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レポートのテーマとして環境汚染とニューロンという課題を選択した。17個の研究論文から、アルツハイマー病研究の展開;脳から分子へ、分子から脳へと統合失調症の発達障害仮説とドパミン神経栄養因子の2つを選択した。それらの概要は以下の通りである。アルツハイマー病(AD)は初老期痴呆の範疇にあり、65歳以降に発症する老年痴呆と区別されることがあるが両者の違いはほとんどないことから、1つの疾患単位として据えられる傾向にある。症状の中心は記銘・記憶障害であり、発症後10年から15年で致死的経過をとる。遺伝子異常が確認された一部の家族性ADを除き病因は不明であるが、脳の老化が発症の背景をなすことは確かである。脳内にはアミロイドβ-タンパク質(Aβ)が蓄積し、神経細胞に対して毒性を発揮していると考えられる。わが国の高齢者の痴呆有病率はおよそ5%でありその約5割がADである。近年、痴呆患者の中での比率は増加傾向にある。わが国をはじめ、先進諸国においては高齢化人口の増加に伴い患者数がさらに増加するものと危惧されている。家族性ADに関する研究は原因遺伝子の特定を出発点に爆発的とも言える展開を示した。しかしながら、患者の大部分を占める弧発性ADに関しては老化が発症に深く関わること以外分子レベルでの病態解明は十分には進んでいない。ADの二大病変としては老人斑と神経原線維変化がある。どちらの病変が本質的に重要であるかは研究者の間でも意見が分かれるところである。近年、AD治療薬開発の研究も盛んであるが現時点においては安全性と有効性が確立した根治的治療薬・予防薬はいまだ開発されていない。わが国の厚生労働省がAD治療薬として認可している唯一の薬剤は軽症のADには確かに有効であるがその効果が限定的でありAD病態の本質である神経細胞死を阻止することはできない。様々な研究の結果を踏まえ、新しい診断法や治療法の開発が試みられている。現在までのところ脳脊髄液中のAβ値の低下とリン酸化されたタウタンパク質値の上昇を組み合わせることで高い確度と感度が得られると報告されている。治療薬開発に関する研究はここ数年急速に進んでいる。AD発症の物質的基盤がAβであり、その重合体により神経細胞が死に追いやられることは確かになり、脳内におけるAβ重合体の形成阻止を狙った戦略が検討されている。また、Aβワクチン療法が大きな話題となっているが臨床治験の失敗により中止されており大きな課題を残すかたちとなった。

次に統合失調症について簡単に触れておくと精神疾患であり一般的な疾患ではあるがその原因はほとんどわかっていない糖尿病と同様に生育環境と遺伝の両者が関与していると考えられていて、環境要因としては母体のウイルス感染や周産障害、出産時虚血、幼児ストレスなどが要因として挙げられている。興味のあることに周産障害により胎盤から著しく産生されるサイトカインは中脳ドパミンに対する神経栄養因子であった。脳血液関門が完成していない妊娠後期の以前にこのようなことがおきると、これらの神経栄養因子が発達中のドパミン神経に直接作用するはずである。生まれたての新生ネズミにこれら栄養因子を末梢から連続投与してやると脳に到達して中脳ドパミン神経の発達を障害した。さらにこれらの動物は、その様々な統合失調症モデルとして認知行動異常を呈するようになったがそれらの障害は抗精神病薬で改善された。このようにドパミン栄養因子を用いた統合失調症モデルは、古典的な仮説ドパミン機能障害仮説と近年流行になっている脳発達障害仮説の両者を含有するモデルとして注目される。ここ数年、アルツハイマー病について書かれた書籍や映画をよく目にする。それだけ世間の関心が高まりつつある証拠でもあると思うしこれからの高齢化社会における深刻な問題であることは明らかである。痴呆から認知症へと呼び名を変えたこの病気は自分を幼少期からかわいがってくれた祖母が患った病気でもある。最期は子供の事まで忘れてしまい幼かった自分にはとても悲しい記憶として残っている。家族の事を忘れてしまうならまだしも夜な夜な徘徊を繰り返したり暴れたりといったニュースは日常茶飯事である。またそれらの認知症の患者には介護が必要でありその需要もこれからますます増えるであろう。介護鬱の問題も深刻化しておりこの先見直される必要があるであろう。神経系の疾患は原因不明のことが多く、二年の解剖時に神経系の疾患は完治しないのでおもしろくないという話を臨床の先生から聞いた。自分はそんなことはないと思う。完治までは至らずとも確実に医療は進歩し、病的過程の解明が進んでおり良いほうに向かうと信じている。

