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予防健康レポート
1、 はじめに
予防と健康管理ブロックおいてレポートを作成するにあたり、まず2つのビデオ「オーダーメイド医療」「水俣病感染訴訟」を閲覧し、また別に興味のある2つのキーワードを基にした論文を2つ読んだ。それを踏まえた上で、将来自分が医師を目標としていることを踏まえ、これらに関する考察を述べる。
2、 選んだキーワード
論文を選ぶ際のキーワードとして、「中毒」「胎児」を選択した。中毒に関しては、ビデオ「水俣病感染訴訟」、胎児に関しては「オーダーメイド医療」に関連しているものがあるとして選択したものである。中毒は私達の周りにありふれたものであり、また今知られてなくとも今後明らかにされるものが沢山ある、と私は考える。
3、 選んだ論文の内容の概略
「中毒」「胎児」との関連として選択した論文は、「メチル水銀と魚介類の摂取」と「妊娠高血圧症候群の考え方と合併症の予防」である。
論文「メチル水銀と魚介類の摂取」は、ビデオ「水俣病感染訴訟」と通ずるものがあり、ビデオの延長として更に深く学べる期待を持ってこの論文を読んだ。
まず「メチル水銀と魚介類の摂取」の内容の概略についてを記す。メチル水銀が原因で発症した水俣病は、成人の犠牲者だけでなく胎児性水俣病の患児も出生した。母親が汚染された魚介類を食べ、胎児がメチル水銀に曝露されたからであった。その後イラクのメチル水銀中毒鍋で、胎児の高感受性が確認された。現在の環境ではその過去の水俣病やイラクのように高濃度曝露の機会はない。しかし、WHOなどの国際機関でのリスク評価は「成人ではほぼ問題ないものの、胎児の曝露はリスクがある」とされている。この論文では、その評価が挙げられる理由を問題提起している。
理由として、自然界には水銀が存在し、一部はメチル水銀に変換され、食物連鎖によって生物濃縮されて、連鎖の高位を占める肉食魚などに蓄積し、それらを多食するとメチル水銀に曝露されるからである、と述べられている。その曝露レベルは、水俣病に比べてはるかに低いが、胎児の感受性が高いことからなんらかの影響があるのではないかと懸念されてきた。
胎児の感受性は高く、母親の血液−胎盤を通してメチル水銀に曝露されるので、妊婦(母親)のメチル水銀摂取量に制限を設けることが適切であると考えられた。
著者の述べるところでは、注意すべきはメチル水銀摂取量に制限を設けることと、魚介類摂取を制限することは別だ、ということだ。たしかに魚介類を多食したりメチル水銀濃度の高い歯鯨を食すると過剰のメチル水銀に曝露される。その一方で、魚介類にはEPAやDHAのように有用な不飽和脂肪酸も含まれている。従って、メチル水銀濃度の比較的低い魚を食べることが最も良い選択といえる。
そうはいっても、魚ごとのメチル水銀濃度の高低はわかりにくい。一般的には食物連鎖の高位を占める大型の肉食魚にメチル水銀が高値あるので、そのような魚は少量しか摂らないか食べる頻度を少なくするのが望ましい、と著者は主張している。青味の魚はメチル水銀濃度が比較的低く、不飽和脂肪酸も含有しているので、あまり気にせず摂取してかまわないと考えられている。因みに米国でも最近、不飽和脂肪酸の効果を認め、妊娠中も水銀の低い魚を食べ続けるべきと結論を出している論文もあるそうである。
次に二つ目の論文「妊娠高血圧症候群の考え方と合併症の予防」についてである。妊娠高血圧症候群の病態の解明、治療はエビでデンスを基に改良されている。また妊娠高血圧症候群の名称、定義、分類が変更され国際的比較も可能になろうとしている。この論文では妊娠高血圧症候群の考え方を、腎障害を中心として報告されており、さらに合併症とその予防についても考察されている。
妊娠高血圧症候群とは、妊娠中毒症とも言われている。定義も高血圧が主徴となり、浮腫が削除され、蛋白尿のみでは分類に含めず、最終診断は分娩後6週から12週に変更された。妊娠高血圧症候群の分類は、@妊娠高血圧腎症、A妊娠高血圧、B加重型妊娠高血圧腎症、C子癇となり、混合型が加重型として再分類され、純粋、混合型の分類を廃した。重症度分類では、収縮期の30mmHg、拡張期の15mmHgの増加が削除された。
