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予防健康レポート
はじめに このレポートは講義の時間にみた水俣病のビデオの内容について2にあるキーワードを元に文献を検索し論文を参考に考察したものです。
1. 選んだキーワード:環境汚染、末梢神経
2. 選んだ論文の内容の概略
論文@:耳鼻咽喉科領域における化学物質と室内空気環境
T、シックハウス症候群(SHS)ならびに化学物質過敏症(CS)は比較的新しい疾患概念であり、その病態、診断法ならびに治療法まで未解決な部分が多く残されている疾患である。
このような患者はよく精神疾患と解釈されるが、SHSやCSの患者もある条件下に症状を発言する何らかの器質的疾患の可能性が十分に考えられる。そして刺激物質に対して体にどのような対応がおきているかを神経感覚の観点から実験的ならびに文献検討を行ったものである。
1. 吸収機能
美粘膜をはじめ、咽喉頭、鼻腔の粘膜は炎症により障害を受け、そのために本来の防御機構が低下して、外界の物質や微生物を体内に吸収するルートともなりうる。
2. 防御機構
〔1〕 物理的防御
第一は鼻毛による防御であり、吸気中の大きな異物はここでろ過される。
第二は粘膜繊毛輸送であり、粘膜の特有の流れにより異物を排除する。
第三はnasal cycle(鼻周期)とよばれる周期的な粘膜の腫脹である。
〔2〕 免疫学的防御
主役は粘膜固有層の形質細胞において産生される分泌型IgAである。
鼻汁にはIgAは細菌やウィルスに、IgG、IgMはグラム陰性桿菌に対する抗体がある。
鼻腔にはIgEが多く存在し、過剰反応としてアレルギー性の炎症を引き起こし、身体に有害な反応となっている。
〔3〕 神経学的防御
三叉神経は鼻腔の近くを司り、外界からの刺激を察知し、鼻汁分泌、くしゃみにより排除するとともに、美粘膜を腫脹させることにより侵入を拒む役割をもつ。舌咽神経は咽頭への異物を感知して、嘔吐反射をひきおこすことにより体内への侵入を阻止するとともに食物に対しては嚥下反射を引き起こし、食塊が気道へ落下することを防止する。
3. 上気道の機能からみたSHS、CS原因物質の生体への関与
人体に対して有害な反応を起こしうるのは、「上気道を通過し、下気道から体内へ吸収」「上気道粘膜から体内へ侵入」「粘膜上で神経学的あるいは免疫学的反応」であり神経の知覚による反応が症状を引き起こすと考える。
U、SHS、CSにおける上気道の知覚
今までの報告ではSHS、CS患者の嗅覚閾値の低下すなわち収穫過敏を示唆する結果は得られていない。そこでSHS、CS患者の嗅覚のコントラストを測定し、正常対象のコントラストと比較した。
嗅覚コントラストとはにおいの強度の差をどれくらいはっきり認識できるかの指標である。
今回は、n−butanolを用いて正常対象者18名とSHS患者8名に対して、T&Tオルファクトメータを用いた嗅覚機能試験と、嗅覚コントラスト測定を行い、両群を比較検討した。
結果、T&Tオルファクトメータによる検知閾値、認知閾値ならびに嗅覚コントラスト値いずれかにおいても両群間に有意差を認めなかった。(table1)
したがってSHSならびにCSの患者では、嗅覚に関する感度に正常との差はないもとの考えた。 高位の伝達系における障害あるいは新たな伝達回路が形成されたと考えるべきか。
この点についてfuncyional MRIを用いて、バニラとトルエン刺激による脳内の応答を観察した。結果、バニラによる刺激では、両者の反応に有意な差を認めなかったのに対して、トルエン刺激では、患者群で有意に反応の亢進を認めた。これらの反応亢進は、本来のにおい刺激で得られる亢進部位とは異なり、テント下に集中していることから、側頭葉内側面から辺縁系の興奮による情動の変化、視床下部の興奮による自律神経系の変化が生じている可能性が考えられる。しかし。刺激の入力部として。嗅神経以外にも三叉神経も考慮する必要があり、未だ解明の余地が多く残されている。
