2003~2020年度の川崎医科大学衛生学の記録 ➡ その後はウェブ版「雲心月性」です。

新年度のスタートに当って


2004.4.01

櫻満開の新年度が始まります。

今年度は,我々の教室においても,新たなスタートが切られることとなります。


教室員として,助手の三浦由恵先生が,参加してくださることになりました。

新規の教室員としては,大槻が1996年に留学から帰って来て,それまで血液内科をやっていたにもかかわらず,新たな領域を求めて,そして,基本的には,研究主体の大学での日々を求めて,前 植木教授のお誘いによって参加させていただいて以来の新メンバーです。

三浦先生は,岡山大学大学院自然科学研究科生命分子化学専攻食品化学研究室(高畑教授)にて,今春,学位を取得されて入局してくださいます。また,三浦先生は,山梨医科大学大学院医学研究科での研究歴もお持ちです。これまでは,主に,Sphingosine 1-Phosphate や,Docosahexaenoic などの細胞の脂質と,細胞内シグナル伝達経路との関連を,血管内皮細胞などで,研究されてきたでということですし,手法としては,細胞培養,タンパク質分析手法(免疫沈降,イムノブロット),RIを用いたキナーゼアッセイ,FACSを用いた細胞分析法(アポトーシスの検出,細胞周期の解析,細胞表面マーカーの検出など),遺伝子実験法(ノザンブロット,PCRなど)などに習熟されてきた上で,我々のチームに参加してくださいます。我々が,現在,検討を進めている「環境と免疫」の係わり合いについて,特に,集中しています珪酸や珪酸化合物の免疫担当細胞への影響は,「珪肺症に合併する強皮症」で代表される 環境中物質によってもたらされる自己免疫異常 や「石綿肺症に合併する肺癌や中皮腫」に観られる 繊維状物質による発癌過程 における 免疫担当細胞への繊維状物質の影響 というような課題に対して,大いにその実力を発揮してくださるものと期待しております。是非とも,力を合わせて,良い研究業績をあげていけるようにお互いに頑張りましょう。


また,研究補助員として畑田聡美さんが,加わってくださいます。

昨年度(実際には昨日)まで,坂口治子さんが,長らく勤めてくださってましたが,移動ということで,再編です。畑田さんは,生化学教室の研究補助員さんとして長く勤めて来られましたので,実験補助として,きっと私どもの研究にも大きな力となってくださるものと期待しております。所謂,基礎研究と,社会医学~予防医学の中の基礎的アプローチということ,また,我々は実際にも珪肺症の症例の検体なども扱って実験をすることもある,ということで,これまでとは,少し視点や立脚点が異なるかも知れませんが,何卒,宜しくお願いいたします。



さて,こうして新メンバーも加わって,新年度がスタートします。

今年は,まさにこの年度開始の日に,山陽路・吉備路界隈は桜満開で,春の陽光は,この新たな門出を祝福しているかのように,暖かさと輝きに溢れています。この素晴らしい自然の恵みの中で,しかし,環境からのヒトへの健康障害も近年は非常に複雑になってきてます。シックハウス症候群なども含まれる部分が多い多化学物質過敏症(MCS)の問題や,所謂環境ホルモンの問題などは,主に,ヒトの作り出したものが,環境中に微量に含まれることが,翻って,また,ある特定のヒトへの健康障害として向かってきているということでもありますが,我々のテーマであります「珪酸・珪酸化合物」については,天然の物質でもあり,また,工業製品等としてのヒトの手が加わった加工物でもあります。健康障害の発症の中で,これらの物質の関与を明らかにしていくことも,我々は,非常に重要と考えております。こういう命題に対して,真摯に研究に努めなければならないと思っております。

そういう中で,基本的には,我々は我々が行っていることの成果を世界に発信して,「環境と健康」という命題への取り組み(それは,国内外での学会活動であったり,関連の医科学雑誌 Journal への発表であったりする訳ですが)の中で,価値ある内容を提示していかなければなりません。このことは,裏返すと,日々の実験活動を,Medical Science として評価可能なレベルで行わなければならないということになります。

昨年度末の雑感(即ち,昨日の書き込み)でも記しましたが,とにかく,行った実験は,すべからく論文という形で,残していく,逆に云うと,すべての実験は,論文を書く前提で進めて詰めていかないといけないということを,肝に命じておかなければならないでしょう。


私が大学院の頃に,指導の先生から「研究とはサイエンスとアートの両面を有している」という話を聞きました。その頃には,あまり良く分からなかった部分もあったのですが,昨日,坂口さんのフェアウェルお茶会をしていた時の雑談の中で,ふと,浮かんできたことがありました。

ある実験の結果のデータが得られたとき,それを印象派的な視点で捉える,あるいは,キュビズムの視点で見据えてみる,と,実は,そのデータの表面的なものでなく,内から湧き出てくるような本質の処や,自らの発想になかった問題点を,実はデータ自体が言葉にすることはないのだけれど提示してくれているのかも知れない。勿論,科学論文は写実主義でないとならない部分があるので,その時,感じさせてくれているキュビズム的な,あるいは印象派的な表現では科学の視点とはすれ違ってしまうけれども,そこで感じた新たな視点に沿って,もう一度実験のシナリオの組み立てや,もしくは,データ間の因果関係を捉えようとすると,何か新しいものが見えてくることもあるのだろう,ということです。勿論,科学的な表現(学会発表のポスターや論文の図表,加えて,そういうビジュアル面のみならず,発表のテキスト自体についても)の中にも,アーティスティックな部分があるほど,内容を多くの人に興味深く理解してもらえることでしょうし,そういう部分にもアートの心は効いてくるとも思われます。

そうか,昨年度の2年生の選択アドバンスコースで,皆で「岡山県立美術館」や「大原美術館」に出向いたことも,こう考えれば,なかなかどうして,実は,実験の quality を高めるには役立っているのかも,なんてことも思えてきます。

学会で,空き時間でも出来たら,そこここの都市の美術館でも巡ってみましょうか。  それも楽しいかも。


医療の世界では,もうここ10年近く患者様のQOL:の向上ということが謳われてきております。

その文言を拝借する訳ではないですが,我々は,Quality of Experiments, Quality of Research (QOE or QOR) の向上に努めていかなければならないと痛感しております。

それでは,新年度も頑張りましょう。

三浦先生,畑田さん,宜しくお願いします。仲良く頑張って行きましょう。</FONT>


大槻 記