病態は解明されてきているがいまだ不明な点が多い。妊娠時に起こる血管攣縮が基本病態とされ、上に記したように高血圧を主徴としている。
妊娠高血圧症候群では、発症前より血管及び腎臓の異常が出現する(アンギオテンシンUに対する血管感受性の亢進)。
妊娠高血圧症候群の合併症としては、@蛋白尿の持続、A高血圧の持続、B肺水腫、
C心不全、D脳出血、E常位胎盤早期剥離、FHELLP症候群、G早産、H子宮内胎児死亡、などが挙げられる。
妊娠高血圧腎症および妊産褥期の蛋白尿と腎疾患の関係においては、妊娠中のhematuria、血清IgA高値、産後6週での蛋白尿、産後6ヶ月での蛋白尿、30週前の妊娠高血圧腎症発症と産後6週での蛋白尿の場合、腎疾患の可能性が強いとしている。
また腎障害がある場合は高血圧の持続機関が長い。(高血圧の持続の関係では分娩週数と逆相関をし、尿酸値やクレアチニン値と正の相関を示す。)
妊娠高血圧症候群では子宮胎児発育遅延がみられるが、子宮胎児発育遅延の出現頻度は、蛋白尿を伴うと、伴わない場合の3倍となる。また周産期死亡率は蛋白尿を伴うと、伴わない場合に比べて4倍となる。
重症の蛋白尿を有する妊娠高血圧腎症の予後については、(母体を守るため)ターミネーション基準を設定することにより周産期死亡率は高率であるが母体の良好な予後は期待できることを示している。
妊娠高血圧症候群の合併症の防止としては、@腎疾患の鑑別、治療、A高血圧の管理、Bターミネーションの基準に従い早期にターミネーション、C高度の胎児・新生児管理である。
妊娠高血圧症候群の根本治療は妊娠の中断である。妊娠高血圧症候群ターミネーション適応指針として@高血圧の管理としては入院・安静・薬物治療に抵抗して、病変が不変、あるいは憎悪をみる場合、ことに重症高血圧(160/110mmHg以上)は週間続く場合やgestosis indexが上昇する場合、A腎機能障害ではGFR≦50mL/min、血中creatinine
値≧1.5mg/dL、尿酸値≧6mg/dL、BUN≧20mg/dL、乏尿≦300mL/day、または20mL/hrとし、これらの結果を総合的に判断するとしている。
ここで、待機的管理で妊娠周期をどうやって図るか、胎児発育遅延例に対する対応をどうするか、早期娩出を図るか、などといった早産例に対する対応が問題点として挙げられている。妊娠を延長させ周産期死亡率を減少させる動きも今日ある。
まず合併症の予防として、重症な蛋白尿を有する患者の管理では、母体を守るためターミネーション基準を設定し管理することが重症である。早産させることにより周産期死亡率は高率となるが母体の良好な予後が期待できる。
また、腎疾患の鑑別が重要である。蛋白尿が早期に出現するほど腎疾患が多く、腎疾患では高血圧の発症が遅れるのが特徴である。
そして高血圧の予防では、腎障害を伴う場合の高血圧は持続しやすい。高血圧持続との相関関係では尿酸値、クレアチニン値が高い程持続しやすいので注意して管理する。
周産期死亡率合併症として、蛋白尿を伴うと子宮内胎児発育は3倍、周産死亡率は4倍となるので、蛋白尿を伴う場合には胎児管理をより厳重におこなう必要がある、ということである。
4、論文とビデオに対する考察
まず、ビデオ「水俣病感染訴訟」では、公判では国による不作為のため、加害者の負け加害者は争いを止めるために被害を訴える者に金を払うという方法をとった。ただし被害をうったえるものを水俣病とは認めないということであった。水俣病は保険が使えず、医療費は患者負担となるそうだ。
個人的には、少しでも水俣病に関与してしまった患者皆を水俣病と診断して欲しいといった感情があるが、私達の目指す医師という仕事は、医師は自らの信念に従って診断しなければならない。決して診断内容に感情を含んではならない。
ただこの水俣病については、医師の診断による決定は参考程度にすぎず、知事が決断を下すそうである。そして司法認定、政治決着、裁判決定など、四段階に及び、患者への代償額が定められる。
誰を救済すべきなのか。誰を水俣病とすべきなのか。医師にその判断が委ねられている。
