BACK  ←  Section Top   →  NEXT
・・・・・・・・・・079・・・・・・・・・・

水俣病のビデオを見て

 2004年関西水俣病訴訟の判決がでた。1959年水俣病の原因が有機水銀とわかってから45年のことである。原告勝訴。しかしビデオを見ていると司法の最高機関が判決を出したのにもかかわらず、国がその判決を結果的には受け入れていない現状をみることができる。国側の問題は恐らく単純に言えば救済に踏み切った時にかかる費用の問題が大きいということだろう。では私たち医療に携わっていく者はどういうことを考えなければならないのだろう。自分が普通の町医者だったらいったいどうしていただろうか。

 親子二代で水俣病患者を診てきた医師が水俣病認定についてその胸中を語っていた。自分が診て明らかに水俣病であるとわかる患者を水俣病としていいのだろうか。水俣病と認定すれば保険がおりなくなる…。そしてこの患者を水俣病と認定しても、国の認定基準をクリアーして保障を受けることができるかどうかはわからないといった矛盾を感じる。もし自分がその先生だったらどうしただろうと考えただけで当事者である先生の苦しくつらい思いが聞こえてきそうである。それでも結局は私も先生と同じことしていたと思う。我々、町医者が国や世論に対して訴えることのできる唯一の手段がその認定という行為だったのではないかと思うからだ。

 またこの水俣病で重要な問題といえば食品衛生法であろう。当時、国が水俣湾をはじめ、有機水銀を含む可能性のある魚介類をこの法に適用していれば、少なくともこの水俣病といった病気を拡大させずにすんだはずである。しかし裁判の結果、国にこの責任は問われなかった。この点において医師はどうすることもできないのだろうか。いやすくなからず食中毒届けを出したり何らかの形で国や世論に訴えることができたはずである。やはりそういった活動が当時それほど無かったということも食品衛生法への適用を国が認めなかった要因として上げることができるのではないだろうか。

 いつごろからこの予防医学や公衆衛生学が医学部教育に採用されたかはわからない。しかし我々は水俣病やそのほか公害病、伝染病などから経験してきたように、治療して回復させるだけが医師の仕事ではないことを知っているのである。これからは特に予防、衛生といった新たな視点で医学を考えていくこともとても重要になってくるのではないだろうか。そのためにしっかりこの講義を学ばなければならないと感じる今日この頃である。