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予防と健康レポート
(1) はじめに
私の母親は気管支喘息です。母は父親の処方でステロイドの吸引をしています。今現在それほど大きな発作を起こすことはありませんが、私が幼少の頃は大きな発作を繰り返し、たびたび病院で点滴をうけていました。私を含め兄弟3人に喘息はありませんが、唯一、私がアトピー性皮膚炎を持っており、皮膚が弱く冬季になると特にひどい症状が現れます。このように母親と私は体質が似ています。予防と健康のレポートのキーワードで遺伝子多型・喘息というキーワード見つけた時、喘息も遺伝子が関係するのかと思い、これについて調べ体質の似ている母親と私の間で喘息になりやすい遺伝子は遺伝しているのだろうか、母親の喘息は遺伝子の問題であるのか、ということに興味が湧きこのキーワードを選びました。
(2) 選んだキーワード
遺伝子多型 喘息
(3) 論文の内容と概略
気管支喘息を始めとするアレルギー疾患は近年増加の一途をたどっている。これら
の発症には遺伝要因と環境要因とが関与しており多因子疾患であると考えられてい
ます。
近年分子遺伝子学によってアレルギー遺伝子の一部が解明されつつあります。まず、
気管支喘息とは気流制限や気道過敏症を伴う慢性の気道炎症であると定義されてお
り、CD4陽性T細胞が喘息発症に重要な役割をはたしていて、病態はTh2免疫反
応によって偏位するとほぼわかっています。1986年にCooksonとHopkinらによる連鎖解析により、気管支喘息を含むアレルギー疾患に関係する遺伝子は第11染色体長腕(11p13)に存在することがわかりました。これを機に1996年からアレルギー疾患の全ゲノムスクリーニングが開始され、複数の連鎖領域と候補遺伝子が報告され、人種を超えてアレルギー疾患を起こす普遍的な遺伝子座と人種特異的な遺伝子座が存在することが明らかになりました。機能的に影響が出ない場合そういう変化をもつ個体は排除されないので、集団の中で保存されます。この中で、ある塩基の変化が1%以上の頻度で含まれ、機能的に大きな違いがない場合『遺伝子多型』といいます。特にたった一つの塩基が異なる場合をSNP(single nucleotide polymorphism)といいます。これにより遺伝子からできるタンパク質が人により少しずつ違い、このようなわずかな違いが体質、個性、気質などに反映されているということがわかり、気管支喘息についても関連遺伝子を同定する試みが精力的に行われ複数の候補遺伝子が報告されています。どの領域の遺伝子がどのような変化を起こし、どのようなタンパク質の変化が起こったために気管支喘息になりやすい体質になったのかを研究した報告例を次に紹介します。
@膜貫通型タンパク質であるインターロイキン−4Rα(IL−4Rα)と気管支喘息の関連について。これは細胞外のIL−4、IL−13と結合してシグナル伝達を起こします。このタンパク質を作る遺伝子領域にはこれまで9箇所のアミノ酸変異を起こすSNPがみつかっており、これらの多型の中でも50番目のアミノ酸がValからILに変化(IL50Val)したものは遺伝子学的にもアトピー性気管支喘息と関連が認められただけでなく、機能的にTh2からのサイトカインであるIL−4のシグナルを増強させてアレルギー疾患を引き起こします。
AIL−13および受容体遺伝子と気管支喘息との関連について。Th2のサイトカインであるIL−13は12kD(分子の質量単位)のタンパク質であり、IgEクラススイッチに重要な働きをします。その他に気道組織に直接作用し気道過敏症を亢進させます。IL−13が存在する5p31領域でGln110Argというアミノ酸の変化が起こると、IgEレベルで気管支喘息と関連しており健常者より気管支喘息患者に多く見られるということが明らかになっています。この変異はIL−13リガンドの内部構造に重要です。変異したほうが血漿中で安定しており、気管支喘息の発症における機能的な遺伝因子であると考えられています。IL−13はその受容体であるB細胞上のIL−4RαとIL−R3α1と結合して、IgE産生を促進しIgEを介するアレルギー発症を促進すると考えられています。このIL−13受容体を作る遺伝子は染色体Xq13に存在します。その遺伝子の1398A/G多型は、気管支喘息よりもIgEレベルとの相関を示すことが明らかにされました。このことは気管支喘息には母親からの遺伝的影響が強いということを示しています。
