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「水俣病」に関わる諸問題


水俣病の医学者は、認定問題をめぐって真っ二つに割れてきた。患者側と国側に色分けされ、行政によって「専門家」や「権威」とされたのが国側の学者だった。普通、病院で「あなたは風邪です」と診断されれば、ほかから「あなたは風邪じゃない」などと言われることはない。しかし水俣病では、仮にかかりつけの医者から「水俣病です」と診断されても、世間で認められたことにはならない。行政が「認定」することになっているからだ。


なぜそうなったかは一九五九年、チッソが患者に見舞金を払うことになった時にさかのぼる。患者に金を支払うにあたって、チッソは「その者が水俣病である」ことの証明を望んだ。そこで行政が設置したのが、「認定」のための審査会だった。審査会の委員には医学者が選ばれた。


こうして認定が始まり、法に基づく制度として固まると、いかに民間病院が水俣病と診断しようとも、患者は行政に認定されなければ、慰謝料や治療費を受けられなる。ちょっと見ただけじゃ分かりづらいから、ニセ患者やヒステリーと言われ続け、そのことで患者は差別や誤解を受けてきた。審査会医師は「感覚障害は本人の訴えだから信じられない。水俣病と診断するには症状の組み合わせが必要」としている。両者の違いの根っこを突き詰めると、患者の訴えを「信じるかどうか」にあったと思われる。


「原告がメチル水銀の影響を受けている」のなら、医学的には水俣病ではないか?と普通に考えればそういう疑問が出てくるのだが、上でも述べている通り複雑で困難な問題がある。

一方の医学者が「水俣病である」と言えば、他方は「ほかの病気でも起こるから断定できない」と否定する。問題とされたのは、感覚障害とメチル水銀汚染「因果関係」の度合いだった。


ここで、疫学という学問が必要になってくる。


因果関係を確かめるため、疫学では「原因のある集団」と「ない集団」を比較するという手法がとられる。水俣病でいえば、メチル水銀の汚染地と非汚染地で、感覚障害の発生率を比べてみる。汚染地に住んで感覚障害のある人は九〇%以上の確率で水俣病と言える。認定に補償が絡んだために、医学はゆがめられたのではないかと思われます。