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予防と健康管理ブロックのレポート
1.はじめに
ヒトの全塩基配列が解明され、それに伴い近年では遺伝子診断やオーダーメイド医療が注目されている。
ヒトにはそれぞれ体質があり、薬ひとつをとっても適量が違うため、一概に用量を指定することは出来ない。そこで個人の遺伝子を調べることで、その人にとって最も効果的な薬やその量を指定することが出来る。もちろんある病気の治療方法にしても、その人に合った治療というものが存在するはずである。それを可能にしたのが遺伝子診断やオーダーメイド医療であり、とても画期的な技術であると思う。また、普段の生活に問題点が見られるような肥満の場合も要因はそれだけではなく、もともと持っている遺伝子によってなりやすさや改善策が違うという。肥満はひいては生活習慣病を招くような重要な問題であり、個人的にも心配している問題である。そこで肥満について遺伝子レベルで考えてみたいと思い、次のキーワードを選択した。
2. キーワード
≪肥満≫ ≪塩基配列≫
3、選んだ論文の内容の概略
T,肥満の原因遺伝子
堀田 紀久子
@ はじめに
近年、わが国においても食生活やライフスタイルの欧米化に伴い、糖尿病、高血圧、
高脂血症、動脈硬化などの生活習慣病が増加してきている。これらの生活習慣病の共通の基盤として肥満が極めて重要である。肥満は遺伝的要因に環境因子が加わり発症すると考えられている。
バージニア州の30000人の家族を用いた環境因子も加味したstructural equation
model(Stealth)では男女ともBMI規定因子として遺伝的要因が約67%であることが示されている。日本人では大木らが、約70%が遺伝的要因であることを示している。このような研究から、人種によらず肥満発症には環境要因のみならず、遺伝的要因がかなり重要であると考えられる。
A 単一遺伝子異常による肥満と遺伝性肥満
ob/obマウスなどの単一遺伝子異常で起こる肥満モデル動物の解析に荷より、肥満遺
伝子の解析が飛躍的に進展した。この論文までに9個の肥満自然発症モデル動物の原因遺伝子が同定されている。これらの遺伝子はヒトにおいても同定され、その遺伝子異常も検索されてきた。
レプチン欠損症では血中レプチン濃度が著しく減少し幼少時より過食と高度の肥満
を伴っている。レプチン受容体欠損症では生下時体重は正常であるが生後数ヶ月より肥満が顕著になってくる。
α-MSH、ACTH、βエンドルフィンの前駆体であるPOMCの遺伝子異常ではα-MSH、ACTH、βエンドルフィンが合成されず、肥満、低血圧、ACTH欠損、赤毛を呈する。MC4R欠損症も報告されている。この異常は単一遺伝子異常の中ではもっとも頻度が高く、他の単一遺伝子異常とは異なりヘテロ接合体でも肥満を認める。
PCSK1は遺伝子変異は高度肥満を呈し、食後高血糖とインスリン、α-MSH、ゴナドトロビン、コロチゾルの分泌低下を伴う。PCSK1変異によりプロセッシングが行われず、α-MSHの低下し肥満が生じていると考えられている。
Single-minded(Drosophila)homolog 1(SIM1)の遺伝子異常による肥満症例も最近報告されている。染色体1と6のtranslocationのためSIM1遺伝子に異常が生じている。
Albright's hereditary osteodystrophyは常染色体優性遺伝で第15染色体と第20染色体G protein、GNAS1の異常であることが報告されている。
Prader-Willi症候群は常染色体優性遺伝で多くの患者は父方由来の15q11,2に3〜4Mbの欠失が認められる。それ以外では母方のtrisomyすなわち母方由来の15q11を2本有していることが多い。
Bardet-Biedl症候群(BBS)は常染色体劣性で6か所の遺伝子座が報告されている。そのうちBBS1、BBS2、BBS4(myosin IXA)、BBS6(McKusick-kaufman syndrome gene)遺伝子が同定されている。
