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予防健康医学レポート
1、 はじめに
メチル水銀中毒の水俣病は、工場廃液に含まれていた有機水銀が魚介類に蓄積され、それを摂取した人に急性および慢性の中毒が発生したものである。大脳皮質の神経細胞が侵され、特に後頭葉の距野に病変が強調される。小脳では顆粒細胞が特に強く障害される。主要症状として中枢神経系疾患であるHunter-Russell症候群(求心性視野狭窄、小脳運動失調、平行機能障害、聴力障害)がみられた。胎児性のものは言語障害、知能障害、運動機能障害を呈した。現在までの認定患者[2003(平成15年)]は、熊本1,775人、鹿児島490人である。1969(昭和44)年に提訴され、1973(昭和48)年に加害企業の責任を認める判決が出され、地域住民が勝訴した。しかし、未認定患者救済問題と国と地方自治体の責任問題をめぐって混乱が続いていた。1995(平成7)年当時の村山内閣が感覚障害のみられる患者に、チッソが一時金として一律260万円を支払うこと、一時金を払うチッソに対して国が金融支援を行うこと、国と熊本県は患者に遺憾の意を表すことを柱にした対策を打ち出し、政治決着を図った。患者団体は実質的な救済策と評価し、訴訟を取り下げ、一応の決着が図られた。
2、 キーワード
今回僕は「methyl mercury」、「neurotoxin」をキーワードに選び、メチル水銀がどのようにして神経に障害を与えるのかについて「Methylmercury Increases Glutamate Release from Brain Synaptosomes and Glutamate Uptake by Cortical Slices from Suckling Rat Pups : Modulatory Effect of Ebselen」と言う論文を読み、調べた。
3、 論文の内容と概略
グルタミン酸は哺乳類の中枢神経系で主要な興奮性の神経伝達物質です。不可欠な脳の機能(学習や、メモリや、神経の発達や、年をとるのや、環境の刺激への応答など)に関連している。
出生直後の間もない間、脳は外部の動因に対し、非常に敏感である。ここで、私たちは授乳期(出生直後3−10、3−17、3−24日)の間にメチル水銀(MeHg;2mg/kg)を皮下に注射して、脳シナプトソームの合成剤からのグルタミン酸の放出や、脳の皮質部分によるグルタミン酸の摂取を調べた。メチル水銀に対するエブセレンの可能性のあるアンタゴニストの影響についても調べた。
この研究は、
(1) グルタミン酸放出へのメチル水銀の効果が毒性にかかわる可能性があることを示す。 細胞外での高濃度のグルタミン酸は、ニューロンの傷害や死を含む神経毒にもなります。だから、グルタミン酸の細胞外濃度の調節は、その生理的/病理学的な動きのバランスをとっていると言える。この調節効果は星状細胞の細胞膜に位置する高い親和性ナトリウムに依存するチャネルで主に及ぼされる。そして、それは中毒レベル以下で、細胞外グルタミン酸濃度を保ちながら、シナプス間隙からグルタミン酸を除去する。
(2) グルタミン酸摂取の増加はメチル水銀によって誘発されたグルタミン酸放出への病態生理学の応答を表すかもしれない。 現在調べられているメチル水銀の神経毒性に関係する主なメカニズムは、酸化性ストレス、細胞内でのカルシウムのホメオスタシスの障害、そして、星状細胞によるグルタミン酸取り込みの抑制である。この事については、最近の生体内調査は、メチル水銀がネズミの前頭皮質でグルタミン酸の細胞外レベルを増やすことを示した。グルタミン酸放出の増加は、メチル水銀にさらされた後も観察された。試験管内の研究では、メチル水銀がマウス小脳スライスからの自然発生的なグルタミン酸放出を誘導することを証明した。
(3) メチル水銀によって誘発されたグルタミン酸放出へのエブセレンの抑制効果は報告された神経保護効果に関連することができた。最近、エブセレンに、脂質に溶けるセレノ有機化合物が脳虚血と脳卒中に対する保護の役割を持つグルタチオンペルオキシダーゼのような働きをすることが証明された。さらに、エブセレンはネズミで内部線条体のキノリン酸処理に起因するバルビツール酸の反動的な種の生産を妨害する。きわめて重要な、NMDA受容体により介在されると思われている小脳ニューロンの主要な培養組織のグルタミン酸による神経毒はエブセレンによってかなり減らされる。
結論として、現在のデータは、シナプス前終末からのグルタミン酸放出に関するメチル水銀の影響がネズミに乳を飲ませる際にその神経毒性に関係していることができた。そして、グルタミン酸の取り込みの増加がこのメチル水銀の影響の病態生理学的反応と一致することができたことを示唆する。さらに、メチル水銀によって誘発されたグルタミン酸放出に関して観察されたエブセレンの抑制の影響は、その報告された神経保護の影響に関連する可能性がある。人間で推定すると、周産期の段階でメチル水銀にさらされた子供たちで観察される神経病学的な欠損が、少なくとも一つには、グルタミン酸におけるホメオスタシスの妨害に関係があると言える。そして、更なる治療的な戦略としてエブセレンの使用を強く望む。
