、8兆円の医療費が費やされているらしい。オーダーメイド医療が提供されることによって、個人に合わせた治療ができ、また余計な医療費もかからなくなる。
      オーダーメイド医療はいいことずくめのように聞こえるがまだ超えなければならない壁がある。遺伝子情報は言わば、究極の個人情報であり、情報管理が極めて重要な事項である。遺伝子多型と病気に明白な関係性が見出された時に、遺伝情報による差別や、結婚や生命保険の加入に対する影響などもでてくるだろう。実際にアメリカでは十分な対応策を持たずに鎌状赤血球のスクリーニングを始め、それが雇用差別などに誤用され住民の反発をかい、中断した歴史がある。一方うまくいった事例もある。キプロスである。キプロス島ではβサラセミアの保因者が7人に1人で、発症頻度が極めて高く、このことが国の経済問題にまで発展した。そこで結婚前カップルの自由意思による選択肢として、避妊、βサラセミア患児を産む選択、第3者の精子あるいは卵子の受け入れ、出生前診断とそれに続く選択的人工中絶など多彩な選択肢を医療政策として設定した。すると1972〜1982の十年間でβサラセミアの発症率を当初の10%以下までに下げることに成功した。このプログラムが成功した要因は、住民への教育、自由意思による参加、対策検討の継続性、費用の無料化、守秘義務の厳守、適切なカウンセリングの実施などがあげられる。
      このように遺伝子診断によるオーダーメイド医療は諸刃の剣であることは明らかである。倫理観が問われるような問題は慎重に進めなければならない。   
 
5 まとめ

      ビデオ見て、論文を読むことにより、病気のかかりやすさや薬の副作用や効果の度合も遺伝子も大きく関係しており、遺伝子を解析することによって、個人個人に必要な薬や治療も変わってくるオーダーメイド医療時代がすぐそこまできていることを実感した。しかしオーダーメイド医療にもまだ問題点が存在していることもよくわかった。これから医師になっていく私たちも十分に考えておかなければならない。