続いて水俣病に関するビデオを見ての感想である。水俣病は公害病の一つであり1956年頃に熊本県水俣市付近で発生が確認されたためこの名がある。この後、新潟県で発生した同様の公害病も水俣病と呼ぶ。これを区別するために前者を新潟水俣病、後者を新潟水俣病と呼ぶ。これらの二つの水俣病とイタイイタイ病、四日市喘促は四大公害病といわれ戦後日本経済発展の裏面として知られている。水俣病の原因としては1992年以降、チッソ水俣工場が行ったアセトアルデヒド生産時の触媒による副産物であるメチル水銀を含んだ廃液が汚染処理を十分に行わないまま海に流したことによる。この廃液中のメチル水銀が生体濃縮され、付近で獲れた魚介類を摂取した住民に水銀中毒の被害が発生した。症例としては手足のしびれが起きその後歩行困難になることが多い。重症例では痙攣、精神錯乱などを起こし最期は死に至った。また、胎内で水銀中毒になった患者は予後不良である。また、水俣病を語る上で行政の動きは欠かせないと思う。当初熊本大学医学部が原因はチッソ水俣工場から排出される有機水銀中毒と発表したが対策を怠ったために被害が拡大した。水俣病と認定された患者には政府およびチッソ水俣工場から医療費等が支給されたが政府による認定を受けられなかった患者の救済問題が生じておりこの問題は今なお続いている。政府が認定するかしないかの基準は曖昧であると思うしきっちりとした基準を設けるべきだと思う。個人的な意見としては水俣病であるとの認定は病理的なものではなく政治的であると批判したいところだ。2004年になりようやく水俣病についての政府の責任を認める判決が最高裁においてなされ、公害に対する政府の責任を明確にしたという意味では水俣病の被害にあわれた方々にとってはやっと勝ち取った判決ではあると思うがその判決に至るまでの長く辛い道のりを考えると長すぎたというのが正直な感想である。
水俣病公式確認から50年目にあたる2006年水俣病慰霊碑が完成したが毎日新聞社の記事によると名簿に名を刻まれた犠牲者は未だ絶えない差別を恐れた遺族の意向で全体の2割にとどまった。これは水俣病が与えた社会的影響が未だ解決には程遠いことをしめしている。政府は水俣病に対して積極的な解決を図ることをアピールしているが、認定基準を改めないなど実質的な進歩は見られない。先にも述べたように水俣病の原因因子はチッソ水俣工場が周辺海域に垂れ流したメチル水銀にある。同社は戦後の日本経済復興に大きく貢献したのは事実であるがその陰では日本で最高濃度の大気汚染、水汚染日本一の労働災害、職業病などを引き起こしていたのである。多くの労働者の生命と健康の犠牲は大きく経済発展という大義名分の前に、人権や弱者の命は軽視されていったと思う。企業は人々の上に君臨し人々もまた豊かさ便利さのためには犠牲もやむをえないと思っていたのではないだろうか。環境汚染によって被害を受けるのは胎児、幼児、老人病人などの生理的弱者である。彼らは当然のことながら自然と共存し自然に依拠した暮らしをしている人々である。このような人々はどちらかといえば自らの権利や意見を十分に表象できない社会的にも少数はであり弱者であることが多いのだ。このような人々であるからこそ被害が集中し、被害の拡大を容易にして救済を遅らせてしまうと考えている。被害にあわれた患者の状態は目を覆いたくなるものであったが、チッソも行政も当初何の対策も立てなかった。そればかりか熊本大学医学部の原因究明を妨害さえした。ビデオをみる限り行政も驚くほど無策であったのではないだろうか。このような無策のために被害が拡大したのは明らかであり隠蔽に隠蔽をかさね責任を転換しようとする体質は二度と起こってほしくないと切に願っている。水俣病は過去のできごとではないのだ。今なお被害にあわれた方々は後遺症や社会的な差別に苦しんでいる。被害者が生きている限り水俣病は終わらないし彼らがなくなった後も水俣病を過去のものにしてはならないと思う。企業と行政の責任追及は今後も続けていかなければならない。最後にビデオの中で一番印象に残った人物がいる。親子二代にわたって水俣病と戦う医師である。社会的な弱者である水俣病患者のために必死で働いている姿がとても印象的であった。行政に一人でも多くの水俣病患者を認定してもらえるよう奔走する姿は自分の将来理想とする医師像に重なるものがあった。水俣病をはじめ愛生園に暮らすハンセン病の方々などまだまだ差別を受け社会的に弱者である人々はたくさんいる。彼らに対する差別の根絶は難しいのかもしれない。しかしそれらの社会的弱者が少しでも住みやすい、暮らしやすい社会にしてあげることもまた医師の職務ではないかと考える。多様性に富む医師という職業の中から自分の理想の医師像をしっかりと持ち、残りの四年間学業に打ち込んで人の心の痛みのわかる立派な医師になりたいと思う。

参考文献:統合失調症の発達障害仮説とドパミン神経栄養因子
     那波宏之・柿田明美
     アルツハイマー病研究の展開、脳から分子へ、分子から脳へ
     柳澤勝彦