2016.6/13
産学連携知的財産管理室の月例会議

研究ニュースへの紹介記事を刊行前ですが紹介します。

ようこそ,産学連携知的財産管理室(産知室)へ。

まだご存知ない教職員の方々もいらっしゃるかも知れませんが,2016年度より,川崎医科大学内に,産学連携知的財産管理室(産知室:「さんちしつ」とお気軽に及び下さい),が開設されました。本室が所掌する課題は,本学の産学連携活動の活性化とともに,知的財産管理のノウハウの蓄積とともに,教職員の方々への支援であります。室員は,教員サイドからは,中央研究部部長補佐も務めていただいています生化学の山内准教授,衛生学の西村准教授を招き入れ,研究支援係から川西室長と青江女史,さらに役職上は事務職扱いとなってはおりますが,他の大学の位置付けから考えるとコーディネータとしてご活動いただいております本地直樹参与,さらに,INPIT(独立行政法人 工業所有権情報・研修館【発明、実用新案、意匠及び商標に関する公報、審査及び審判に関する文献その他の工業所有権に関する情報の収集、整理及び提供を行うとともに、特許庁の職員その他の工業所有権に関する業務に従事する者に対する研修を行うこと等により、工業所有権の保護及び利用の促進を図ることを目的とする。】)からプロジェクト形成支援型ネットワークの産学連携知的財産アドバイザーとして本学にご着任いただきました西山和成氏(本学では中央研究部参与となっております)にて構成されており,室長を衛生学・大槻が申し付かっております。

本学の教職員には,教育・診療は元より研究活動についても,鋭意努力し,その成果を高めていくことが求められておりますが,ここ10〜15年くらいは,いわゆる論文発表による研究業績に加えて,特許の取得,産学(官)連携によるイノベーションの創生と大学発ベンチャーなどの起業なども研究活動として重要視されるようになってきました。それは,すべての科学学術領域において,研究の成果は,広く国民あるいは世界中の人たちに還元され,その生活や人生を豊かにしていくこと,人びとのWell-being に貢献していかなければならないこと(医科学の領域であれが健康の不都合に対して予防・診断・治療など向上による貢献となります),それはつまり,例えば国内で考えれば,学術研究の多くは国税で賄われており,その成果は資本を注入された国民すべての手に渡らなければならないという考え方が,浸透してきたことにもよります。わかりやすい例としては,open access journal による研究成果の開示などもその一環かも知れません。このような中で,研究開発よって果実が産まれ,それが人びとのWell-being に多くの貢献をもたらす時に,当然,社会の中での経済という側面も疎かには出来ないことはよく理解できるところであり,研究開発された成果を,特許なり知的財産としての管理の上で,開発した研究者の権利を守って行くことも非常に重要になってきます。学問は世俗の波とは無縁のところで,清貧のままに学術研究にのみ没頭するのではなく,社会科学として健康の不都合に苦しむ人たちに,多大な恩恵を与えることによって,そしてそのことが経費財政的にも新たな余裕と研究への資源を創出し,更なる高みへと結実させていくことを臨むことは,現在の社会の中で必須の考え方になろうかと思われます。臨床面でも,免疫チェックポイントの抗体治療に代表されるような分子標的療法の発展は,種々の疾病で苦しまれている方々へ大きな希望を与えておりますが,これらも多くの基礎研究や臨床研究の賜物であり,医科学が社会に貢献する最もわかりやすい一つの表現形かと思われます。

そのような中で,本学では教員サイドも,事務方も産学連携や知的財産管理に対して,十分な対応ができていなかった,あるいは他の大学・研究機関に比べて,相当に遅い足取りでしか対峙出来ていなかったことも否めないところでした。

2014年から研究担当柏原副学長のご努力で,やはりINPITからのアドバイザー派遣事業により2年間,杉原長利 広域大学知的財産アドバイザー(参与)を招聘することが可能となり,川崎学園の3大学と岡山県立大学ならびに福山大学でネットワーク(NW)を形成した西日本医系大学知的財産管理NW事業が展開されました。ご記憶かも知れませんが,2015年度の川崎医科大学学術集会では,岡山県立大学と福山大学からもポスター発表ならびに口演発表も頂きました。また,杉原アドバンザーは,本学,ならびに学園内の他大学は元より,県立大学や福山大学に出向かれて,本学と同様に,産学連携知的財産管理の組織づくりが,ある面不十分であった体制の中で,組織づくりの礎を形成された2年間であったこと,十分に本学内に周知できていたかどうか不明な部分もありますが,十分な実績が残された2年間でした。本NW事業については,最終の2016年3月30日に,本学別館大会議室でNWの会合を設け,それぞれの大学から事務系職員あるいは教員の先生が一同に会して,2年間の総括を行うとともに,今後の連携と相互の交流,さらにはそれらから生まれる成果の結実に向けて努力することを誓い合うことになりました。当日の記念写真も紹介しておきます。