水俣病では、食品衛生法を強制すれば良かったということをわかっていたものの当時厚生省はその食品衛生法を「適応できない」とした。また第二水俣病では、サイクレーターの利用は設計段階から有機水銀に効果はないと分かっていたのに、企業側はサイクレーターを用いたことにより水俣病を防止している、と主張した。更には上に記したように、水俣病の被害を訴える人が水俣病と認定されるためには、医師の診断は参考程度でしかなく、知事が決断を下す。
これらはすべて、国の法律などの行政に関与している事象である。すなわち水俣病は、規則を怠った企業、ないし国に責任がある、と私は考える。
水俣病に限らず、医師はこのように、重大な判断が委ねられている。この判断は医学的知識を持っていないとできない。また医師の一言で様々なことが変わってくる。被害を訴えながら亡くなってゆく人もいるのだ。水俣病の事例からも分かるように、現代医学の根底は疫学にある。我々は病名や治療法はもちろん、そういったことを踏まえて医学の勉強を学ばなければならない。
次にビデオ「オーダーメイド医療」についてを考察する。
人の遺伝子は9.7パーセント共通であり、0.3パーセントは人の個性を表すそうである。アルデヒド脱水素酵素の働きにより、たったひとつの塩基が変わってくることによって、遺伝子が示す性質が左右される。
現代の医療では、DNAから病気の原因を解明できる。その病気に関与するどんな遺伝子を自分は持っているのかを知ることができるのだ。
自分の遺伝子、すなわち自分の体質を知ることによって、自分に合った治療法を見出せることができる。例えば、副作用を起こす人起こさない人に合わせて薬の量をどう変えればよいかが分かったりするなど薬の使い方に遺伝子の情報を応用しようというものだ。
今まではとりあえず手探りで、どの薬が、どの量で合うか試していた。このオーダーメイド医療によってこれからは、より安全に治療することができる。
ただし、メリットもあるが、デメリットも考えられる。まず、DNAを扱う以上、あくまで個人情報である。またDNAを知ることによっての差別や偏見などがあってはならない。もちろん自分の遺伝情報をしりたくない人もいる。医療に対する安心感を持つことができるように、特にこれらを直接関係するであろう医師、医療従事者、研究者はDNAの扱いに関して十分注意しなくてはならないと考える。
ビデオの両者を照らし合わせても、両者とも法によって世間で病気の扱われ方が変わってくることが共通している。医療倫理も中にも基本的人権の尊重は重要度を大きな割合で占める。オーダーメイド医療も、プライバシー、人権に関わる、十分に疫学と関係するものと私は考えている。国で定められている法や規則を決めている人は、どこまで医学のことをわかっているのかは疑問である。しかしその上で、医師がその現状を把握し、またそれをフォローしていく必要がある。医療倫理を考えるなら、医師も行政に関わり、法・規則を改めて検討していく手もあると考えられる。
論文「メチル水銀と魚介類の摂取」には、胎児に曝露しないための方法が主として述べられていた。メチル水銀を多量に摂取することによって起こる中毒は、妊婦に、また胎児に影響を及ぼしやすいからだ。妊婦や胎児など抵抗力の弱いものは、一般と比べて曝露率が高い。論文「妊娠高血圧症候群(妊娠中毒症)の考えかたと合併症の予防」も、いかにして妊娠高血圧症候群を予防していくかということが概要として述べられている。これもやはり疫学に通じている。また両方に共通して言えることは、医学にそれはなくてはならない予防に重点をおいているということだ。
5、まとめ
医師の役割は、診察とはまた別に、このような疾病による現状や予防法を世間に伝え、人々の健康を増進していくべき仕事もある、と私は考える。また現在、臨床の医療に従事するにあたり、医学は法律や国の規則とは切っては切り離せないものとなっている。だからこそ、医学を学ぶ上で私達は法律や政治のこともよく学んで、よく知っておかなければならない。そして中でも、医療には人権と深く結びついており、今後更に発展していくだろう医療の中で尊重していかなければならない。そういったことを、医師を目指す私は深く心に留め、社会の様子にも目を配りながら医学の勉学に励んでいこうと思う。