論文A:土呂久高山公害地区でみられた砒素中毒によると思われる慢性型感覚優位の多発ニューロパチーについて
要旨:高山公害による慢性砒素中毒症後遺症と思われる9例の、主にその神経学的所見について報告しました。主体は感覚優位の多発性ニューロパチーで、四肢抹消の表在・深部覚がともに脱失または高度の低下状態にある例や、顔面や頭髪部、角膜、航空内の感覚も低下して、その分布が全身におよぶ例もみられた。表在感覚低下の指標の一つとして入浴温度と飲湯温度を調べたところ、全例とも温度感覚がいちじるしく低下していた。脱力はごく軽度であった。神経伝道速度は、正常ないし一部で低下し、神経生検では、小径有髄神経線維と無髄神経線維の減少がみられ、軽度の軸索変性が主体であった。その他に、嗅覚・味覚のいちじるしい低下、緊張型頭痛、頻回のこむら返りもみられた。
目的:宮崎県高千穂町土呂久地区には、当時環境調査で高濃度の砒素が確認された鉱山がある。1988年以後の検診受診者の中で四肢に感覚障害があるとされた者はいずれも感覚優位の多発性ニューロパチー(PN)と考えられた。鉱山廃止後37年を経過すた現在の臨床症状・所見、とくに神経学的所見について述べることは意義あることと考え、報告する。
対象と方法:対象は男5例、女4例の9例(症例番号A〜I、63〜77歳)である。いずれも鉱山が創業していた時期に土呂久地区に居住していた。症例A,B,D,Iは鉱山の操業停止とともに他地区へ移住しその他の例はそのまま居住している。
所見についてだが通常の神経学的診察において、感覚障害が全身および、四肢抹消側で一部でも感覚脱出がある例を3+、感覚障害が全身で感覚脱出まではない例を2+、感覚障害が四肢のみで感覚脱出までない例を1+とした。緊張性頭痛、四肢のこむら返り、慢性気管支炎、嗅覚・味覚低下については、症状がほとんど毎日である。自覚的に日常の匂い・味をほとんど感じない例を3+、それ以下を2+、まれに案じる場合を1+とした。
また、感覚障害の程度を他覚的に表現する指標として入浴温度と飲湯温度を測定した。
結果:@)神経学的所見について:主要所見は感覚優位のPNである。五例では感覚障害が頭髪部や顔面を含めて前進におよび、四肢抹消では痛覚脱出、触発のいちじるしい低下がみとめられた。この五例は軽度の感覚性運動失調がみられたが、日中は独歩行可能、また二例で角膜反射消失、三例で減弱、二例が四肢遠位で現弱、三例は正常であった。ほかの四例の感覚低下がみられる四肢抹消で脱出まではばく、一例では四肢のみに低下がみられた。この四例は歩行に不自由はなく、反射は二例の四肢遠位部で減弱、ほか二例は正常であった。嗅覚味覚については、9例中6例が日常的な匂いや味覚をほとんど感じなかった。緊張型頭痛は慢性的で軽く、二例が頭痛薬を使用する。ほかの七例は治療する必要はなかったが一例で視野狭窄がみられた。
A)入浴温度と飲湯温度について:9例の入浴温度は43〜50度と一般的入浴温度に比して著しく高い。
B)神経伝道速度検査および神経生検所見について:MCVでは、正常ないし正常下限がほとんどで、とくに下肢では三例の計4肢で遅延、四例の計五肢で誘発不能であった。SCVでは上・下肢とも誘発の不能が多く、上肢で測定できた12肢のうち二例で遅延、下肢ではほとんどの例で誘発不能であった。神経伝道速度は、測定した10肢のうち三肢で遅延、7肢で誘導不能であった。症例Cの神経横断像と結う隋および無髄神経直径分布では小径夕髄神経線維と無髄神経線維の減少が明瞭であった。Myelin ovoidsやonion-bulb formationはみられなかったが、非薄化した髄鞘を有する軸索が散見され、中等度の、慢性軸索障害型の抹消神経障害が主体の所見であった。症例Gでは、大径、小径有髄繊維、無髄繊維、の軽度の減少がみられ、onion-bulb formationや炎症所見、髄球、脱髄繊維の軽度の減少がみられた。症例Hでは、有髄、無髄ともに形態的異常はみられなかった。症例Iでは、大径、小径有髄神経線維密度の軽度の減少がみられた。ときどきほぐし法を行った三例のうち、症例C、Gは正常、症例IはconditionFの神経線維が少数みられた。
