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1.はじめに
このレポートは水俣病、オーダーメイド医療についてのビデオを見て、それに関連した2つのキーワードを選び、論文を検索して書いたものである。
2.選んだキーワード
@環境汚染 A運動障害
3.論文の概略
T.阿賀野川流域水銀汚染地域住民の健康調査
<目的>メチル水銀汚染地域住民の健康障害を対照群、水俣病認定患者の比較検討
<対象>
水銀汚染地域の安田町千唐仁・布目の約320人の中で認定患者1人を含む40歳以上の人100人についてその結果をまとめた。対照地区として、千唐仁と似た生活環境をもつ新潟市内の一区域の農家178戸で40歳以上の43人に呼びかけた。
<方法>
@ 自覚症状のうち最も苦痛に感じる3つをあげてもらい、これとは別に水俣病に特徴的な26の自覚症状の有無について問診した。
A 感覚障害を捕らえるため125Hz振動刺激を第三指中節骨、第一指基節骨に加え、振動覚閾値を定量的に測定した。
B 協調運動障害をとらえるために、ディアドコメーターを用い右手の角速度を測定した。
<結果>
@ 自覚症状は千唐仁、認定患者群で四肢のヤメ・痛み、痺れ、腰痛などの頻度が対照群に比べ高い。
問診26項目について千唐仁の出現頻度は対照地区と認定患者群の中間に入り、肩こり腰の痛み、手足のヤメ・痛みが有意水準5%で差を認めた。
A バイブロメーターテストでは千唐仁地区は対照よりも振動覚閾値は高く、認定患者よりも低かった。
B 交互変換反復テストの結果は千唐仁地区では対照群に比べ角速度は低下し、50・60代の有意水準5%で有意差を認めた。
<結論>
結果から水銀汚染地域千唐仁の健康障害は明らかで、それはメチル水銀によるものと考えられる。広範の水銀汚染を考える時、肉体的、社会的に苦痛を負わされながらも、いまだに救済されない人が数多くいると考えられ、その実態の調査と救済が早期に必要である。
U.胎児性水俣病患者の症状悪化に関する緊急提言
@ 胎児性水俣病患者の急速な運動機能悪化
1996年秋、東京での水俣展の開幕挨拶で舞台に立った胎児性水俣病患者の一人から「最近、症状が急速に悪化しており、身体が動かなくなってきた」という発言を聞いた。
この時、すぐに思い浮かんだのが*)ポリオ後症候群である。
再び、水俣市で開催された第六回国際水銀会議に出席した胎児性水俣病患者の現状を見たときである。1996秋には不自由ながら介助なしで歩き舞台に立って挨拶をしていた胎児性水俣病患者が、今では車椅子に移るのにも介助が必要になっていたのである。わずか5年で、しかも46歳いう年齢で、これほど急速な運動障害の進行はたたごとではないとしかいいようがない。ただし、このような急速な症状の進行は胎児性水俣病患者全体に及んでいるわけではないが、ほかにも何人かに見られる。特に、歩行、起立などの運動機能の障害が大きいようである。
*)ポリオ後症候群
ポリオ(小児麻痺)に罹患した人が罹患後10〜40年後に動作時の易疲労、関節痛、筋肉痛
筋力低下、息切れ、四肢冷感などを呈し、歩行や階段昇降などの日常生活が困難になるというもので、一般的にはポリオ罹患の症状が重篤なほど、また年齢が高いほどポリオ後症候群を発症しやすいといわれている。原因は完全に解明されたわけではないが、ポリオ後症候群罹患後長期にわたる運動ニューロンへの過負荷によるニューロンの変性脱落と筋肉の退行変性が重なったと考えられている。日本では戦後20年間に約3万7千人のポリオ患者が発生した。最近の疫学調査結果によるとポリオ患者の約25パーセントが発症するとされている。
A 胎児性水俣病患者の運動機能障害の原因
胎児性水俣病患者の急速な運動機能障害の原因が何によるかはっきりしていないが、ポリオ後症候群が大きなヒントとなっているように思う。胎児性水俣病患者の死亡例では、錐体路に髄鞘形成不全が見られるが、脊髄前根、後根には変性がない。しかし、大脳中心回における神経細胞の減少、脱落とその階層における高度の低形成が著名で、これらが全体として胎児性水俣病患者における出生当初からの運動機能障害の原因をなしていると考えられている。一方、中枢神経系の部位にもよるが、大脳皮質では40歳代後半から加齢にともなう神経細胞の明らかな減少が認められる。これらを総合すると、もともと胎内におけるメチル水銀暴露によって大脳皮質神経細胞の減少、低形成があるところへ加齢による大脳皮質神経細胞の減少がかさなって、通常であればもっと高齢になってから現れるはずの運動機能障害が40歳代で出現したと考えられる。このほかにも、患者が多用する薬の副作用などについても検討しなければならない。
B 胎児性水俣病患者のQOL実態把握とその改善
病因よりも大きな問題として胎児性水俣病患者の生活の質を改善し、よりよいQOLを保つための組織的な努力が必要である。水俣病の原因解明には大きな努力が注がれたが、原因が明らかになり補償問題も一応の決着がつくと、加害者の生活は補償によって保障されているような形になっている。しかし、胎児性水俣病患者の症状は日々変化しており、当初にはまったく予想されなかった症状が加わってきている。現在、胎児性水俣病患者は66人であるが、問題は患者のQOL改善であり、国、自治体、医学の責任である。これらの実態を解明し対策を建てるのは加害者だけでなく国、自治体、医学の協力が必要である。
