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予防と健康管理ブロックレポート


1. はじめに
 四月七日、十四日の講義中に見たビデオ(NHKスペシャル「不信の連鎖 水俣病は終わらない」、サイエンスZERO「遺伝子タイプで選ぶ治療法」)の内容と、自身で選択したキーワードから検索した論文の内容から将来医師になる目で捉えた考察を述べる。

2. 選んだキーワード
 選んだキーワードは英語で「methylmercury」と「neuron」であった。

3. 選んだ論文の内容の概略
 選んだキーワードをPubMedで検索し、MARK L. MAYER、LADISLAV VYKLICKY、GARY L. WESTBROOKの三者による、1988年7月26日に受理された論文である MODULATION OF EXCITATORY AMINO ACID RECEPTORS BY GROUP UB METAL CATIONS IN CULTURED MOUSE HIPPOCAMPAL NEURONES を採用した。
表題の訳はマウス海馬ニューロンの金属イオンによる興奮性アミノ酸受容体の変調となる。
細胞培養したマウス海馬ニューロンの、カイニン酸塩、キスカル酸塩、N-メチル-D-アスパラギン酸塩(NMDA)、L-グルタミン酸塩、およびL-アスパラギン酸塩への応答をパッチ・クランプ法を用いて記録する。
NMDAと、L-アスパラギン酸塩とL-グルタミン酸塩の細胞外液に記録された応答は50μM亜鉛によって強く中和された。 カイニン酸塩、キスカル酸塩、およびL-グルタミン酸塩への応答は、50μM-亜鉛によって潜在化したが、部分的に1mM亜鉛によって中和された。  50μM亜鉛のカイニン酸塩とキスカル酸塩への応答は1.09と1.14回のコントロールに増加したが、平均的にNMDAへの応答は0.19回のコントロールに抑えられた。 1mM亜鉛ではカイニン酸塩とキスカル酸塩への応答に従って、0.54と0.42回のコントロールに減少した。
カドミウムも同様に50μMでNMDAへの応答をしたにもかかわらず、カイニン酸塩への潜在的応答とキスカル酸塩の中和という結果を得た。 50μMカドミウムにおいてカイニン酸塩とキスカル酸塩への応答は1.08と1.15回のコントロールに増加したが、NMDAへの応答は平均して0.39回に抑えられた。 同様に1mMカドミウム応答にカイニン酸塩とキスカル酸塩への応答は0.79と0.60回のコントロールに抑えられたが、NMDAへの反応は0.04回に減少した。  水銀は、神経毒的に作用し、漏洩電流を増加させたが、NMDAへの応答の減少は5μMメチル水銀によっては全く起きなかった。
唯一拘束力があるサイト吸着等温線の発作から見積もられたNMDAへの応答の亜鉛中和のための均衡解離定数(Kd)は13μMで、 カドミウムは亜鉛よりおよそ4倍強力だった。 亜鉛とカドミウムのこれらの効果はほとんど電圧非依存性だった。 対照的に、マグネシウムのKdが17.6mV周囲で増加したように、150μMマグネシウムによるNMDAへの応答の阻害は電圧に依存していた。
NMDA阻害としての亜鉛の能力は、変調アミノ酸の濃度の変化によっては大きな影響を及ぼさなかったことから、NMDAの濃度に依存しない。 またNMDAにおいては、亜鉛が非競争的な中和物として作用するのを示し、直接NMDA受容体複合体のアロステリックサイトの「苦痛」認識部位とグリシンの結合によるNMDAの結合を妨げない。
 
4. 選んだ論文の内容と、ビデオの内容から自分自身で考えたことを将来医師になる目で捉えた考察
NHK スペシャル「不信の連鎖 水俣病は終わらない」は2004年に放送されたもので、水俣病に対する医療保障に関する、争いの歴史について述べられている。 
水俣病とは、戦後の水俣市のチッソ株式会社工場から排出されたメチル水銀により魚貝類が汚染され、これらの汚染された魚貝類を採取することにより生じる重金属中毒症状を呈する疾患である。 しかし、発症当時の技術水準では、水俣病の発症原因を特定することができなかったため、水俣病は医療保険の対象にはならず、医療費を全額患者が負担しなければならなかった。 やがて臨床医などの疫学的な方向からの研究により、水俣病はチッソ株式会社工場から排出されていたメチル水銀が原因であると判明した。 これにより、チッソ株式会社と行政が医療保障を行うことが決定された。しかしこの医療保障を受けるためには、行政の認定審査による水俣病であるとの認定が必要であったが行政が水俣病と認めるのは極少数であった。 これは、水俣病であると診断されるための医師と行政との診断基準の違いが原因であり、近年まで医療保障をめぐる訴訟が続いていた。
水俣病の認定制度は「公害に係わる健康被害の補償に関する法律」により定められている。被害者に対し速やかに補償が行われるよう、行政が患者を認定し、原因企業の拠出金から医療費や慰謝料などが支払われるという仕組みで県の検診と審査会の書類審査を経てはじめて被害者と認められる。水俣病の場合、昭和48年にチッソと患者の間で結ばれた補償協定によって、行政認定を受けた患者はチッソから1600万円〜1800万円の慰謝料と年金や医療費などを受け取ることができる。行政が積極的に被害者を調査し探し出して救済するのではなく、本人の自己申告によってはじめて補償が行われる。水俣病の場合、地元での患者差別が激しく、自ら水俣病と名乗り出る人は少なかったため認定の本人申請主義は、潜在患者が多数埋もれてしまう要因となった。
また環境省が昭和52年に定めた、当時認定審査に当たっていた医学者たちが過去の認定患者の症状をとりまとめて作成した、水俣病の診断基準では、この基準にあてはまらず棄却された患者は数千人にのぼり、医学界からも基準の医学的妥当性に対する疑問の声が出されている。
80年代に入ると行政に認定されず水俣病と認められなかった患者が国と熊本県とチッソを相手に次々と裁判を起こし原告の数は2000人に膨れ上がった。 国と熊本県は、加害責任はない、認定制度は正しいとして患者と対立し、10年に及ぶ裁判闘争が続いたが、長期にわたる争いを終結させるため、当時の連立与党が、患者たちは裁判闘争の終結と認定申請を行わないという条件で、チッソが260万円の一時金を支払い、国と県が医療費を支給するという内容の妥協案を提示した。 これを受け入れ、水俣病と認定されないまま救済の対象となった患者は1万人に達し、これで水俣病問題は終わったとされ、国が裁判で掲げていた「52年判断条件は正しい、国と県に賠償責任はない」という二つの主張は貫かれたが、政治決着を拒否し、裁判を継続した関西訴訟原告団が2004年10月15日、最高裁で勝訴し判決が確定したことで国の上記主張は根拠を失い新たな局面を迎えた。
数十年が経過してなお決着がつかない水俣病問題であるが、政治上の問題で単純に医師のみの問題にとどまらないものを除くと、一介の医師としてこの問題の解決に貢献することの困難さを感じる。 そんな中でビデオに登場する松本医師は医師である自分の父親の信念を受け継ぎ水俣病になった父親を自ら剖検し水俣病と断定し、水俣病を認めさせるために動いていた。これこそが医療人としてあるべき姿だと思う。他方面にまで視野を広げれば異なる見地があるかもしれないが、目の前の患者を救済するという本道を忘れてはならないと思った。