また杉原アドバンザーの着任と時を同じくするように,本学内でも特許申請の件数も増加してきており,着実に出願に至った案件もあり,また,一部はPCT出願(特許協力条約:Patent Cooperation Treaty、PCT)は、複数の国において発明の保護(特許)が求められている場合に各国での発明の保護の取得を簡易かつ一層経済的なものにするための条約である。)に至った案件もありました。

ここまでの潮流を2年間のNW活動で途絶えさせないためにも,継続的な産学官連携と知的財産管理の支援活動が望まれている中,2015年度終盤から,新規のアドバイザー派遣事業への応募の準備を行い,晴れて採択されました。この事業には,「プロジェクト支援型」と「プロジェクト形成支援型」の2種類があり,本学は後者の枠での採択になります。前者は,既に形成されたプロジェクトを製品化,さらには上市することを視野に入れた枠で,7つの採択(北から旭川医科大学(北見工業大学・はこだて未来大学も参画),岩手大学,新潟大学,首都大学東京,山梨大学,浜松医科大学そして三重大学が挙がっています)がありました。そして我々も採択を受けた後者型には,他に「北東北ものづくりプロジェクト形成NW(幹事:青森県立保健大学,参画:岩手県立大学,青森中央学院大学,三重県立看護大学,札幌市立大学)」,「美術・デザイン系大学知財活用NW(幹事校:長岡造形大学,参画:女子美術大学,東京造形大学),「近畿地域広域大学知的財産NW(幹事:大阪産業大学,参画:神戸学院大学,武庫川女子大学)」の3NWがあり,それに加えて,本学の提示した「吉備地域産学官連携知的財産活用NW(幹事:川崎医科大学,参画:川崎医療福祉大学,岡山県立大学,福山大学)」が採択された結果となりました。そして,それに合わせるように(不採択でも設置の予定ではありましたが)産知室が組織されました。

お分かりのように,これは西日本医系大学知的財産NW事業を継承するものとなっておりますが,謳い文句的には,今回の応募枠は,地域という側面を前面に押し出した構成になっております。これは国自体が地域創生を現在の日本の課題解決の一つの柱として掲げていることもあり,これによって大学はより深い地域連携が求められており,岡山県でもCOC(地(知)の拠点整備(事業(くらしき作陽大学+倉敷芸術科学大学)や,COC+(地(知)の拠点大学による地方創生推進)事業(岡山県立大学を中心とした県内10大学と県,自治体)などが採択されて展開されています。

しかし,本事業は,特に産学官連携を目的とし,さらに地域に根差したものとなっています(ただし,大学のシーズから知的財産管理を行いながら製品開発まで進めるためには,起業サイドを地域に限定してしまうと,十分な成就に至らない可能性もありますので,掲げる言葉は「吉備地域」であっても,吉備地域の大学シーズ発であれば,連携起業の地域にはこだわらないことになっています・・・そこにこだわり過ぎると,まさに主客転倒になりかねないことにもなりますから)。

図に,本NWの概要図を掲示いたしました。4大学で情報共有をしながら,そして研究交流を深めながら,大学発のシーズから製品開発に向けた取り組みを,具現する方向で協調していきます。そして,このNWを取り巻く周辺には,岡山県産学官連携推進会議(本学も幹事)などを所掌されている県の産業振興財団,そして,当財団も参画している岡山県内の医工連携クラスターとして「岡山県医用工学研究会」あるいは「おかやま生体信号研究会」,さらに岡山発医系産業開発を旗印とする「メディカルテクノおかやま」があります。さらに医療機器開発のクラスターとして「メディカルネット岡山」や「医療機器開発プロモート岡山などがあります。また食品や栄養関係の連携組織として(図にはありませんが)「おかやまバイオアクティブ研究会」もあります。最初に挙げた3つの組織では,産知室室長の大槻は,2009年度より大学窓口としてそれぞれの副会長も務めております。さらに,中国地方を中心に医系のみならず産学官連携のマッチングを推進している「中国地域産官学連携コンソーシアム(さんさんコンソ)」もあり,本学も今年度から参画しました。これらのクラスターと表裏一体となって,本学では岡山大学や九州大学の橋渡し研究拠点NWにも参入していますので,周辺環境との連携も,積極的に行っていきたいと考えています。