BFCERIB遺伝子と気管支喘息との関連について。高親和性IgE受容体β鎖遺伝子(FCERIB遺伝子)は染色体11q13に存在します。イギリス人を対象とした実験では、この遺伝子の翻訳領域のcSNP(codingSNP)によりIIe181がLeu変化すると、血清IgE高値や花粉特異的IgE抗体反応陽性を示し気管支喘息が起こるとが報告されており、日本人ではFCERIBのGlu237Gly変異が認められIgE値の上昇と気管支喘息との相関が報告されています。
CTNF遺伝子と気管支喘息との関連について。腫瘍壊死因子(TNF)のα遺伝子(TNFA)のプロモーター多型−308G/Aは、白人や韓国人における気管支喘息の発症に関連しているという報告がある。日本人では−857C/T多型および−1031T−863C857Cハプロタイプとの関連が示されました。これらの研究によりTNFAそのものやTNF遺伝子複合体、TNF近傍の遺伝子が気管支喘息に関連していると考えられています。
DhCLCA1と気管支喘息との関連について。hCLCA1遺伝子は1p22−31に存在し、日本人では12000G/A多型においてアスピリン喘息、33001T/C多型において好酸球が10%以上である成人気管支喘息との関連が認められています。小児ではTGCCAAGTのハプロタイプを持っていると気管支喘息を発症しにくく、CATCAAGTのハプロタイプを持っていると発症しやすいとうことが報告されており、hCLCA1遺伝子多型と気管支喘息との関連が示されています。
EGSTP1遺伝子多型と気管支喘息との相関。GSTP1は気道の炎症性変化をきたす活性酵素を中和する働きがあることがわかっており、この遺伝子のIle105Val多型が気管支喘息発症に関係するのかという事について調べた結果Valアレルの頻度は小児喘息群で高値であり、遺伝子型Ile/ValまたはVal/Valの人のに頻度も小児喘息患者で高値であったため、このGSTP1のIle105Val多型と気管支喘息との相関が考えられるとの事でした。
(4)考察
気管支喘息の発症と遺伝子のメカニズムの解明にはSNPを検出することであると思います。どの遺伝子にどのようなSNPがあればどのような喘息が起こしやすくなるか、あるいはどのような病気に罹りやすくなるかがわかります。それに伴いどのような対策をとれば病気を発症させなくてすむといったこともみえてきます。4月14日に観たビデオの中でも、血液中から肥満に関する遺伝子多型を見つけ、その人にあった治療を考える『オーダーメイド医療』をおこなっていました。オーダーメイド医療に関しては薬の効き方が人それぞれ違うため、核酸代謝酵素などのSNPを調べることで副作用の強さを知ることができるということも紹介してありました。
しかし、実際の医療現場では、様々な患者さんの、様々な疾患に対してこのようなSNPがあるかどうか塩基配列を調べることができるのだろうかと思いましたが、最近ではSNPがあるかどうかわかっている領域であれば、多くの患者さんを相手にそれをスクリーニングすることは容易であるとのことです。これはPCR法を用いたもので、患者さんの血球からDNAを精製しあらかじめ見当のついているSNP部分をはさんでDNA合成プライマーを用意しておき、PCR法でDNAを増幅し、これらをsingle strand conformation polymorphism(SSCP電気泳動)します。塩基配列に違いがあると分子内の二重鎖形成が異なるためDNAの移動速度が通常とは異なるためすぐにわかり問題にならないということが調べてわかりました。
このように医療技術がどんどん進化を遂げ向上してゆくなかで、今習っていることは、私が将来医師になったときには古く、治療方法が変わっていると思います。しかし新しいことの基礎となるため、今理解しなければ将来医学の進歩についてゆけず取り残されるのではないかということが、今回の論文を読み遺伝子の奥の深さを知ってゆく上で私が感じたことです。
(5)まとめ
レポートの最初に述べたように、気管支喘息は多因子疾患の一つで複数の遺伝要因と環境要因があります。人の細胞内の遺伝子を操作することは今のところ不可能だと思います。この疾患では変異イコール異常とはかぎりません。そのため、遺伝子をどうにかしようというよりは、遺伝要因から得られる副作用の少ない個人にあったオーダーメイド医療と、タバコを吸わないといった環境要因を改善してゆくことがこの病気を引き起こさないため、あるいは症状軽減への解決方法だと思います。