C)神経症状以外では、鉱山操業時の頃までは9例全例に皮膚症状があったらしいが、しだいに消失し、ごくわずかな小白斑が4例にみられるのみでBowen病の発症もなく、慢性気管支炎は4例に残存している。また、これらの症例の家族歴には悪性腫瘍も大変多かった。
考察:今回の9例は慢性砒素中毒後遺症としてのPNと考えられる。鉱山操業停止9年後でも周囲の環境からはまだ高濃度の砒素が検出されていた状態なので、粉塵、土壌、飲食物を介しての汚染が続いていたとも考えられる。神経学的所見ではまだ十分には述べられていないが、表在覚、深部覚ともに障害され、四肢抹消での感覚低下が著しかったが、その障害は全身におよび、頭髪部や顔面にも明らか低下がみられた例もあり、角膜反射も低下、鈍麻していた。感覚障害の程度を他覚的に表現する指標の一つとして測定した入浴温度と飲湯温度は、9名とも温度痛覚が著しく低下していた。ところが本人たちは全身の感覚がこのように鈍いことには気づいておらず、自覚的しびれ感の訴えもないか、せいぜい四肢抹消に限られ、これらの感覚障害は過去の種種の検診、調査でも十分には把握されていなかったようである。成人してから新たに加わったしびれ感ではなくて、子供のころから、あるいは若いときからこのような状態なので、本人たちはこのくらいの感覚で「当たり前」であって、「病的」とは感じていなかった様に思われる。したがって、何時から、どうなった、というはきりとした病歴がでてこない。
急性・亜急性砒素中毒によるPNの報告は多いが、37年もの長期経過後の症例は見当たらず、また、全身の感覚の低下を確認した例の報告もほとんど無い。今回の9例は年齢が比較的高いのであるが、未確定化はかなり若いときからあるようなので、加齢による変化ではないものと思われる。そのほかに緊張性頭痛、四肢の頻回のこむら返りも味覚低下とともに、今後くわしく検討すべき所見の一つに加えられるべきであろう。
4例の神経生検組織所見は、同一ではなくばらつきがみられる。今回報告した9例は、神経学的所見や神経伝導速度、神経政権組織所見などから、抹消神経障害の存在は明らかである。感覚優位性のPNであることに関しては、慢性暴露例であり、その他の種種の症状を伴っている点が急性ヒ素中毒によるPNと異なる。砒素鉱山が操業していたころは、粉塵、ガスが充満し、当時9例とも皮膚、呼吸器症状があったこと、土呂久砒素中毒症例の皮膚病変は真皮までおよぶこと、パッチニー小体やマイスネル小体などの皮膚感覚受容器は真皮にあることから、congenital sensory neuropathyのようにパッチニー小体やマイスネル小体などの皮膚感覚受容器も障害されている可能性もあろう。
以上、土呂久地区でみられた慢性型多発性ニューロパチーは、慢性砒素中毒症後遺症と思われ、その症状は、皮膚症状や呼吸器症状を主体とした最盛期の症状と異なり、感覚優位のPNが主体であること、嗅覚、味覚の低下、四肢のこむら返りも診断の一助になりえることを報告し、緊張性頭痛の本症の症状の一つとしての可能性についても言及した。
4. 選んだ論文の内容と、ビデオの内容から、自分自身で考えたことを、将来医師になる目で捉えた考察
水俣病とは、1932年以降、新日本窒素肥料(現在のチッソ)水俣工場が行ったアセトアルデヒド生産時の触媒による副産物であるメチル水銀を含んだ廃液が汚染処理を十分行わないまま海に流されたことによる。この廃液中のメチル水銀が生体濃縮され、付近で獲れた魚介類を摂取した住民に水銀中毒の被害が発生した。