国は国立水俣病総合研究センターを設置し、ある程度の研究を継続してはいるが、胎児性水俣病患者の症状経過については調査も研究もまったくおこなわれてない。国を挙げての努力が緊急になされるべきである。
C 公害健康被害者のQOL実態把握とその改善に対する社会の責任
これまでは胎児性水俣病患者の急速な運動機能障害について述べたが、さらに公害ではないが四メチル鉛中毒や一酸化中毒症後遺症患者など過去に大量の神経細胞喪失を経験した人々にも類似した障害の発生を予想しなければならない。また、1980年ごろから増加傾向にある肺炎による死亡は大気汚染が影響している。全国的に多発した水俣病や大気汚染被害をはじめとする公害健康被害者の予後を追跡し、QOLを高めるのはわれわれの責任である。公衆衛生および環境問題関係者の活発な議論とその結論の実現を心から期待したい。
4.考察
水俣病のビデオを見て
私は今回のビデオを見て水俣病は昔あった公害であるが、今も忘れてはならない問題だと再認識させられた。
昭和52年に国は独自の判断基準により水俣病患者を認定した。しかし、地元の医師によると水俣病患者は約2万人と認定しているにもかかわらず国は2300人しか認定していない。そのため、水俣病の症状が発症しているにもかかわらず保険を受けられず苦しんでいる患者が存在するような状況になってしまった。また、金銭面の問題だけではなく加害者である国が謝罪しないということで精神的な苦痛を受けてきた。そして、患者と国の裁判闘争が始まり、現在になりやっとのことで患者側が勝訴した。しかし、国側は52年の認定基準は正しいと公言しているため、いまだに水俣病と認定されない水俣病患者が多数存在している。
では、医学生として自分に何ができるか考えてみた。患者の平均年齢は70歳を超えている。そのため、やっと重い腰を上げた国はこれから責任を果たそうとするだろうが、患者の中には間に合わない人も居るかもしれない。実際に裁判中にも多くの患者が亡くなっている。そこで、医師はサポートし、精神的・肉体的なケアをして患者のQOL高めることで患者が少しでも満足して亡くなれるよう努力しなければならない。また、医師は患者の意見を代弁し国に対して積極的に問題提起をして、二度と同じような過ちを繰り返さないように努力しなければならない。
オーダーメイド医療のビデオを見て
オーダーメイド医療とは一人一人の体質に合わせた医療の形である。もしこの技術が普及すれば医学はさらに進歩するだろう。例えば、薬は同じ量を飲んでも効く人もいれば効かない人もいる。しかし、これまではどの人にも同じように薬を投与していた。これでは治療が期待できないだけでなく、下手をすると副作用により命を落とすかもしれない。しかし、オーダーメイド医療では遺伝情報に基づいて患者一人一人にあった種類で適切な量の投与をすることができる。他にも、ガン治療においての抗がん剤治療でも、その副作用を減らすことが考えられている。
しかし、オーダーメイド医療には問題点も含まれている。オーダーメイド医療を行おうとする場合、遺伝子診断を行わなければならず、その情報により本人が知りたくもない結果が出ることもある。そのとき医師はどうするのか。治療法が確立されてない病気にはどう対処するのか。また、この情報により生命保険の加入を拒否されるということも考えられる。
オーダーメイド医療はその利点のため近い未来に実行されると私は思う。だが、実施されるまえに十分な説明を行わなければ世間は混乱するだろう。説明するのは医師だけでなく国の仕事でもある。それで社会に受け入れられてからでなければ実行すべきではないと私は思う。
論文を読んで
私はこの論文を読んで、初めて胎児性水俣病という言葉を聞いた。母親からメチル水銀をうけとった胎児はさまざまな症状を発症する。軽いものでは自分で歩くことができるものから、錐体路の異常による死亡例もある。小児のとき症状が軽くても加齢とともに悪化するが、中には急速な運動障害も見られることがあり、それは予想外のことだったと専門家はいっている。
しかし、この急速な運動障害は予想できたのではないかと私は思う。なぜなら、ポリオ後症候群という病気が似たような症状であるからである。ポリオ後症候群は研究がある程度進んでいるため原因の解明がなされている。比べて、水俣病では原因は解ってはいるものの患者の経過は研究すらなされていない。当時、国は病気だけを診て患者を診ていなかったのではないかと思う。国立の水俣病研究機関があるにもかかわらず研究がおこなわれないのはもったいない。また、国は加害者であり患者のQOLを改善する責任があるのだ。患者のQOLを高めるためには医師の努力も必要不可欠であり、国と協力しなければならないだろう。これは水俣病に限った話ではなく、大気汚染が原因の肺炎などほかの公害にもいえることである。症状が一生ついて回るならばその悪化を防ぎ公害健康被害者が少しでも安心して暮らせるようにすることで責任を果たしてはしいと私は思う。
5.まとめ
私はこのレポートを作成して、オーダーメイド医療と水俣病という医学にとって未来と過去を学ぶことができた。特に、水俣病における運動障害について疫学的にも、病理的にも理解することができた。また、運動障害を通して患者の生活における苦労を知り、QOLを高めることの大切さと難しさを学ぶことができた。この知識を単に水俣病についてのものと捉えず、将来さまざまな場面で活かしていこうと思う。