B 肥満関連候補遺伝子
Common diseaseとしての肥満に関与する遺伝子の検索には、候補遺伝子解析とマ
イクロサテライトマーカーなどを用いたゲノムワイドな検索が行われている。肥満の候補遺伝子の遺伝子多型と肥満度との相関解析が数多く報告されている。また、マイクロサテライトマーカーを用いたQTLによる全ゲノム領域にわたる連鎖解析も数多く報告されている。Mexican-Americanで血中レプチン値との連鎖解析が行われ、血中レプチン値が染色体2p21と最も連鎖していることが報告された。Pima Indianでは11q21-q22と体脂肪率が最も連鎖していることが報告されている。日本では糖尿病患者におけるBMIでQTL解析が行われている。この結果、染色体2,3,4,5,7,10,15,16,17に連鎖を認めている。これ以外にも多くのQTL解析が行われているが、その結果、ほとんどすべての染色体に連鎖が報告されている。調べられた人種や民族により異なる結果が報告されているので、肥満発症に関連した遺伝子は人種や民族差があることが示唆される。
C 肥満症の遺伝的素因
肥満は内臓脂肪型肥満と皮下脂肪肥満に分類される。ゲノムワイド連鎖解析にて内
臓脂肪型肥満の遺伝要因を調べた報告も幾つかある。カナダのケベック州の家系でCTによって測定した皮下脂肪面積と内臓脂肪面積との連鎖解析を行った報告では、内臓脂肪面積と連鎖を認めなかったが、皮下脂肪面積に関しては、1p11.2,4p15.1,9q22.1,12q24.3,17q21.1-21.3と連鎖を認めている。また、17q21.1-21.3近傍にはPPYといった食欲調節にかかわる遺伝子があり、これらの遺伝子と皮下脂肪面積との関連性が示唆されている。
Kissebahらは、BMI、ウエスト周囲径、ヒップ周囲径、体重、血漿インスリン値、
血中インスリン/ブドウ糖比、血漿レプチン値の7項目に関して、連鎖解析を行っている。各形質の遺伝病はそれぞれ24%、28%、32%、29%、16%、19%、32%であった。
D 日本人における肥満関連遺伝子のゲノムワイド検索
単一の遺伝子異常で肥満が生じているケースは少なく、一般的な肥満は複数の遺伝
子が関与していると考えられる。候補遺伝子の相関解析では肥満と関連しているという報告がある一方、そうではないという報告もある。全ゲノムにわたってマイクロサテライトマーカーを用いた解析では集団によって結果が異なっている。また、連鎖している範囲が広く肥満の責任遺伝子はまだ完全には同定されていない。今後、日本における肥満遺伝子が同定されることが期待される。
U.肥満に関連するミトコンドリアゲノム一塩基多型の発見
副 典之 田中 雅嗣
肥満はエネルギー出納のバランスの崩れで生じると考えられるので、エネルギー代謝の中核的な部分を担っているミトコンドリアの量や機能の相違が個体の肥満度に多大な影響を及ぼすと推定される。著者らはヒトの種内変異であるミトコンドリア遺伝子多型が個体間のミトコンドリア機能の多様性に関与し、ひいては成人発症性疾患や生活習慣病に対する感受性に影響を与えているとの仮説に基づき、長寿者群や疾患群のミトコンドリア遺伝子(mtDNA)型を比較している。
@ ミトコンドリア遺伝子
ヒトの遺伝情報は核だけでなくミトコンドリアにも独自に存在している。mtDNAは16569塩基対からなる環状二重鎖DNAである。mtDNAには蛋白質を規定する13種の遺伝子とミトコンドリア内での蛋白質の合成に必要な2種のrRNA遺伝子および22種のtRNA遺伝子がある。mtDNAは二本鎖間に非対称性が高いために個体間での塩基配列の多様性は顕著である。さらに、mtDNAは母性遺伝のため母親の遺伝子のみが子に伝わる。最近、mtDNAの多型が糖尿病や高脂血症といった生活習慣病に関連しているという報告があいついでいる。
A 肥満と母性遺伝
Stunkardらは肥満度(BMI)は生物学的父親のBMIより生物学的母親のBMIの影
響を受けることを報告している。これは母性遺伝によって伝えられたmtDNAの遺伝子型が肥満度に関与している可能性を示唆している