4、 考察
メチル水銀がグルタミン酸の恒常性を妨害することは、論文からわかった。しかし正常人体においてグルタミン酸がどのように働いているのか分からなかったため、以下にグルタミン酸が正常人体でどのように働いているかを調べた。
グルタミン酸は生物において非常に重要な機能を担う神経伝達物質の一つである。中枢神経系での多くのニューロンの興奮性伝達物質はグルタミン酸である。グルタミン酸は記憶や学習に関係する海馬における長期増強、さらにはCa過負荷による神経細胞死にも関係している。グルタミン酸の受容体は以下の4種(3つの受容体はチャネル部分をもつ)に分離される。放出されたグルタミン酸はNaやK依存性にグルタミン酸輸送体で再び取り込まれる。
(A) AMPA受容体
中枢神経系に多くあり、速いEPSPの受容体である。内在性チャネルはNaとKを透過させるがCaを通さない。
(B) カイニン酸受容体
カイニン酸で活性化される受容体で、NaとKを透過させるがCaを通さない。中枢神経系の特定の部位にのみ存在する。
(C) N-メチル‐D‐アスパラギン酸(NMDA)受容体
N-メチル‐D‐アスパラギン酸(NMDA)で活性化される受容体で、Na、K、Caに対して透過性がある。Caの透過性が他の型グルタミン酸受容体より大きいのが特徴の一つである。
(D) 代謝型グルタミン酸受容体
Gタンパク質に連結した受容体でチャネル構造はない。イノシトールリン脂質代謝を促進してIP3産生によりCa放出をもたらしたり、サイクリックAMP濃度の低下をもたらす。
また、グルタミン酸は網膜の伝達物質でもあることも知られている。双曲細胞には、小さな光点の刺激を視細胞に与えると脱分極するON型と、光が減弱したときに脱分極するOFF型がある。グルタミン酸によって過分極する双曲細胞と脱分極する双曲細胞があるからである。視細胞はすべて光の減弱で脱分極し増大で過分極する。脱分極時にCa電流によってグルタミン酸を放出する。OFF型双曲細胞では、光が減弱したときグルタミン酸がチャネル内在型のグルタミン酸受容体に結合して脱分極し、光刺激では逆に過分極する。ON型の双曲細胞では、光の減弱時には放出されたグルタミン酸が代謝調節型受容体に結合し、Gタンパク質を介してホスホジエステラーゼを活性化してcGMP分解を促進する。この双曲細胞にはcGMP依存性に開口するNa透過性チャネルがあり、cGMP分解はチャネル閉鎖による過分極をもたらす。光刺激で視細胞のグルタミン酸の放出が減少すると、ON型双曲細胞の過分極は減少し脱分極する。これがON型の神経節細胞の興奮を起こす。
上に示したようにグルタミン酸は生体にとって非常に大切な物質であるとがわかる。しかし細胞外での高濃度のグルタミン酸は、ニューロンの傷害や死を含む神経毒にもなるのである。メチル水銀はこのグルタミン酸の恒常性を壊すことで、さまざまな神経障害をきたすと考えられている。
メチル水銀が原因である水俣病患者では特に感覚障害が多くみられる。水俣病患者の認定問題をビデオで見て、初めてその歴史を知った。僕にはすべての人を水俣病患者と認定することがどういったことなのか詳しくはわからない。なぜ、国が認定しないのか詳しくはわからない。しかし、自分が将来医者になった時には目の前にいる患者さんを一番に考えられる医者になりたいと強く思う。目の前の患者さんが苦しんでいるのなら、その患者さんのためにできるだけことをしたいと思う。
水俣病患者患者がチッソや行政に対する裁判や交渉で求めたものは何だったのでしょうか。それは水俣病を起こしておきながら患者を放置した責任を認め、人間として心から謝罪してほしいということだと思う。行政は被害の実態をあきらかにし、速やかに患者を救済すべきだと思う。
また世間には水俣病に対する偏見や無理解がいまだに残っており、患者が親類や家族にも水俣病であることを隠しているケースがあるという。僕はこのことを知った時、長島愛生園でのハンセン病を思い出した。ハンセン病の歴史も非常に悲惨なものだった。そして、その悲惨さの一番の原因は病気そのものよりもむしろ、世間の偏見や差別によるものではないのだろうかと僕は思う。改めて世間の偏見や差別というのは本当に恐ろしいものだと思わずにはいられない。このような病気に対する偏見や差別をなくすには、やはり一人一人がその病気に対して正しい知識を持つことが重要だと思う。そしてそのためには医者が正しい診察を行い、世間に広めなければいけないと思う。その責任があると思う。僕はそ医者になりたいと思う。
5、 まとめ
今回のレポートで初めて医学論文を読んだ。内容が難しく正確に意味を理解しきれなかった部分がたくさんあると思う。しかしメチル水銀がどのように生体に影響して水俣病を引き起こすのかについて学び、考えることができたことはすごく良い勉強になったと思う。
また、ビデオを見たことにより改めて自分の目標とする医師像について考えることが出来た。その目標となる医師像にすこしでも近づけるように、これからも日々努力していきたいと思う。