水俣病と認定された患者には政府および新日本窒素肥料(チッソ)工場から医療費等が支給されたが、政府による認定を受けられなかった患者の救済問題が生じている。水俣病であるとの認定が病理的ではなく政治的であるとの批判がある。
水俣病公式確認から50年目に当たる2006年4月30日、水俣病慰霊の碑が完成した。碑には認定された犠牲者314名の名簿が納められた。毎日新聞社の記事によると名簿に名を刻まれた犠牲者は、未だ絶えない差別を恐れた遺族の意向で全体の2割にとどまった。これは水俣病が与えた社会的影響が未だ解決には程遠い事を示していると考える。
政府は水俣病に対して積極的な解決を図ることをアピールしているが、認定基準を改めないなど実質的な進歩は見られない。
医者としてできることは患者の病気を知り、世間がもつ偏見とゆうものをできるだけ取り払えるようにすること、医療のクオリティーを高めるしかないと思う。水俣病患者は水俣を離れて生活している人が多い、離れてしまうと水俣病認定がもらえないとゆう取り決めが成されていて、患者はいまでもはげしい頭痛や手足の感覚麻痺に苦しめられています。それに加えて行政から水俣病と認められないということは患者の大きな負担となっている。 ビデオでは長年水俣地区で患者を診療してきた医師のことが紹介されていた。父が水俣病で遺体を自ら解剖しメチル水銀の関係を確認したという。身内の遺体を解剖してまで解明しようとした松本医師の想いは計り知れない。水俣病には健康保険が使えず、政治決着した水俣病認定者はやっと一万人、まだまだ患者への負担は大きいだろう。
またビデオではオーダーメイド医療についての紹介がなされていた。人は一人ひとり違った遺伝子タイプを持っており、その違いによって治療法を変えるため個人に合う薬を使うのである。人の遺伝子は紐解いていくとAGCTという四つの塩基が30億並ぶことで構成されている。その中の一つが変化していることでさまざまな身体的特徴を有する。その身体的特徴といわれるものが重大な疾患をもたらすならば、またそれが早い段階で治療できるのであれば改善すべきであろう。そうすることにより遺伝性の疾患や直接の死因となりうる病気にはかからなくて済むかもしれない。それは医学の進歩によって人々に幸福をもたらしたことになることは明らかだ。しかし一方で医学の進歩により平均年齢が格段に上がり人口増加、高齢者社会が生まれてしまう。この世の森羅万象すべてのものは自然の摂理に従っている。人はいつか死ぬ。それはすでにこの世に生を受けたときから決まっている。その生命の時計を狂わせていっていいものなのか。尽きない欲で、人類は発展してきたのではあるが人間は欲深い生物である。オーダーメイド医療の最良の使い方は薬による副作用を抑えるために個々の遺伝子の違いを利用して薬に対する感受性を正確に検知し、副作用をできるだけ少なくするなど、医療の質を高めるために使うことであろう。
5、 まとめ
水俣病患者も今回の二つの論文にでてくる疾患を有する人も一部では、神経精神疾患として捉えられている。しかしこれらは何らかの器質的疾患であろう。
患者が望むのは、当然ながら疾患の治癒であることは言うまでも無いが、残念ながらこの論文を読む限り、現状は未だ病態すら十分に解明されていないのである。患者たちのもう一つの悩みは、自分たちが疾患を有する患者であることが、時として十分に理解されないことである。医院、病院において症状を訴えるだけで、まともに聞いてもらえないこともあるということである。
したがって患者は医療機関だけでなく、任意の医療機関において診断法と診断基準の開発を患者たちは強く求めている。そのためには、今後更なる研究の発展と、医療サイドあるいは社会における本疾患の認識の拡大が重要であると考える。
このように企業の利益を優先したことによる公害が多数存在し、公になっていない病気も多く存在することから、まず最初にそれを診察する医師がそのような疾患について知ること、国による公害の認定の問題もあるが、まず現場から患者に配慮した医療のクオリティーの向上が求められているだろう。