B 肥満者におけるミトコンドリアゲノムの全塩基配列決定
これまでに若年非肥満者、若年肥満者について、すでに全塩基配列を決定しているのでその一部を紹介する。
それぞれ96例の若年肥満者のmtDNA全塩基配列(16569塩基×192=318万塩基)を決定した結果、759個の一塩基多型(SNP)が検出され、22塩基に一個の割合でSNPがみつかった。rRNA遺伝子領域のSNPは64個、tRNA遺伝子領域のSNPは43個、mRNA遺伝子のSNPは480個見出され、アミノ酸置換を伴うSNPは149個であった。mtDNAのcoding rejionにおいて肥満および非肥満に関連するSNPはそれぞれ15および4個認められた。HaplogroupM7b2を代表とする5個の同義置換と5個のアミノ酸置換(ND1 Asp→Asn,ND2 Ala→Thr,CO2 Val→Ile,ND3 Ile→Thr,ND5 Thr→His)、ならびにhaplogroup Alaを代表とする4個の同義置換と1この挿入(16S rRNA)は非肥満群に比較し肥満群に有意に高頻度であった。一方、haplogroup Fに代表される二個の同義置換と二個のアミノ酸置換(ND%5 Ser→Thr,Val→Ile)は非肥満群に比較し肥満群において有意に低頻度であった。
今後これらが真の肥満関連遺伝子多型であるかどうかの検討を進めていく予定である。
4. 選んだ論文の内容と、ビデオの内容から、自分自身で考えたことを、将来医師になる目で捉えた考察
授業中に見たビデオを通じて、遺伝子診断やオーダーメイド医療が今日の医療において実際に行われている様子を見ることが出来た。人それぞれ性格が違うように、同じ病気でも患者さんによって一人ひとり症状が違い、一人として同じ症例はない。従って、全ての病気に対してその患者さんに合った治療を行う必要があると思われる。処方する薬に関しても、あらゆる人に万能な薬は存在せず、その人にとって一番効果的な薬を適量処方することが大切であると思う。
今回のレポートでは、あらゆる病気の中でも肥満に注目して遺伝子レベルで原因を考えてみた。肥満のような環境要因が強いと思っていた病気においても遺伝子的要因が強く、生まれながらにして肥満になりやすいということもあることがわかった。また、一般的な肥満は単一の遺伝子異常で生じるのではなく、複数の遺伝子が関与していることも知ることが出来た。他の病気については調べていないので正しいことはわからないが、同様のことが言えると考えられる。従って、関与している遺伝子によって異なる治療が必要であると思う。それには遺伝子診断が必要であり、得られた情報を適切に用いて、その患者さんに一番適した医療を提供することが可能になるであろう。このことは医療の世界にとって、とても素晴らしいことであると思うが、遺伝子診断にかかるコストが高いことや全ての病気に対して関与する塩基配列が決定された訳ではないので、あらゆる病気に対して機能するのはもう少し先のことになるかもしれない。また遺伝子はその人にとって究極のプライバシーである。従って、このような医療が進んだとしてもむやみに遺伝子を扱ったりすることなく、その取り扱いについては慎重にならなくてはいけないと思う。このようなことを踏まえて、私も将来医師として、患者さん一人ひとりにとって適切な医療を提供することが出来るようになりたいと改めて感じた。
5.まとめ
医学の進歩は著しく、遺伝子診断やオーダーメイド医療が当たり前のように行われるようになるのもあまり遠くの話ではないかもしれない。遺伝子解析をすることで、将来なり得る病気に早めに気づき、早期治療が出来ることは良いことだが、それを知ったが故に精神的ダメージを受けることがあるかもしれない。従って、メンタル面でのケアも十分に整った状態でなければ実現するのは難しいであろう。あらゆる問題点が解決され、全ての人にとって最高の医療ができるようになると良いと思う。
今回のレポートを書くにあたって、日頃いかに最近の医療に注意して情報を得ていないかを実感した。将来医師を志すものとして、普段からもっと最新の医療というものに関心をもち、積極的に情報を収集するようにしたいと思う。