2003~2020年度の川崎医科大学衛生学の記録 ➡ その後はウェブ版「雲心月性」です。
臨床環境医学 編集後記 Vol.22 No. 2. 2013
 編集委員長を務めております大槻です。2013年には,日本臨床環境医学会編集によるシックハウス症候群マニュアルを上梓しました。現在,アマゾンなどでも購入できるようになっています。また,今回は,英断を下していただいて,学会の会計から相当の工面をしていただけました。ですので,今回,本誌と一緒に,会員の皆様に同封配布しておりますので,種々の場面でご利用いただけましたら幸いです。
 3月が来ると,大震災・原発事故から3年が経ちます。汚染水が「under control」なのかどうかはわかりませんが,そういう報道の一方で,種々の大型地震の確率は,届けられる度に高まってきます。揺らぎと津波による被害のシミュレーションは,専門の方にしてもらわざるを得ないのですが,それでも事が起こるまでは,やはり愛着とともに土地に住まい,普段の生活の便利さも甘んじて受けてしまう我々です。
 好きな作家さんである多和田葉子さんの最近のエッセイ(言葉と歩く日記 (岩波新書) )を読んでいると,ご本人の書かれた「不死の島」に触れられているところがありました。これは2012年2月に発刊になった「それでも三月は,また」に収められているもので,この本は他に池澤夏樹氏,村上龍氏,小川洋子氏,谷川俊太郎氏など素晴らしい作家の方たちの,主に書き下ろし,あるいは震災後の作品を集めたものでした。多和田氏は,一種シニカルなSFで訴え,村上氏は「希望」・・それも上から押し付けられるものではない「希望」をキーワードとした作品を掲載されています。池澤氏は復興の中での日常の場面を切り取る中で,人々が生きていくことで時間を費やしていくことの大切さを伝えてくれています(池沢市の最新刊「アトミック・ボックス」はエンタテイメントさも組み込みながら,深い洞察があります。お薦めです)。
 環境からの健康被害についても,震災などのようにドラスティックに場面を変化はさせませんが,日々忍び寄ってきているのかも知れません。特に,感受性の高い人々には,苦渋の日々が圧倒的に押し寄せてきているのでしょうか? 寄り添うことしかできない場合でも,せめて寄り添ってみたい。そんな思いを大切に,学術研究や臨床病態の解明なども含めて,自分が向き合うべきところに,しっかり対峙したいものです。
大槻