その他,産知室で所掌する関連事業としては東京医科歯科大学が中心となっている医学系大学産学連携ネットワーク協議会(medU-net)への参画と情報共有があります。『大学の研究発展、並びに社会貢献といった大学の使命に対し、重要な役割を担う産学連携活動において、特に医学分野に関しては、特許成立や技術移転の困難性、契約や遵守すべき法令などにおいて、当分野特有の課題が多数存在しています。医学系の産学連携活動を円滑にまた適切に展開するためには、全国の医学系大学の産学連携部門の担当者による協力体制を構築することが効率的ではないかと考えます。そこで、東京医科歯科大学知的財産本部では、2009年10月医学系大学産学連携ネットワーク委員会を設立し、このたびネットワークを設立しました。』という趣旨に賛同し,川崎医科大学では,特に当初の3年は文科省の助成金で運営されていた関係もあって,会費無で,その後は年会費を支出して会員登録をして積極的にmedU-netとの協調を進めています。事務局長の飯田香緒里先生にも,本学のFD会でいくつかの講演もしていただいておりますし,産学連携イノベーション創生の展示会であるBioJapan にも1medU-netのブース枠の中で,出展をしてきています。知財保護の観点からは,本学の中ではそのノウハウといった面(例えば,特許申請をしようとするシーズがある場合には,抄録集などで開示してしまっていては不可能になるといったことなど)では,知識と手法の蓄積が希少であったところを,先進のそれらを教授していただくことで,急ぎ足で教職員のコンセンサスを形成しようといった試行の中で,medU-netの持つ有形無形の先達としての情報を本学にも可能な限り還元していく橋渡し役を産知室で務めようとするものです。2016年度のBioJapan では,ここ2年の1ブースでの2つのシーズ紹介から進展を遂げ,2ブースで4シーズの紹介(30分間の口演プレゼンテーションを含む)をすることになっています。企業関係者も多く参加されており,マッチングに向けて1つでも2つでもステップを駆け上がるチャンスに恵まれたexhibition ですので,是非,今後ともシーズ(特に特許出願済みで、パートナー企業がみつかっていないもの)をお持ちの教職員の方々には,積極的に利用していただきたいと思っております。

また,BioJapan などでの配布を目的に,川崎医科大学の研究シーズ集も発刊し,かつ刷新を継続していきます。NW参画の岡山県立大学も福山大学も,立派なシーズ集を発刊されておりますし,それぞれ地元と一体となった研究シーズ発表会も催されています。そういった面では,本学はやや足踏み状態でもありましたので,産知室発足を機として,それらの充実にも努力していきたいと思っています。

あるいは,JST(科学技術振興機構)の展開するシーズ発表会などの情報も積極的に活用して,シーズと企業その他のマッチングの機会を設けて事業家に繋がる案件をつくっていくとともに,全教職員に伝達共有し,積極的な参加を促していくことを目指しています。2015年度も,兵庫医科大学が主催されシーズ発表会に,本学から2演題を提示することも出来ました。こういった種々のシーズのプレゼンを介して,製品化の課題なども具体的に見えてきますし,また,企業の倫理なども理解した上での,イノベーション創生に向けた機運が醸成されていくことも確実です。

実は,「室」がついていますが,学内に特定の場所がある訳ではなく,研究支援係の部屋を他の組織と共有しながら展開して行っています。まだまだ,発足したばかりの組織ですが,担当教職員をはじめ,コーディネータ役の本地参与,アドバイザーである西山氏も,含めて室員は皆,これまでも何らかの形で,産学官連携や知的財産管理についての経験も有しているメンバーとなっています。

どうぞお気軽にお声掛けいただき,川崎医科大学発の医療系事業の創生に向けて,多くの教職員の方々と一緒になって,努力していければと思っております。ご意見や問い合わせ,どんな内容でも結構ですので,どんどん,ご連絡ください。研究支援係のメールアドレス,室長・大槻のメールアドレスなどをご利用いただければ幸いです。また,研究支援の部屋に産知室の関係でってことでお訪ねいただければ,対応いたします。

ようこそ,産知室へ。そして,メディカルイノベーションへの最初の一歩を,一緒に歩んで行きましょう!