 サイエンスZERO 「遺伝子タイプで選ぶ治療法」は2005年に放送された、遺伝子研究の進展によって注目されているオーダーメイド医療についての紹介である。
 遺伝子はDNA(デオキシリボ核酸)から成り立っており、DNAの二重らせん構造の内側にA(アデニン)G(グアニン)C(シトシン)T(チミン)という4種類の塩基が並んでおり、この塩基配列で遺伝情報が記述されている。 そのDNAにおいて、人間と酵母といった全く違った生物の間で、タンパク質を合成する遺伝子の配列を比べたところ、塩基配列の70%は共通している。 ショウジョウバエだと75.3%、フグで77.8%、ニワトリで86.3%、ハツハネズミで91.9%が共通している。カニクイザルだと98.7%、チンパンジーに至っては99.9%が共通だといわれる。 人とチンパンジーの間では、DNA全体で見ても98.8%も一致している。また人の間では99.7%が共通であり、遺伝子上ヒトの個体差は0.3%にすぎない。
 このわずかな差が、肌や目の色、血液型、お酒に強いかどうかなどの体質を決めている。こうしたDNAの個人差をあらかじめ調べて、病気の治療に生かしていく「オーダーメイド医療」が本格的に始まろうとしている。
 オーダーメイド医療が肥満の治療に使われた例がある。京都のある女性は高血圧の治療のために遺伝情報に基づいた肥満治療を受け、1年で20キロの減量に成功した。京都市立病院の糖尿病・代謝内科の吉田俊秀部長は、肥満が原因で高血圧や糖尿病を患っている患者に、オーダーメイド医療を施している。その手法は採血により肥満に関わる遺伝子を調査し、肥満の原因を解明するので、彼女の場合は白色脂肪細胞が脂肪を放出しにくく、褐色脂肪細胞の働きも悪いタイプであり、基礎代謝が少ないことが分かったのだという。このため彼女の場合は通常よりも摂取カロリーを少なくする必要があり、通常のダイエット食よりもさらに200キロカロリー減らす必要があったのだという。このようにDNAから肥満に関する遺伝子を調べることにより、肥満治療において、摂取エネルギーの調節などが出来るようになった。
 またオーダーメイド医療の効果が最も期待されるもののひとつに薬の副作用の回避などがあげられる。 結核の薬であるイソニアジドは2割近くの患者が肝機能障害などの副作用を起こすことが知られている。 これは同じ量を飲んでも、人によって血中濃度が変わることがあり、人によっては濃度が上がりすぎて肝機能障害を起こすのに、別の人では逆に濃度が上がらずに結核菌を殺せないというようなことが起こる。 大阪大学薬学研究科の東純一教授の研究によると、この薬を分解する能力には個人差があり、その能力に応じて薬の服用量を調整する必要がある。 遺伝子タイプの判定によって、患者がどのタイプに属するかを判断することで、薬の量を調整して効果を上げることが可能になった。
 しかし遺伝子判定を行うためには、どの遺伝子がどんな病気と関係するかの情報が不可欠であり、そのためには多くのデータを集めて、データ処理によって相関性を導き出すしかない。東京大学医科学研究所の中村祐輔教授の研究室では、全国の病院に協力して貰って蒐集したサンプルを機械処理によって解析し、病気と遺伝子の相関性を導き出すプロジェクトを実施している。
 以上、遺伝子解析に基づいたオーダーメイド医療についてであった。今までの十把一絡げの医療ではなく、個人の体質に合わせた適切な医療を選べるというのが最大のメリットであるが、まだまだ研究途上の部分も多い。 またオーダーメイド治療をさらに一歩進めた遺伝子治療も研究が進んでいるが、生命倫理の問題を含み今後の議論が待たれる。


5. まとめ
 以上のように論文とビデオを見てきて思ったことはいずれの問題にしても医学以前の倫理的な問題があり、医師以前に人間として常に考えていく必要があると感じた。
 翻って医師として取り組むべき問題も多大であり、常に広い視野と深い洞察で問題を捉え、水俣病問題における松本医師のような意思を持って問題に立ち向かう姿こそ目指すべき医師像だとおもった。